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Episode.5-H-d~時間の無駄?~

前話:Episode.5-H-c

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/30/

 今日もまた、雨だった。忘れていたが、もう梅雨の時期なのだろう。

 雨粒が鉄扉の向こうを叩く音が、昨日と変わらず、階段の空間に静かに響いていた。圭と雪那は、昨日と同じ場所に並んで腰を下ろしていた。

 黙々と、それぞれの弁当の中身を口に運ぶ。特に会話はない。

 けれど、それでよかった。話すことがないのは当然だった。

 “自分のような、喋ること自体がレアイベントの人間が、同じ相手と毎日会って、毎回新しい話題を提供できるわけがない。”

 そもそも、初日に用意していた持ちネタなど、とっくに底をついている。それ以降は、沈黙を間に挟みながら少しずつ関係を保ってきただけだ。

 それでも、隣にいてくれることがありがたかった。

 ふと、思い出したことがあった。

 雪那が三年生の教室に通っていたという噂――。

 圭は昨日、クラスメイトにその様子を聞いたのだ。なんでも、彼女はフラフラと廊下を歩き回りながら、教室の中を覗いていたらしい。中の誰かを探している様子もなく、ただ無目的に。

 調子のいい男子が軽く声をかけたところ、即座に拒絶され、一方で、心配そうに話しかけてきた人とは普通に会話をしていたという。


 「目的が分かんなくて、三年生の人たちも困惑してたらしいよ」


 そう言われたとき、圭は妙に納得した。彼女の行動は、表面的には不思議に見えるかもしれないが、自分には分かる気がした。

 彼女はただ、選択を委ねられる誰かを――依存できる人を探していたのだ。

 だが、それは事情を知らない者から見れば、ただの不審者にしか映らない。聞けば、ついには先生が出てきて、雪那をその場から追い返そうとしたらしい。

 “――やっぱり、あの時声をかけてよかった”

 タイミングは、悪くなかったのだ。少なくとも、あのまま放っておいたら、彼女の立場はさらに孤立していたかもしれない。

 そんなことを思いながら、隣の雪那の横顔をそっと見る。

 途端、彼女がこちらに目を向けた。


「……何?」

「いや、別に」


 一拍のやりとり。

 今日の会話は、それだけだった。

 それでも、それで十分だった。

 箸を置いた頃、階段の小窓から見える空はまだ灰色のままだった。

 雨は変わらず、ポツポツと音を立てて降っている。


「明日は、晴れるといいけどな……」


 圭はそう呟いて、静かに弁当の蓋を閉じた。

【選択肢1】:

 次の日も雪那を追いかける→5-H-eへ

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/32/


【選択肢2】:

 諦める→5-Iへ

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/41/

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