Episode.5-H-d~時間の無駄?~
前話:Episode.5-H-c
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今日もまた、雨だった。忘れていたが、もう梅雨の時期なのだろう。
雨粒が鉄扉の向こうを叩く音が、昨日と変わらず、階段の空間に静かに響いていた。圭と雪那は、昨日と同じ場所に並んで腰を下ろしていた。
黙々と、それぞれの弁当の中身を口に運ぶ。特に会話はない。
けれど、それでよかった。話すことがないのは当然だった。
“自分のような、喋ること自体がレアイベントの人間が、同じ相手と毎日会って、毎回新しい話題を提供できるわけがない。”
そもそも、初日に用意していた持ちネタなど、とっくに底をついている。それ以降は、沈黙を間に挟みながら少しずつ関係を保ってきただけだ。
それでも、隣にいてくれることがありがたかった。
ふと、思い出したことがあった。
雪那が三年生の教室に通っていたという噂――。
圭は昨日、クラスメイトにその様子を聞いたのだ。なんでも、彼女はフラフラと廊下を歩き回りながら、教室の中を覗いていたらしい。中の誰かを探している様子もなく、ただ無目的に。
調子のいい男子が軽く声をかけたところ、即座に拒絶され、一方で、心配そうに話しかけてきた人とは普通に会話をしていたという。
「目的が分かんなくて、三年生の人たちも困惑してたらしいよ」
そう言われたとき、圭は妙に納得した。彼女の行動は、表面的には不思議に見えるかもしれないが、自分には分かる気がした。
彼女はただ、選択を委ねられる誰かを――依存できる人を探していたのだ。
だが、それは事情を知らない者から見れば、ただの不審者にしか映らない。聞けば、ついには先生が出てきて、雪那をその場から追い返そうとしたらしい。
“――やっぱり、あの時声をかけてよかった”
タイミングは、悪くなかったのだ。少なくとも、あのまま放っておいたら、彼女の立場はさらに孤立していたかもしれない。
そんなことを思いながら、隣の雪那の横顔をそっと見る。
途端、彼女がこちらに目を向けた。
「……何?」
「いや、別に」
一拍のやりとり。
今日の会話は、それだけだった。
それでも、それで十分だった。
箸を置いた頃、階段の小窓から見える空はまだ灰色のままだった。
雨は変わらず、ポツポツと音を立てて降っている。
「明日は、晴れるといいけどな……」
圭はそう呟いて、静かに弁当の蓋を閉じた。
【選択肢1】:
次の日も雪那を追いかける→5-H-eへ
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【選択肢2】:
諦める→5-Iへ
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