Episode.5-H-c~もう私にかまわないで~
前話:Episode.5-H-b
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今日は朝から雨が降っていた。屋上には出られない。だから二人は、屋上へと続く扉の前――その手前の階段に腰を下ろしていた。
冷たいコンクリートの感触が制服越しにじわじわと伝わる。時折、鉄扉の向こうから雨粒が屋上の床を叩く音が聞こえてくる。
それは規則的で、どこか心を静かにさせるリズムだった。
隣には雪那がいた。膝の上に小さなお弁当箱をのせ、黙々と食事を進めている。
無言。けれどそれは、気まずさから来るものではなかった。最近、教室では雪那の名前が囁かれることも減ってきた。三年生の教室へ出入りしていたという妙な噂も、時間とともに薄れていったのだろう。
クラスの空気は落ち着きを取り戻しつつある。
だが――だからと言って、雪那がクラスに馴染もうとしている様子はなかった。誰かに話しかけるでもなく、誰かと笑い合うでもなく。 そして、クラスメイトたちもまた、彼女に関わろうとはしなかった。
結局のところ、今の彼女に話しかけるのは圭だけだった。
それも、まともな会話と呼べるものではない。
引き止めて、一緒に弁当を食べるだけ。ときどき圭が言葉を投げ、それに雪那が短く返すだけ。
それでも、圭はそれでいいと思っていた。
自分のしていることが、彼女にとって迷惑かもしれないこと。
余計なお世話であることも。
彼女の時間を奪っていることも。
全部、分かっていた。
けれど――それでも、彼女のことが心配だった。
屋上に行けない日でも、こうして一緒にいられること。
それだけで、少しだけ安堵する自分がいることを、否定できなかった。
雨音と沈黙だけが満ちる階段の空間。
やがて、教室に戻るよう告げるチャイムが鳴った。
音は遠く、冷たく、どこか現実へ引き戻す合図のように響いた。
二人は無言のまま立ち上がる。
何も語らず、ただ、それぞれの手に弁当箱を持って。
今日もまた、言葉はなかった。
だが、沈黙のなかには確かに“何か”があった。
それだけで、今は十分だった。
【選択肢1】:
次の日も雪那を追いかける→5-H-dへ
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【選択肢2】:
諦める→5-Iへ
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