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せつな  作者: 666
春編
30/817

Episode.5-H-c~もう私にかまわないで~

前話:Episode.5-H-b

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/29/

 今日は朝から雨が降っていた。屋上には出られない。だから二人は、屋上へと続く扉の前――その手前の階段に腰を下ろしていた。

 冷たいコンクリートの感触が制服越しにじわじわと伝わる。時折、鉄扉の向こうから雨粒が屋上の床を叩く音が聞こえてくる。

 それは規則的で、どこか心を静かにさせるリズムだった。

 隣には雪那がいた。膝の上に小さなお弁当箱をのせ、黙々と食事を進めている。

 無言。けれどそれは、気まずさから来るものではなかった。最近、教室では雪那の名前が囁かれることも減ってきた。三年生の教室へ出入りしていたという妙な噂も、時間とともに薄れていったのだろう。

 クラスの空気は落ち着きを取り戻しつつある。

 だが――だからと言って、雪那がクラスに馴染もうとしている様子はなかった。誰かに話しかけるでもなく、誰かと笑い合うでもなく。 そして、クラスメイトたちもまた、彼女に関わろうとはしなかった。

 結局のところ、今の彼女に話しかけるのは圭だけだった。

 それも、まともな会話と呼べるものではない。

 引き止めて、一緒に弁当を食べるだけ。ときどき圭が言葉を投げ、それに雪那が短く返すだけ。

 それでも、圭はそれでいいと思っていた。

 自分のしていることが、彼女にとって迷惑かもしれないこと。

 余計なお世話であることも。

 彼女の時間を奪っていることも。


 全部、分かっていた。


 けれど――それでも、彼女のことが心配だった。

 屋上に行けない日でも、こうして一緒にいられること。

 それだけで、少しだけ安堵する自分がいることを、否定できなかった。

 雨音と沈黙だけが満ちる階段の空間。

 やがて、教室に戻るよう告げるチャイムが鳴った。

 音は遠く、冷たく、どこか現実へ引き戻す合図のように響いた。

 二人は無言のまま立ち上がる。

 何も語らず、ただ、それぞれの手に弁当箱を持って。

 今日もまた、言葉はなかった。

 だが、沈黙のなかには確かに“何か”があった。

 それだけで、今は十分だった。

【選択肢1】:

 次の日も雪那を追いかける→5-H-dへ

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/31/


【選択肢2】:

 諦める→5-Iへ

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/41/

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