Episode.5-H-b~暇な人~
前話:Episode.5-H-a
https://ncode.syosetu.com/n6562kv/28/
屋上に続く階段を上りきった途端、雪那は振り返りもせずに言った。
「暇なの? 時間が勿体ないよ」
その声音には、いつも通りの感情の薄さに混じって、どこか呆れた色が含まれていた。
圭は肩をすくめるようにして、彼女の隣へと歩み寄る。
「お昼にやらないといけないことなんて……せいぜいお昼ご飯食べるくらいだし。みんな大体、暇だよ」
それに対する返答は簡素だった。
「……屁理屈」
ぽつりとこぼすように言うと、雪那は鞄から弁当箱を取り出した。
淡いピンク色の、どこか子どもっぽいデザイン。
そのギャップに、思わず圭は微かに笑みをこぼす。
「……お弁当、持ってきたんだね」
「……どうせ、お昼にやりたいことできないから」
そっけなく言いながらも、雪那は手際よく蓋を開ける。
中には、昨晩の残り物らしい煮物や卵焼き、冷凍食品のからあげが整然と並んでいた。
どこか辛辣で、皮肉めいた言葉が並ぶ。
それなのに、今日の彼女は少しだけ――人間らしかった。
「……そっか」
圭は自分の弁当を広げながら、そっと彼女の横顔を盗み見る。
風がふわりと吹いて、雪那の髪を揺らした。
最近の彼女は、どこか諦めたような目をしながらも、何かを計っているような、そんな雰囲気をまとっている。
今日だって、探しに行く前から席でこちらを待っていた。まるで、来るのが分かっていたかのように。
それでも圭は、それを「辛辣」とは受け取らなかった。
彼女が投げる棘のある言葉が、どこか嬉しくさえ感じた。
“ほんの少しでも、心を開いてくれているのかもしれない”
そんな淡い希望を、手のひらの中でそっと包み込むように感じていた。
空を見上げれば、今日の空にはぽつぽつと白い雲が浮かんでいた。
真っ青なキャンバスに、点を打つように漂う小さな雲たち。
その不揃いな形が、なんだか人の心のようにも思えた。
【選択肢1】:
次の日も雪那を追いかける→5-H-cへ
https://ncode.syosetu.com/n6562kv/30/
【選択肢2】:
諦める→5-Iへ
https://ncode.syosetu.com/n6562kv/41/




