Episode.5-G~フラグ~
前話:Episode.4-D
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頼んだのは、深煎りのコーヒーだった。
香ばしい香りが湯気とともに立ちのぼり、鼻腔を穏やかにくすぐる。
カップを受け取った圭は、続けて自分用に軽めのランチセットを追加で頼んだ。
「まだ、お昼食べてないでしょ?」
そう尋ねると、雪那は静かに「うん」と頷き、再び無言に戻る。
二人はそれぞれの飲み物と食事に手を伸ばし、会話のないまま、カトラリーの音だけがテーブルに響く。
このカフェ特有の静けさが、空気のすき間を心地よく満たしていた。
(やっぱり……ここは落ち着く)
コーヒーをひと口飲みながら、圭はそっと雪那の横顔を見た。
窓の向こうから注ぐ日差しが、彼女の白い頬を淡く染めている。
食後、テーブルに残った食器を静かに片付けるタイミングで、ふと訊いてみた。
「昔……君が関係を結んでた人って、どんな人だったの?」
突飛な質問だと自分でも思った。
けれど、それは純粋な興味ではなく――“自分は、どうして選ばれたのか”を知りたいという感情に近かった。
雪那はすぐには答えず、コーヒーの入ったカップに視線を落とした。
「……自分勝手な人ばかりだったよ」
その声は、表情以上に冷めていた。
「みんなして、私のことを振り回して。でも、それでよかった。私は何も決めなくていいもの」
言葉だけを聞けば、彼女がその状況に納得していたようにも感じられる。
だが、圭は尋ねた。
「……嫌なこととかなかったの?」
少しの沈黙ののち、雪那はぼそりと答えた。
「……あったよ。そういう人もいた。不埒な人とか、私のことをアクセサリーみたいに扱う人とか」
口調は淡々としていたが、どこか目が揺れていた。
(――聞けてよかった)
その話が嬉しいわけではない。
でも、“無かった”と言われるよりも、ずっと良かった。
彼女が確かに何かを感じ、何かを抱えて、今ここにいるのだと知れたから。
圭はそっと、指先で自分のカップを撫でた。
(自分は……絶対に、そうならない)
ただその一心で、言葉にはせず、静かに決意を刻んだ。
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