Episode.5-E~ホッと一息~
前話:Episode.4-C
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駅前のカフェは、放課後の賑わいの中にあっても、どこか落ち着いた空気を保っていた。
小さな丸テーブルの向かいに、雪那が座っている。
メニューを一通り見た末、圭は自分が頼んだのと同じ――アメリカンコーヒーを彼女にも選んだ。
「砂糖、いる?」
そう訊ねると、雪那はゆっくり首を振った。
「私、苦いほうが好きだから」
その言葉に、無理しているような色はなかった。表情も、声音も――普段と何も変わらない。それでも、その“変わらなさ”の中に、確かな真実があるように思えた。
二人の前に、湯気の立つカップが置かれる。雪那は何も言わず、コーヒーに口をつけた。
圭もそれに倣う。
口に広がるほろ苦さが、店内に漂う甘いスイーツの匂いを打ち消してくれる。それがなんとなく心地よかった。
何か話さなければ――そんな思いが胸をよぎる。
けれど、ちょうどその時、隣の席の女子たちが笑い声を上げた。アイスパフェだの、推しの話だの、軽やかで明るい声が壁を越えてこちらに流れ込んでくる。
その波に圭の声は飲み込まれて、口を開くタイミングを見失ってしまった。焦りと沈黙が同時に押し寄せる。何か言わなければ、何も起こらないまま時間だけが過ぎていく。
けれど、口は動かなかった。
「……このコーヒー、美味しいね」
不意に、雪那がそう言った。
圭は思わず顔を上げる。
カップを両手で包み込むようにして持ちながら、雪那はぼんやりと窓の外を見ていた。
「ここ、アメリカンがすごい美味しいんだ」
「……うん。そうなんだ」
短く応えると、少し間が空いた。
「……どうして、コーヒー好きなの?」
自然に出たその問いに、雪那は少しだけ視線を落とした。
カップの底を見つめるようにして、ぼそりと呟く。
「昔の、関係相手が……そうだったから。私も、飲まされてた」
最初は、苦手だった。
でも、今はもう慣れた。
そう言って、雪那はまた一口、コーヒーを口に運んだ。
その姿に、圭は何も言えなかった。
“慣れた”――その言葉の重みを、彼は知っている。
選ばされ、委ねられ、従ってきたその果てに残ったのが「慣れ」ならば――
それは果たして、好みと言っていいのだろうか。
けれど、今ここにいる彼女は、確かに自分の手でカップを持ち、自分の意思でそれを口にしていた。
それだけで、今は十分なのかもしれない。
窓の外、駅前の通りを行き交う人々の姿が、ぼんやりと滲んで見えた。
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