Episode.5-D~ホッと一息~
前話:Episode.4-C
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迷いながらも、圭はカウンターの上部に大きく掲げられていた、カラフルな新発売メニューに視線を止めた。
ホイップクリームにベリーソース、トッピングされたマカロン。甘さが視覚から迫ってくるような一杯――女子向けだと、誰もが一目でわかる代物。
(女の子は甘いのが好き……たぶん)
それは完全に偏見に近い想像だったが、外しているわけでもない。“正解ではないが、間違ってもいない”という消極的な安心感に身を預け、注文を決めた。
自分は、いつも通りのオーソドックスなホットコーヒーを。店員に受け取った甘ったるいドリンクのケバケバしさに、思わず目を細める。
そっと雪那のもとへ向かうと、彼女はすでに窓際の席で静かに座っていた。
何も言わず、圭は彼女の前にそのドリンクを置く。
雪那はその様子を見ても、特に目を輝かせることもなかった。
写真を撮るでもなく、表情を変えるでもなく、ただ静かにストローを口に咥え、ゆっくりと甘い液体を吸い込む。
(……そういうタイプじゃないのか)
カフェでよく見かける“映え”を気にする女子高生たちとは、やはり違う。
彼女のそっけなさを見て、圭はそう思った。
周囲では制服姿の女子たちが賑やかに談笑している。それらの声に囲まれながら、二人のテーブルだけが、不自然なほど静寂に包まれていた。
――――――
「……何も聞かないんだね」
その言葉が、突然ぽつりと落ちてきた。
圭は顔を上げる。
雪那はカップに両手を添えたまま、視線だけをこちらに向けていた。
目元に感情の影はない。だが、その言葉の裏にあるものは、圭を静かに引っかかせる。
「……何か聞いてほしいの?」
そう問い返すと、雪那は首を横に振った。
けれどその仕草には、どこか微かな迷いが見えた気がした。
圭は戸惑いながらも、その意味を探ろうとする。だが、彼女はそれ以上、何も言わない。
ただ――もう一度、視線を落としながら、ぼそっと呟いた。
「……苦いのが、好き」
その言葉に、圭はようやくすべてを理解した。
「……そうなんだ。ごめん。今度から、そうするよ」
そう答えるのが、精一杯だった。
謝罪が必要だったのかも分からない。
だが、それ以外に言える言葉が、彼にはなかった。
雪那は、何も言わなかった。
ただまた、カップを手に取り、ゆっくりと口をつけた。
――どうやら、全部間違いだったようだ。
圭は、目の前の静かな少女と、そのわずかな声の意味を、ずっと考え続けていた。
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