Episode.5-B~喧騒は好奇心を駆り立てる~
前話:Episode.4-A
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「きゃー! 見て見て、このワンピかわいくない?」
「ちょっと、こっちにもいいのあったよ!」
駅前のショッピングモールの入り口から、女子たちが弾けるような勢いで駆け出していった。大きな自動ドアが開き、涼しい冷気が吹き抜ける中、笑い声が次々に店内へと吸い込まれていく。
その流れの中で、雪那もまた、女子たちに手を引かれていた。
表情こそ変わらないものの、されるがままについて行くその姿は、どこか不思議な絵面だった。けれど、今日の主役は彼女だ――ならば、それでいい。
(女子が楽しい場所を選ぶのは、当然だよな)
圭はそんなふうに思いながら、男子たちと少し距離を取りつつ歩いていた。正直、モールの女子向け店舗は自分には無縁の世界だ。だが、それでもクラス全体が楽しそうな様子を見ていると、自然と足取りも軽くなる。
「なあ、さっきのって何だったんだよ?」
突然、森川が、肘で圭の脇腹をつついてきた。
「……何が?」
「とぼけんなよ。さっき、高嶺さんがお前に話しかけてたじゃねぇか。いつの間に仲良くなったんだよ」
「……たまたまだよ。別に仲が良いとかそういうわけじゃない」
圭は肩をすくめてごまかす。
けれど、森川の目は納得していなかった。
「ふーん……まぁ、いいけどさ。抜け駆けはダメだからな!」
その言葉が冗談交じりだったとしても、圭の心には小さな波紋が広がっていた。
――――――
数十分後。
一行はモールのフードコートに集合していた。モール内を歩き回ってさすがに疲れたのか、飲み物を手に席に着く者、スマホで写真を確認する者、思い思いにくつろいでいる。
圭も雪那の隣の空席に座ろうとした、その時。
「ねえ圭くん」
声をかけてきたのは、クラスの女子の一人だった。にこにことした表情だが、その目はどこか探るような色を含んでいる。
「圭くんと雪那ちゃんって、さっきも一緒にいたし……ね? そういう感じなの?」
「えっ……いや、違うって。たまたまだって」
再びの否定。けれど、それも薄っぺらく聞こえるのか、女子たちは顔を見合わせてくすくすと笑い合う。
「じゃあ、雪那ちゃん。本当に何もないの?」
女子が雪那に話を振ると、彼女は一度だけ圭の方を見やった。
「……特別なことじゃ、ないよ」
その言葉は、確かに“否定”ではあった。けれど、それが“肯定”でもないということもまた、誰の耳にもはっきりと伝わってしまう類のものだった。
彼女の淡々とした返答が、かえって曖昧さを助長したのだ。
――そして、その日を境に、
クラスの中ではいつしか“あの二人は付き合っているらしい”という共通認識が、密やかに、しかし確かに広がりはじめていた。
誰かがそう口にすることはない。
けれど、目線や空気、ちょっとした会話の端々に、それは表れていく。
まるで、そこに明確な線引きがあるかのように。
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