Episode.4-H~二兎追うものは一兎も得ず~
前話:Episode.3-D
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雪那を追うべきか、それとも目の前にいる彼女の誘いに応じるべきか。
迷いに迷った末に、圭は机の上に視線を落としたまま、静かに息を吐いた。
「……俺を見てくれている人を、蔑ろにしちゃいけないよな」
その言葉は誰に向けたものでもなく、自分の中に響かせた答えだった。
廊下から差し込む光に導かれるように、圭は扉へと歩み寄る。
その先に立っていたのは、どこかいつもとは違う、静けさを纏った凛だった。
「えへ、来ちゃった。……ご飯一緒に食べよっ」
笑顔の裏に何かを隠すように、凛は静かに微笑んだ。
彼女の瞳はまっすぐに圭を見つめている。
その視線から逃げずに、圭は頷いた。
「うん、もちろん」
教室へと戻ると、クラスメイトたちがちらちらとこちらに視線を送ってくる。
凛が教室にいるだけで、場の空気はわずかに変わった。
圭の机のそばまで凛を案内し、ふと隣の席に目をやる。
雪那の席がぽつんと空いていた。
心のどこかで、まだ彼女が戻ってくることを願っている自分がいた。
この席を彼女以外の誰かが使うことはなんとなく憚られた。
だが、凛を立たせたままにするわけにもいかない。
結局、圭は静かに雪那の椅子を引いた。
「……ここ使っていいよ」
「うん、ありがと〜」
凛は椅子に腰掛けると、机にお弁当を広げながら、ちらりと圭を見た。
「センパイ、どうしたの? 廊下に誰かいる?」
「えっ、いや、別になんでもないよ……」
「ふーん? ま、いっか。いただきまーす!」
チラチラと視線が泳いでいたのを不自然に感じた凛がこちらに顔を寄せてくる。
彼女の指摘で初めて自分が無意識に雪那の影を探していたことに気付き、慌てて取り繕う。
圭の様子にまだ納得できていない様子を見せつつも、凛は目の前のお弁当の誘惑に負けて追求をやめた。
内心ホッとため息をついていると、クラスの女子が声をかけてきた。
お目当ては隣の凛のようだ。
「初めまして! 一年生の子ー? 可愛いー!!」
「あ、初めまして! 有栖川凛って言います!」
「苗字、珍しー! え、篠原くんとはどういう関係なの〜?」
「えーと、センパイとは……趣味友です!」
凛は人懐っこい笑顔を見せながら、楽しそうに会話を交わす。
いつの間にか、彼女の周りには何人もの女子生徒が集まり、矢継ぎ早に質問が飛び交っていた。
その様子はまるで、転校生のもとに群がる姿と非常に似ていて。
それを思い出すと、やはり彼女のことが心配になってしまう。
10分ほど経ってようやく解放された凛は少し疲れたように笑っていた。
「お疲れ様」
「……あはは、なんだか転校生の気持ちがわかった気がする」
そうして二人でお弁当を食べながら、賑やかな教室の空気に揺られていると凛がふと口を開いた。
「そういえば、さっき聞いちゃったんだけど……」
「ん?」
「この席って転校生の人の席なんだよね? なんで教室にいないの?」
「さぁ……」
「もしかして、最近センパイが悩んでるのってこの席の人のことだったりする?」
「……」
圭が黙りこくってしまったのを見て、何かを確信した凛はニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「ねぇ、席くっつけていい?」
突拍子もない言葉に圭は言葉を詰まらせる。
凛の言葉の意図はわからない。だが、この一年で彼女が変わったことは何となくわかった気がした。
【選択肢1】:
凛の要望に応える。→5-Jへ
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【選択肢2】:
凛の要望を断る。→5-Kへ
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