Episode.4-G~根比べ~
前話:Episode.3-D
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「……ごめん、また後で」
凛の言葉を遮るように、圭は振り返った。
廊下の向こう、背を向けて歩いていく雪那の姿が小さくなっていく。
それを視界に捉えながら、凛の方へと短く頭を下げた。
「センパイ……」
彼女の声には、かすかに寂しさが混じっていた。
それでも凛は笑った。自分を誤魔化すように、けれど誇らしげに。
「……ちゃんと、選べたんだね。センパイのこと、応援するよ」
いつもの調子で明るく。
その一言が、今の圭の背中を押した。
走り出す。
逃げるためではなく、向き合うために。
階段を駆け上がった先で、雪那の後ろ姿を見つけた。
彼女はもう一つ上の階へ行こうとしていた。
「待って、高嶺さん!」
足音が止まる。
ゆっくりと振り返った彼女の顔は、やはりいつものように感情の薄い無表情だった。
けれど、確かに驚いたような色が、ほんのわずかにその瞳に浮かんでいた。
「……何?」
「一緒に、昼ご飯、食べない?」
その場しのぎの言葉ではなかった。
ただの気まぐれでもなかった。
言葉を口にした瞬間、自分の中にわずかでもあった迷いは、風に吹かれて消えていた。
雪那は少しだけ首を傾げたまま、こちらを見つめる。
その仕草が、どこか小動物のようにも見えた。
「……何で?」
「理由とかないよ……ただ、一緒にどうかなって」
短く言ったその一言に、雪那はほんの少しの間をおいたあと、小さく頷いた。
昼下がりの屋上。
夏の気配が忍び寄る、高い空の下。
風がゆるやかに髪を揺らしていた。
二人並んで座り、簡単な弁当を広げる。
沈黙が少しだけ続いたあと、圭が切り出す。
「いつも……昼ご飯、どこで食べてるの?」
「……食べてない」
あまりにも淡々とした答えに、言葉を失う。
「最近、君の変な噂が広まってる。三年生の教室に行ってるとか」
「……合ってるよ」
またしても、簡潔な肯定だった。
理由は聞かない。
きっと彼女なりのルールがある。
けれど、そのルールが彼女を蝕んでいる気がして、胸が痛んだ。
雪那は、ふと立ち上がった。
空に向けて視線を投げる。
「もう……関わらないほうがいいよ」
静かな声だった。
まるで、自分自身にも言い聞かせるように。
「あなたは……他の人と違う気がする。だから、余計に……。あなたのこと、大事にしてくれる人と一緒にいた方が、きっと……いいよ」
そう言って、彼女は踵を返す。
足音はすぐに風の中へと紛れていった。
屋上に一人残された圭は、弁当を閉じることも忘れたまま、青空を見上げた。
雲ひとつない、完璧な青。
本来なら、気持ちの良いはずの空。
けれど今は、不思議と胸の奥に沈む鈍色を映しているように思えた。
“彼女を――諦めるのか、諦めないのか”
風が吹いた。
選択の時は、きっともう遠くない。
【選択肢1】:
次の日も彼女のことを追いかける→ 5-H
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【選択肢2】:
彼女のことを諦める→ 5-I
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