Episode.4-E-b~別の校舎で~
前話:Episode.4-A-a
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春の始まりとともに、新しい年度が動き出していた。
黒板には「委員会決め」と大きく書かれた文字。クラスの空気はどこか浮ついていて、あちこちで談笑の輪ができている。
そんな中で、雪那と岡田の姿が目に入った。
言葉数の少ない二人だったが、会話は確かに交わされていた。
「……同じ委員会になって」
雪那の声は小さく、それでも圭には届いていた。
岡田は目を瞬かせ、ほんの少し困ったように眉を寄せていたが、反論することもなく、ただ静かに頷いた。
“ああ、そうか”
同じ委員会であれば、放課後の活動も一緒になりやすい。
その分、関わる時間も増える。
雪那にとっては、きっとそれが「効率的」なのだろう。
彼女は今、自分の依存先を岡田に定めている。
そこに迷いは、もうないのかもしれない。
圭は静かに視線を外した。
彼女の言葉が、何の感情もなく流れていったことに――わずかな痛みを感じながら。
「文化委員、やりたい人?」
何人かの手が挙がる。
圭はその輪に加わることはなかった。
面倒ごとは御免だ。
文化祭なんて静かに過ごせばいい。それが自分にとっての「最善」だった。
「図書委員、三枝、篠原……」
担任の声が自分の名前を読み上げる。
ああ、今年もか――。
圭はため息まじりに立ち上がる。
ちょうどそのタイミングで、隣の席から声が飛んできた。
「また一緒だね、圭くん」
振り向けば、丸眼鏡の奥で目を細める三枝結菜がいた。
おさげの髪が肩先で跳ね、彼女らしい柔らかな笑みが浮かんでいる。
「……まぁ、静かに過ごせるからな」
そう言いながら、自分でも分かっていた。
これは、去年の延長線上にすぎない。
あの日、結菜を助けるかどうか迷って――そしてサイコロを振った。
1か2か。白か黒か。そのどちらかで、選んだだけ。
自分の意思では、何一つ決められなかったあの頃の僕。
そのまま、変わることもなく一年が過ぎた。
そして今、また同じ場所に戻ってきてしまった。
今年もまた、図書委員。
同じ教室、同じ空気、同じ自分。
「ねぇ、また一緒にたくさん本の話、しようね」
無邪気に笑う結菜の言葉に、圭は僅かに口元を緩めて頷いた。
その優しさが、今は少しだけ心に沁みた。
だが、それでも。
変われなかった僕は、きっと今年も――変われないまま、一年を過ごすのだろう。
気づけば窓の外では、風が校庭の若葉を揺らしていた。
春は、いつも始まりを告げる顔をして、静かに背中を押してくる。
だけど僕の足元には、まだ昨日の影が残っていた。
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