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せつな  作者: 666
春編
14/1152

Episode.4-E-b~別の校舎で~

前話:Episode.4-A-a

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/13/

 春の始まりとともに、新しい年度が動き出していた。

 黒板には「委員会決め」と大きく書かれた文字。クラスの空気はどこか浮ついていて、あちこちで談笑の輪ができている。


 そんな中で、雪那と岡田の姿が目に入った。

 言葉数の少ない二人だったが、会話は確かに交わされていた。



「……同じ委員会になって」



 雪那の声は小さく、それでも圭には届いていた。

 岡田は目を瞬かせ、ほんの少し困ったように眉を寄せていたが、反論することもなく、ただ静かに頷いた。


“ああ、そうか”


 同じ委員会であれば、放課後の活動も一緒になりやすい。

 その分、関わる時間も増える。

 雪那にとっては、きっとそれが「効率的」なのだろう。


 彼女は今、自分の依存先を岡田に定めている。

 そこに迷いは、もうないのかもしれない。


 圭は静かに視線を外した。

 彼女の言葉が、何の感情もなく流れていったことに――わずかな痛みを感じながら。



「文化委員、やりたい人?」



 何人かの手が挙がる。

 圭はその輪に加わることはなかった。

 面倒ごとは御免だ。

 文化祭なんて静かに過ごせばいい。それが自分にとっての「最善」だった。



「図書委員、三枝、篠原……」



 担任の声が自分の名前を読み上げる。

 ああ、今年もか――。


 圭はため息まじりに立ち上がる。

 ちょうどそのタイミングで、隣の席から声が飛んできた。



「また一緒だね、圭くん」



 振り向けば、丸眼鏡の奥で目を細める三枝結菜がいた。

 おさげの髪が肩先で跳ね、彼女らしい柔らかな笑みが浮かんでいる。



「……まぁ、静かに過ごせるからな」



 そう言いながら、自分でも分かっていた。

 これは、去年の延長線上にすぎない。

 あの日、結菜を助けるかどうか迷って――そしてサイコロを振った。

 1か2か。白か黒か。そのどちらかで、選んだだけ。


 自分の意思では、何一つ決められなかったあの頃の僕。

 そのまま、変わることもなく一年が過ぎた。

 そして今、また同じ場所に戻ってきてしまった。


 今年もまた、図書委員。

 同じ教室、同じ空気、同じ自分。



「ねぇ、また一緒にたくさん本の話、しようね」



 無邪気に笑う結菜の言葉に、圭は僅かに口元を緩めて頷いた。

 その優しさが、今は少しだけ心に沁みた。


 だが、それでも。

 変われなかった僕は、きっと今年も――変われないまま、一年を過ごすのだろう。


 気づけば窓の外では、風が校庭の若葉を揺らしていた。

 春は、いつも始まりを告げる顔をして、静かに背中を押してくる。


 だけど僕の足元には、まだ昨日の影が残っていた。

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/15/

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