EpisodeN.1-F~そこに目新しさはなくとも~
Episode”N”は夏編を示しています。お間違えのないよう。
前話
:Episode.13-G
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夏の陽射しが、山肌を金色に照らしていた。
登山道の脇に咲く小さな花々や、青く染まった空の輪郭さえも、まるで鮮やかな絵筆でなぞられたように瑞々しく映る。
その道を、三人の影が登っていた。
先頭を行くのは、いつも通り軽やかな足取りの凛だった。彼女のリュックの背には、水のボトルと小型のカメラが揺れている。
「あとちょっと! 頂上まで、もうすぐだよー!」
振り返り、明るく手を振る。
その後ろを、額にうっすら汗を浮かべながら結菜が静かに歩いていた。リュックの中からは、文庫本の端が顔を覗かせている。
「……登るのって、こんなに大変なんだね」
「初めてにしては上出来だよ」
その横で、結菜の歩幅に合わせて歩く圭が柔らかく笑った。
登山という趣味を共有する二人と、読書という静の世界を好む一人。共通点のない三人のはずなのに、奇妙にバランスの取れた空気がそこにはあった。
やがて、山頂に辿り着いた。
風が涼やかに頬を撫で、広がる景色が視界いっぱいに飛び込んでくる。
遠くの町並み、緑のパッチワークのような田畑、そして青空へと続く地平線。
「ふふん、どうだー? 頑張って登った甲斐、あったでしょ?」
凛が誇らしげに胸を張る。
「うん……すごく、綺麗」
結菜は息を弾ませながらも、目を細めていた。
しばらく景色を眺めた後、それぞれが自分の時間を過ごし始める。
結菜は一本の木の下に腰を下ろし、持ってきた本を開いた。風にページが揺れないよう、丁寧に指で押さえながら活字の世界へと沈んでいく。
凛はカメラを手に、夢中でシャッターを切っていた。何枚も何枚も、空や木々や町の風景をファインダー越しに追いかける。被写体はすべて、彼女の「好き」を閉じ込めるための宝物だ。
そして圭は、その二人の間をふらりと歩きながら、時折空を見上げたり、ベンチに腰掛けて深く息を吐いたりしていた。
誰かといるのに、ひとりになれる。
ひとりでいても、誰かがいる。
そんな不思議な時間が、ゆっくりと流れていった。
凛が最後の一枚を撮り終えた頃。
彼女はスマホを手に取り、少し戸惑った様子で圭の方へ歩いてきた。
「ねえ、圭くん」
「ん?」
「明日なんだけどさ――プール、行かない?」
思わず視線を上げると、凛はにっこり笑っていた。
「クラスの子たちから、夏休みだし遊ぼうって誘われてて……でも、どうせなら三人で行きたいなって思って」
「三人で、って……俺と、結菜も?」
「もちろん」
その言葉に、結菜も読書を中断し、顔を上げた。
「……うん、わたしも行ってみたいかも」
ぽつりと呟かれたその一言は、風に乗って圭の耳へ届いた。
蝉の声が、ふいに強くなる。
この夏が、まだ始まったばかりであることを告げるように。
【選択肢1】:
プールに行く→N.2-Iへ
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【選択肢2】:
別のことをする→N.2-Jへ
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