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せつな  作者: 666
夏編
133/1444

EpisodeN.1-F~そこに目新しさはなくとも~

Episode”N”は夏編を示しています。お間違えのないよう。

前話

:Episode.13-G

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/104/

 夏の陽射しが、山肌を金色に照らしていた。

 登山道の脇に咲く小さな花々や、青く染まった空の輪郭さえも、まるで鮮やかな絵筆でなぞられたように瑞々しく映る。

 その道を、三人の影が登っていた。

 先頭を行くのは、いつも通り軽やかな足取りの凛だった。彼女のリュックの背には、水のボトルと小型のカメラが揺れている。


「あとちょっと! 頂上まで、もうすぐだよー!」


 振り返り、明るく手を振る。

 その後ろを、額にうっすら汗を浮かべながら結菜が静かに歩いていた。リュックの中からは、文庫本の端が顔を覗かせている。


「……登るのって、こんなに大変なんだね」

「初めてにしては上出来だよ」


 その横で、結菜の歩幅に合わせて歩く圭が柔らかく笑った。

 登山という趣味を共有する二人と、読書という静の世界を好む一人。共通点のない三人のはずなのに、奇妙にバランスの取れた空気がそこにはあった。

 やがて、山頂に辿り着いた。

 風が涼やかに頬を撫で、広がる景色が視界いっぱいに飛び込んでくる。

 遠くの町並み、緑のパッチワークのような田畑、そして青空へと続く地平線。


「ふふん、どうだー? 頑張って登った甲斐、あったでしょ?」


 凛が誇らしげに胸を張る。


「うん……すごく、綺麗」


 結菜は息を弾ませながらも、目を細めていた。

 しばらく景色を眺めた後、それぞれが自分の時間を過ごし始める。

 結菜は一本の木の下に腰を下ろし、持ってきた本を開いた。風にページが揺れないよう、丁寧に指で押さえながら活字の世界へと沈んでいく。

 凛はカメラを手に、夢中でシャッターを切っていた。何枚も何枚も、空や木々や町の風景をファインダー越しに追いかける。被写体はすべて、彼女の「好き」を閉じ込めるための宝物だ。

 そして圭は、その二人の間をふらりと歩きながら、時折空を見上げたり、ベンチに腰掛けて深く息を吐いたりしていた。

 誰かといるのに、ひとりになれる。

 ひとりでいても、誰かがいる。

 そんな不思議な時間が、ゆっくりと流れていった。

 凛が最後の一枚を撮り終えた頃。

 彼女はスマホを手に取り、少し戸惑った様子で圭の方へ歩いてきた。


「ねえ、圭くん」

「ん?」

「明日なんだけどさ――プール、行かない?」


 思わず視線を上げると、凛はにっこり笑っていた。


「クラスの子たちから、夏休みだし遊ぼうって誘われてて……でも、どうせなら三人で行きたいなって思って」

「三人で、って……俺と、結菜も?」

「もちろん」


 その言葉に、結菜も読書を中断し、顔を上げた。


「……うん、わたしも行ってみたいかも」


 ぽつりと呟かれたその一言は、風に乗って圭の耳へ届いた。

 蝉の声が、ふいに強くなる。

 この夏が、まだ始まったばかりであることを告げるように。


【選択肢1】:

 プールに行く→N.2-Iへ

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/142/


【選択肢2】:

 別のことをする→N.2-Jへ

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/143/


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