EpisodeN.1-E~僕らの夏休みに静寂はいらない~
Episode”N”は夏編を示しています。お間違えのないよう。
前話
:Episode.11-J
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夏の朝は、どこまでも澄みきっていた。
山の斜面をなぞる風は、下界の熱気を置き去りにして、肌を心地よく撫でてゆく。木々の間を縫うようにして届く日差しは、まるで光の粒を撒き散らしているようだった。
圭は登山道の脇に足を止め、ひと息つく。息はそこまで上がっていない。凛との山登りにも、もうすっかり慣れていた。
「はーっ、やっぱ山はいいねぇ〜〜っ!」
先を歩いていた凛が、両腕を大きく広げながら振り返る。朝露に濡れた頬が陽の光を弾いていた。
その笑顔には、登山の苦しさなど微塵も感じさせない。
「ねえセンパイ、ちゃんと楽しんでる? また黙って歩いてるだけだったからさ〜」
「楽しんでるよ。……言葉にしなくても、分かるだろ?」
「んー……うーん……まあ、センパイの口から『楽しい』なんて出てくるの、けっこうレアだもんねぇ」
凛はからかうように口を尖らせた後、あはっと軽く笑った。
その無邪気な笑い声に、圭はほんの少しだけ肩の力を抜いた。
――――――――
山頂の開けた場所に出たのは、それから五分ほどあとだった。
眼下には街の風景が広がっていた。低く並ぶ屋根の群れと、その奥で揺れる緑の海。どこまでも続く青空は、まるで世界が解放されたかのような錯覚を与える。
凛は風に髪を遊ばせながら、その景色をしばらく黙って眺めていた。
言葉よりも、その沈黙が彼女の感情を物語っているようだった。
「やっぱり……この時間が一番好き」
凛が、ぽつりと呟くように言った。
「誰にも邪魔されないし、自分の心の音だけが聞こえる」
「……心の音?」
「うん。たとえばさ、あたしが今、何かお願いしても、ここだったらセンパイ、ちゃんと聞いてくれる気がするんだよね」
圭は凛の横顔を見た。冗談めかした口ぶりのくせに、その瞳だけは真っ直ぐだった。
「お願いって……何?」
「んふふ。……あのさ、今度の休み――一緒にプール行かない?」
目を細めながら、凛がくるりと向き直る。
明るく笑ってはいるが、その奥にあるものを、圭は見逃さなかった。
「できればさ……センパイに水着、選んでほしいなぁって」
頬を指でつつきながら、照れ隠しのように視線を泳がせる凛。
けれどその言葉のひとつひとつは、まっすぐに圭へ向けられていた。
彼女はきっと、軽い気持ちで言ったわけじゃない。
この時間、この場所、誰にも届かない場所で口にするからこそ――そこに込められた気持ちは、確かなものだった。
風が、ふたりの間をやさしく吹き抜けていった。
【選択肢1】:
プールに行こう→N.2-Gへ
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【選択肢2】:
別のところにしよう→N.2-Hへ
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