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せつな  作者: 666
夏編
132/1444

EpisodeN.1-E~僕らの夏休みに静寂はいらない~

Episode”N”は夏編を示しています。お間違えのないよう。

前話

:Episode.11-J

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/87/

 夏の朝は、どこまでも澄みきっていた。

 山の斜面をなぞる風は、下界の熱気を置き去りにして、肌を心地よく撫でてゆく。木々の間を縫うようにして届く日差しは、まるで光の粒を撒き散らしているようだった。

 圭は登山道の脇に足を止め、ひと息つく。息はそこまで上がっていない。凛との山登りにも、もうすっかり慣れていた。


「はーっ、やっぱ山はいいねぇ〜〜っ!」


 先を歩いていた凛が、両腕を大きく広げながら振り返る。朝露に濡れた頬が陽の光を弾いていた。

 その笑顔には、登山の苦しさなど微塵も感じさせない。


「ねえセンパイ、ちゃんと楽しんでる? また黙って歩いてるだけだったからさ〜」

「楽しんでるよ。……言葉にしなくても、分かるだろ?」

「んー……うーん……まあ、センパイの口から『楽しい』なんて出てくるの、けっこうレアだもんねぇ」


 凛はからかうように口を尖らせた後、あはっと軽く笑った。

 その無邪気な笑い声に、圭はほんの少しだけ肩の力を抜いた。



――――――――



 山頂の開けた場所に出たのは、それから五分ほどあとだった。

 眼下には街の風景が広がっていた。低く並ぶ屋根の群れと、その奥で揺れる緑の海。どこまでも続く青空は、まるで世界が解放されたかのような錯覚を与える。

 凛は風に髪を遊ばせながら、その景色をしばらく黙って眺めていた。

 言葉よりも、その沈黙が彼女の感情を物語っているようだった。


「やっぱり……この時間が一番好き」


 凛が、ぽつりと呟くように言った。


「誰にも邪魔されないし、自分の心の音だけが聞こえる」

「……心の音?」

「うん。たとえばさ、あたしが今、何かお願いしても、ここだったらセンパイ、ちゃんと聞いてくれる気がするんだよね」


 圭は凛の横顔を見た。冗談めかした口ぶりのくせに、その瞳だけは真っ直ぐだった。


「お願いって……何?」

「んふふ。……あのさ、今度の休み――一緒にプール行かない?」


 目を細めながら、凛がくるりと向き直る。

 明るく笑ってはいるが、その奥にあるものを、圭は見逃さなかった。


「できればさ……センパイに水着、選んでほしいなぁって」


 頬を指でつつきながら、照れ隠しのように視線を泳がせる凛。

 けれどその言葉のひとつひとつは、まっすぐに圭へ向けられていた。

 彼女はきっと、軽い気持ちで言ったわけじゃない。

 この時間、この場所、誰にも届かない場所で口にするからこそ――そこに込められた気持ちは、確かなものだった。

 風が、ふたりの間をやさしく吹き抜けていった。


【選択肢1】:

 プールに行こう→N.2-Gへ

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/140/


【選択肢2】:

 別のところにしよう→N.2-Hへ

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/141/

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