EpisodeN.1-C~君が見えない夏を観る~
Episode”N”は夏編を示しています。お間違えのないよう。
前話
:Episode.15-C
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夏の朝は、思いのほか静かだった。
陽射しはまだ傾き、木々の影を斜めに伸ばしている。山のふもとを吹き抜ける風は、街よりもずっと涼しくて、耳元で葉擦れの音を連れてきた。
圭は、小さく息をつきながら、登山道の中腹に立ち止まる。
ふとスマートフォンを取り出して、通知の欄を確認する――が、画面には何も表示されていない。圏内のはずなのに、なぜかその事実に落胆してしまう自分がいた。
「……センパイ、最近ずっとスマホ見てない?」
振り返ると、すぐ後ろにいた凛が口を尖らせていた。
陽に焼けた頬と、首にかけたタオル。朝の光に照らされたその姿は、まるで夏そのもののようだった。
「ごめん、つい……」
「ま、別に責めてるわけじゃないけどさー。でも、ずっとスマホに貼りついてるのって、見てるこっちがしんどいよ?」
そう言うと凛は、小さく肩をすくめて笑った。
「連絡が来るかもって、そんなにビクビクしてるなら、山登りなんて来なきゃいいのに」
からかうような声だったが、その瞳にはどこか本気の色があった。
圭は言葉を返せずに、視線を逸らす。
「……あたしは先に行くね。頂上、空気きれいだし」
それだけ言って、凛は手を振って、軽やかに歩き出した。あっという間に、木立の奥へと姿を消していく。
圭はその背中を、ただ見送るしかなかった。
――――――――
残された登山道に、静けさが戻る。
鳥のさえずりと、風に揺れる葉の音が交互に耳を打つ。
その中にひとり、圭は木陰に腰を下ろした。
木漏れ日が、落ち葉の上に模様を描いている。
空を見上げると、枝葉の隙間から覗く青が、どこまでも深かった。
しばらく目を閉じて、呼吸を整える。
過剰に神経質になっていたことを、自分でも分かっていた。分かっていたが――どうしても、気になってしまう。
ポケットの中でスマートフォンが震えたのは、その時だった。
「……っ!」
圭は反射的に画面を確認する。
差出人の名前に、喉の奥が詰まる。
高嶺雪那。
文面は短く、事務的だった。
『今、大丈夫?』
それだけの言葉に、意味を探してしまう自分がいた。
その問いかけの裏に、何があるのか。
それを知らないままでは、返信すら選べない。
手の中で、スマホの画面が滲んだ気がした。
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