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せつな  作者: 666
夏編
130/1444

EpisodeN.1-C~君が見えない夏を観る~

Episode”N”は夏編を示しています。お間違えのないよう。

前話

:Episode.15-C

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/122/

 夏の朝は、思いのほか静かだった。

 陽射しはまだ傾き、木々の影を斜めに伸ばしている。山のふもとを吹き抜ける風は、街よりもずっと涼しくて、耳元で葉擦れの音を連れてきた。

 圭は、小さく息をつきながら、登山道の中腹に立ち止まる。

 ふとスマートフォンを取り出して、通知の欄を確認する――が、画面には何も表示されていない。圏内のはずなのに、なぜかその事実に落胆してしまう自分がいた。


「……センパイ、最近ずっとスマホ見てない?」


 振り返ると、すぐ後ろにいた凛が口を尖らせていた。

 陽に焼けた頬と、首にかけたタオル。朝の光に照らされたその姿は、まるで夏そのもののようだった。


「ごめん、つい……」

「ま、別に責めてるわけじゃないけどさー。でも、ずっとスマホに貼りついてるのって、見てるこっちがしんどいよ?」


 そう言うと凛は、小さく肩をすくめて笑った。


「連絡が来るかもって、そんなにビクビクしてるなら、山登りなんて来なきゃいいのに」

 からかうような声だったが、その瞳にはどこか本気の色があった。

 圭は言葉を返せずに、視線を逸らす。


「……あたしは先に行くね。頂上、空気きれいだし」


 それだけ言って、凛は手を振って、軽やかに歩き出した。あっという間に、木立の奥へと姿を消していく。

 圭はその背中を、ただ見送るしかなかった。



――――――――



 残された登山道に、静けさが戻る。

 鳥のさえずりと、風に揺れる葉の音が交互に耳を打つ。

 その中にひとり、圭は木陰に腰を下ろした。

 木漏れ日が、落ち葉の上に模様を描いている。

 空を見上げると、枝葉の隙間から覗く青が、どこまでも深かった。

 しばらく目を閉じて、呼吸を整える。

 過剰に神経質になっていたことを、自分でも分かっていた。分かっていたが――どうしても、気になってしまう。

 ポケットの中でスマートフォンが震えたのは、その時だった。


「……っ!」


 圭は反射的に画面を確認する。

 差出人の名前に、喉の奥が詰まる。

 高嶺雪那。

 文面は短く、事務的だった。


『今、大丈夫?』


 それだけの言葉に、意味を探してしまう自分がいた。

 その問いかけの裏に、何があるのか。

 それを知らないままでは、返信すら選べない。

 手の中で、スマホの画面が滲んだ気がした。


続き→N.2-Eへ

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/138/

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