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せつな  作者: 666
夏編
129/1444

EpisodeN.1-BB~夏の匂いと春の忘れ物~

Episode”N”は夏編を示しています。お間違えのないよう。

前話

:Episode.15-BB

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/125/

 夏の日差しが、容赦なく全身を焦がしていた。

 木々は緑濃く、その枝葉は風を孕みながらざわめいている。春に花を咲かせていた頃とは、まるで別物の世界だ。圭は山頂で一人、木陰に腰を下ろし、幹に背を預けていた。額に落ちる汗を指で拭うと、真っ青な空が視界に広がる。


 遠くで蝉が鳴いていた。連なる声が山の空気に響いて、まるで夏を宣言しているかのようだ。


 圭は景色を眺めながら、先ほど終わった終業式のことを思い返す。


「来年は受験で遊べないだろうから、今のうちに遊んどけよー」


 担任が笑いながら言ったその言葉は、冗談のようでいて、現実を鋭く突いていた。仮にも教師がそんなことを口にしていいのか――そう思ったが、確かにその通りなのだろう。何の気兼ねもなく遊べる夏など、きっともう二度と来ない。


 ――夏らしいこと。

 そう考えたから、ここに来たのだ。静かな場所で、風を感じながら、何をしようかと頭を巡らせるために。

 けれど、考えたところで何も浮かばない。それもそうだ。今まで夏らしいことをしてこなかったのだから。


 それでも、不思議と焦りはなかった。今年は何か、夏らしいことに一歩近づけそうな、そんな気がしていた。

 ……ただ、ほんの少しだけ、胸の奥に引っかかるものがある。

 まるで何かを――何か、重要なことを――忘れているような。


 その予感は、終業式のあとに訪れた。

 教室を出ようとした瞬間、隣の席の少女が声をかけてきたのだ。


「――篠原君」


 圭は木々の間から覗く空を仰いだ。

 脳裏に残る声と、いま聞こえる現実の音が重なる。

 振り返るとそこには、雪那が立っていた。

 白い半袖のブラウスに、淡い色のスカート。陽射しに透ける髪が、夏の光を柔らかく反射している。


 圭はわずかな動揺を隠すように、上擦った声をあげた。


「どうしてここが分かったの?」


 彼女はわずかに息を弾ませながら答えた。


「メッセージ送っても既読がつかなかったから……家に行ったら、家の人が山にいるって……」


 急足で登ってきたのだろう。ほのかに紅潮した頬が、無表情な彼女に生気を与えている。

 スマホを見てもメッセージは届いていない。よく見れば圏外を示すマークが表示されていた。

 確かに、メッセージが届くはずがない。


「……ごめん、タイミング悪かったね。それで、どうしたの?」


 問いかけると、雪那はスマホを両手で握りながら、用件を伝えた。


「クラスメイトに、プールに誘われたんだけど……行ったほうがいいかな?」


 蝉の声が、強くなる。

 夏が始まろうとしていた。


 けれど、どこかで針が引っかかるように、思考が止まる。

 プール。夏。遊び――

 そう、まるで当然のように始まった夏休み。そのこと自体には違和感はない。

 だが――「何かが抜けている」ような感覚。

 ずっと耳の奥で鳴っていた、微かなノイズ。

 まるで、カレンダーの予定を見落としているような、不完全な既視感。


 言葉にするには、まだ形にならない。

 ただ確かに、何かを忘れている――気がした。



【選択肢1】:

 許可する→N.2-CCへ

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/146/


【選択肢2】:

 違和感に従う→N.2-DDへ

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/147/

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