Episode.4-E~物語の主人公になれたら~
前話:Episode.3-C
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朝の空気は、妙に澄んでいた。
晴れた空が広がっているのに、圭の胸の中だけが曇っていた。
「……無事、岡田くんと関係を結べたよ」
登校してすぐ、雪那はそう言った。
無表情のまま、淡々と。何の感慨も、ためらいもないように。
「……そう、か。おめでとう。良かった、な」
圭は笑ってみせた。それがどんな顔だったのか、自分ではよく分からなかった。
言葉はすらすらと口を出た。だが心は、それに追いついていなかった。
“なんでだろうな。”
目の前の少女のことを思えば、これは良いことのはずだった。
彼女は、自分の意思ではなく、誰かの選択を頼りにしないと日々を送ることができない。
それを分かっていながら、自分はその願いを――最初の選択を――断ったのだ。
それでも彼女の力になりたいと思い、せめて次の選択だけはと、岡田を選んだ。
なのに――なぜ。
なぜ、こんなにも胸が痛むのか。
「ありがとう、圭くん。あなたが選んでくれたおかげだよ」
雪那はそう言って、ふわりと微笑んだ。
それはきっと、彼女にとっての「感謝」の表現だったのだろう。
けれど、その笑みが胸を締めつけた。
彼女が別の誰かと歩むことを、今の自分はどうしても心から祝えなかった。
矛盾していた。
願いを断ったのは自分。選んだのも自分。
なのに、その結果が目の前に現れた瞬間、自分の胸がこんなにも乱れるとは思っていなかった。
「じゃあ、行くね。岡田くんが待ってるから」
雪那はそれきり、背を向けて歩き出す。
その後ろ姿を、圭はただ、見送るしかなかった。
歩幅も、背筋の伸び具合も、昨日までと何も変わらない。
けれど――彼女は、もう圭の傍にはいない。
別れの言葉すらなかったのに、それは確かに「別れ」だった。
そうして彼女は圭の元を離れ、岡田と過ごすようになった。
昼休みに見かける彼女の隣には、もう他の誰かがいる。
誰かと話し、誰かに笑い、誰かの言葉に頷く――それが、雪那の日常になっていった。
圭はと言えば、ただ静かにその様子を見ていた。
遠くもなく、近くもない距離から。
視界には入るのに、もう手の届かない場所から。
この選択が、果たして正しかったのかは分からない。
自分の心は、今なおその選択を肯定しきれずにいる。
ただ――ただひとつだけ願うのは。
この選択が、彼女にとって良いものとなってくれること。
それだけだった。
風が吹いた。色の付いた春の終わりを告げるような、少し冷たい風だった。
校舎の影に揺れる木々が、ざわざわと音を立てた。
どこかで、鐘が鳴った。
そして物語は――静かに幕を引いた。
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