Episode.14-E~Hardcore~
前話:Episode.13-C
https://ncode.syosetu.com/n6562kv/100/
「……仕方ないな」
圭は深く息をつきながら、凛の笑顔に根負けするように言った。
「よっしゃー! さすがセンパイ、話がわかる!」
嬉しそうに両手を上げてぴょんと跳ねる凛。
その横で、結菜がすっと立ち上がった。
「……じゃあ、行こっか」
「……いいの? つきあわせちゃって」
圭が申し訳なさそうに言うと、結菜はほんの少しだけ口元を緩めた。
「別に、気にしてないよ。こういうのも、たまにはいい」
そう言って鞄を肩にかける。
夏の入口に差しかかる頃、山は緑に満ちていた。
日差しは少しだけ強くなり始めていたが、木々が落とす影の中は涼しく、虫の音と葉擦れの音が空気をやさしく揺らしていた。
――――――
二時間後。
ゆっくりとしたペースで登った一行は、ようやく山頂にたどり着いた。
標高はそれほど高くないが、町全体を一望できる眺望は、登ってきた苦労を報いて余りあるものだった。
「……きれい」
結菜がぽつりと呟く。
凛は既にシートを広げ、バッグからノートを取り出していた。
「さー、ここで勉強しよ!」
「ここでかよ……」
圭はあきれたように言いながらも、やれやれとノートを開く。
山頂で広げた問題集に、夏の光が柔らかく差し込んでいた。
思った以上に風が気持ちよく、緑に囲まれた空間は集中にも適していた。
こんな勉強風景が、あってもいいかもしれない。
――だが、それは束の間の平穏だった。
――――――
しばらくして、スマホに通知がないことに気づいた圭は、ふと画面を確認した。
表示されたのは、無機質な文字。
『圏外』
(……嘘だろ)
焦るようにスマホを持ち上げ、電波を探そうと歩き回ってみる。
だが、何をどうしてもアンテナは立たなかった。
山頂は、電波の届かない“孤島”だったのだ。
(……まさか)
嫌な予感が、背筋を冷たく走る。
ポケットの中で、震えた記憶はなかった。
でも、それは“圏外だったから”だ。
――――――
下山し、ようやく電波が届く範囲に入った頃。
スマホが一斉に震え出した。
その数――十数件。
全てが「高嶺雪那」からだった。
《圭くん、ちょっとだけでいいから返事して》
《今、いい? 聞きたいことあるの》
《……そっか。だめなんだね》
《もう、いいよ》
最後のメッセージを見た瞬間、圭の胸に重たい塊が落ちてきた。
――間に合わなかった。
ほんの少し、画面を見ていれば。
ほんの数文字、返していれば。
自分は“あの約束”を守ることができたはずだった。
――――――
その夜、圭のスマホには、既読のつかない返信と、途切れた会話の断片が静かに残された。
雪那は、圭との関係を――終わらせたのだ。
声もなく、言葉もなく。
ただ、約束が守られなかったという理由で。
それは、あまりにも静かで、あまりにも確かな「終わり」だった。
――*――*――
BAD END
最初からやり直す→プロローグへ
https://ncode.syosetu.com/n6562kv/1/
一つ前からやり直す→13-Cへ
https://ncode.syosetu.com/n6562kv/100/




