Episode.14-D~蚊帳の外~
前話:Episode.13-B
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店の扉を開けると、心地よいベルの音が小さく鳴った。
そこは、圭のお気に入りのカフェだった。
隠れ家のように、通りから少し奥まった場所に佇む小さな店。蔵を改装したような重厚な外観と、店内に漂うコーヒーと古本の香りが、この空間の特別さを物語っている。
壁際には自由に読める本棚があり、圭の好きなエッセイや哲学書、そして物語の数々が並べられていた。
「ここ、落ち着いてていいねぇ」
凛が感心したように店内を見渡す。
「うるさくないし……勉強にはちょうどいいかも」
結菜も穏やかに頷いた。彼女はこうした静謐な空間に自然と馴染んでいた。
雪那は無言のまま頷き、飲み物を受け取ると、ふと一冊の文庫に視線を落とした。
――――――
四人は窓際の大きなテーブルに横並びに座っていた。
左から、圭、凛、結菜、雪那。
手元にはそれぞれ、参考書やノート、数種類の問題集。飲み物のカップが静かに湯気を立てていた。
――勉強会は、静かに始まった。
「これ、ここまでは分かるんだけどさ、この部分の式変形が苦手なんだよねー」
凛が言いながら、圭の方に体を寄せる。
「ここはね、まず共通因数で括って……って、ちょ、近いから」
圭が少し距離を取ろうとするが、凛は意に介さない。
「えー、だってセンパイ字が小さいから、近づかないと見えないんだもん」
その声にはまるで悪びれた様子はない。
圭は苦笑いを浮かべながらも、さりげなく椅子を引いた。
凛はそれを追いかけるようにまた寄ってくる。
「……君、ほんとに教わる気ある?」
「あるある。めっちゃ真剣に聞いてる!」
からかうように笑う凛。その様子に雪那は特に反応を示さず、黙々とノートに視線を落としていた。
だが――結菜は違った。
「……あのさ、圭くんと凛ちゃんって、そういう関係なの?」
ぽつりと、唐突に。
隣に座っていた結菜が、不意にそう問いかけてきた。
「えっ、違うよ。凛が勝手に寄ってきてるだけで」
「ふぅん……なんか、仲良いなって」
言葉の端に引っかかるような音が混ざっているのを、圭は聞き逃さなかった。
「それよりさ、ここ分かる?」
圭が話題を戻そうとしても、結菜の目はまだ凛と圭の間を行ったり来たりしていた。
雪那はというと、視線を前に固定したまま、何も言わない。
その表情からは何も読み取れなかったが、少なくとも“いつも通り”ではないことだけは伝わってくる。
(……集中しなきゃ)
圭は心の中でそう呟いたが、心のどこかが微かにざわついていた。
勉強のために集まったはずのこの場所で、いつの間にか空気は“学び”から“探り”に変わりつつあった。
それでも、ページは捲られ、問題は解かれ、時間は静かに流れていく。
窓の外では、柔らかな午後の日差しが街を包んでいた。
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