Episode.14-A~辛いの好きな奴はドMって言うけど、コーヒー好きで飲んでる奴も大概~
前話:Episode.13-A
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購買の前にはすでに数人の生徒が列を作っていた。
その隙間を縫って自動販売機へ向かい、圭は迷わずフルーツジュースのボタンを押した。
――色鮮やかなラベルの、炭酸の入ったオレンジとグレープのブレンドジュース。
雪那の表情の薄さを、少しでも明るくしてくれるような気がして。
そして自分には、慣れ親しんだ無糖の缶コーヒーを選んだ。
――――――
教室に戻ると、ちょうど勉強の一区切りがついたようだった。
雪那は竹下に何かを確認され、うなずいていた。
そのやり取りが終わるのを待って、圭はそっとフルーツジュースを差し出す。
「お疲れ。これ、買ってきたよ」
「……ありがとう」
雪那は缶を受け取ると、一度だけラベルを見て、それからプルタブを開けた。
「勉強、どうだった?」
「……多分、順調」
間を置かずに返ってきたその答えは、以前の雪那とは違っていた。
淡々とした口調ではあるが、その言葉の裏には確かな自信が宿っているように感じられた。
「前よりは、分かるようになってきた。少しずつだけど……理解、できてると思う」
「そっか。それは良かった」
自然と笑みがこぼれる。
自分の選択が、彼女の役に立っている――
その実感が、何よりも圭の気持ちを穏やかにした。
しかし、缶コーヒーのプルタブに指をかけたその時だった。
「……それ、交換してもいい?」
「え?」
振り返ると、雪那が自分の缶を軽く持ち上げていた。
「ちょっと……甘すぎる」
「あ、そうだったのか。ごめん、知らなかった」
「ううん、別に嫌じゃない。でも……コーヒーの方が、好き」
その“遠慮のない素直さ”に、圭は小さく息を吐いた。
そして互いに缶を差し出し、自然な動作で交換する。
苦味と甘味が交差する、その一瞬のやりとりに、どこか親密な空気が流れていた。
それからまた、二人は席に戻り、再び問題集を広げた。
放課後の教室には、まだ何人かのクラスメイトが残っており、勉強会の雰囲気は静かに続いていた。
やがて、チャイムが鳴り、校内放送で「閉館時間が近づいています」というアナウンスが響く頃――
二人はようやく顔を上げた。
――――――
窓の外は、もう夕焼けの時間だった。
校門を抜ける頃には、茜色の空が街を包み込んでいた。
舗装された帰り道を、肩を並べて歩く。
どこか他愛もない沈黙が続いたあと、雪那がぽつりと呟いた。
「……勉強、楽しかった」
「……そっか」
彼女の横顔には、ほんのわずかな色が差していた。
涼やかな風が吹き抜け、夕暮れの住宅街の輪郭を柔らかく包んでいく。
その中で二人は、静かに、けれど確かな足取りで前へと進んでいった。
それは、ささやかな夏の入り口。
そして、誰にも気づかれない、小さな変化の始まりだった。
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