Episode.13-F~君のことなら何でもわかる。分かりたいと思う~
前話:Episode.12-F
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「ココアで」
いつもの癖でコーヒーに手が伸びかけたが、今日はそれをやめた。
勉強に必要なのは集中力。そして、その集中力には糖分が欠かせない――
そういう理由を自分に与えながら、注文を済ませた。
香ばしいカカオの香りが立ちのぼるカップを受け取り、席へと戻る。
そこにはすでにノートを開いていた結菜が、静かに視線を上げて微笑んだ。
二人で席に並び、各々の勉強道具を整える。
静かな空間。
ページをめくる音、ペンの走る音、そしてほんのかすかなBGMだけが耳に入る。
ココアの香りに包まれながら、圭は黙々と手元に集中していた。
――――――
――ふと、手が止まる。
文字を追っていた視線が、だんだんとにじんでいく。
頭に浮かんできたのは、雪那との別れ。
あのとき、自分の未熟な判断で彼女を導けなかったこと。
取り返しのつかない選択をしたこと。
何度思い返しても、あの瞬間だけは変えられないという無力感。
(……俺は、何をしてるんだろう)
自己嫌悪が、静かに胸の中に降り積もっていく。
「圭くん」
結菜の声が、柔らかく響いた。
驚いて顔を上げると、彼女はじっとこちらを見つめていた。
きっと、表情に出ていたのだろう。
情けないほど、わかりやすく。
「圭くんは――優しいね」
ぽつりと、そう言って彼女は微笑む。
「君がそうやって、誰かのために悩んだり、寄り添おうとするの……私は、すごく素敵なことだと思うよ」
「……でもね」
結菜は視線を少しだけ伏せ、言葉を選びながら続けた。
「それで、自分を責めるのは違うと思う。他人に寄り添ってあげてる時点で、君はもう十分、いいことをしてる」
「だから……自分がしたことに、自信を持って。少しずつでも、自分を許してあげてほしい」
「もちろん、誰かに寄り添った人にしか、自分を責めることなんてできないよ。それは君だけの権利」
「でも、ずっとそんな顔をしてたら――寄り添ってもらった人が、心配になっちゃうよ」
言葉を紡ぎ終えた彼女は、柔らかな笑みを浮かべていた。
その笑みは、傷口にふわりと触れる絆創膏のようだった。
圭は気づいた。
(あぁ――俺は今、寄り添ってもらっているんだな)
胸の奥が、じんわりと熱を帯びる。
ゆっくりと手を伸ばし、ココアのカップを持ち上げる。
ひとくち、口に含む。
甘い。とても、甘い。
その甘さはまるで、「自分を許してもいいよ」と言われているようで――
こわばっていた心が、静かに、少しずつほぐれていくのを感じた。
二人の間に言葉はもうなかったが、
ただ静かに、あたたかな時間が流れていった。
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