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せつな  作者: 666
春編
103/1034

Episode.13-F~君のことなら何でもわかる。分かりたいと思う~

前話:Episode.12-F

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/95/

「ココアで」


 いつもの癖でコーヒーに手が伸びかけたが、今日はそれをやめた。

 勉強に必要なのは集中力。そして、その集中力には糖分が欠かせない――

 そういう理由を自分に与えながら、注文を済ませた。

 香ばしいカカオの香りが立ちのぼるカップを受け取り、席へと戻る。

 そこにはすでにノートを開いていた結菜が、静かに視線を上げて微笑んだ。

 二人で席に並び、各々の勉強道具を整える。

 静かな空間。

 ページをめくる音、ペンの走る音、そしてほんのかすかなBGMだけが耳に入る。

 ココアの香りに包まれながら、圭は黙々と手元に集中していた。



――――――



 ――ふと、手が止まる。

 文字を追っていた視線が、だんだんとにじんでいく。

 頭に浮かんできたのは、雪那との別れ。

 あのとき、自分の未熟な判断で彼女を導けなかったこと。

 取り返しのつかない選択をしたこと。

 何度思い返しても、あの瞬間だけは変えられないという無力感。

 (……俺は、何をしてるんだろう)

 自己嫌悪が、静かに胸の中に降り積もっていく。


「圭くん」


 結菜の声が、柔らかく響いた。

 驚いて顔を上げると、彼女はじっとこちらを見つめていた。

 きっと、表情に出ていたのだろう。

 情けないほど、わかりやすく。


「圭くんは――優しいね」


 ぽつりと、そう言って彼女は微笑む。


「君がそうやって、誰かのために悩んだり、寄り添おうとするの……私は、すごく素敵なことだと思うよ」

「……でもね」


 結菜は視線を少しだけ伏せ、言葉を選びながら続けた。


「それで、自分を責めるのは違うと思う。他人に寄り添ってあげてる時点で、君はもう十分、いいことをしてる」

「だから……自分がしたことに、自信を持って。少しずつでも、自分を許してあげてほしい」

「もちろん、誰かに寄り添った人にしか、自分を責めることなんてできないよ。それは君だけの権利」

「でも、ずっとそんな顔をしてたら――寄り添ってもらった人が、心配になっちゃうよ」


 言葉を紡ぎ終えた彼女は、柔らかな笑みを浮かべていた。

 その笑みは、傷口にふわりと触れる絆創膏のようだった。

 圭は気づいた。

 (あぁ――俺は今、寄り添ってもらっているんだな)

 胸の奥が、じんわりと熱を帯びる。

 ゆっくりと手を伸ばし、ココアのカップを持ち上げる。

 ひとくち、口に含む。

 甘い。とても、甘い。

 その甘さはまるで、「自分を許してもいいよ」と言われているようで――

 こわばっていた心が、静かに、少しずつほぐれていくのを感じた。

 二人の間に言葉はもうなかったが、

 ただ静かに、あたたかな時間が流れていった。

続き→14-Iへ

https://ncode.syosetu.com/n6562kv/115/

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