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8

アエレンは混雑の中で、どうにかして二人の友人を見つけ出した。

そして、自分たち三人が同じグループに配属されると知った瞬間、自然と笑みがこぼれた。

「三人揃って……これは運命だな。」

アエレンは嬉しそうに言いながら、エリクの肩を軽く叩いた。

エリクはしかめっ面で応えた。

「運命が俺の筆記力もどうにかしてくれるといいけどな……。」

しわくちゃのチュニックを直しながら、ぼそりと呟く。

ライヤは腕を組み、呆れたように天を仰いだ。

「訓練の時もそんなこと言ってたけど、結局いつも無傷で終わってたじゃない。」

三人は互いに視線を交わし、微かな笑みを分かち合った。

そして、視線を前に向けた。

テラスから少し先、白いテントの方へと歩き出すレディ・アンセラの姿が見えた。

「グループA、私について来なさい。」

彼女は振り返りもせずに言った。

「——少なくとも、文字は読めるでしょうね?」

これ以上の招待は必要なかった。

少年少女たちは、わずかな緊張と好奇心を抱えながら、彼女の後に続いた。

アエレンはエリクとライヤの間を歩きながら、テントの中に並ぶ机と、置かれた羊皮紙と魔法のペンを見渡した。

エリクがそっと近づき、声を潜めた。

「正直に言うと……ほとんど勉強してない。筆記試験なんて、ただの形式だと思ってたからな。」

アエレンは一瞬彼を見つめ、そして小さく笑った。

「さすがだな。

剣も確認せずに戦場に向かう奴は、お前くらいだ。」

「戦場じゃない、学校だ。」

エリクはむくれたように返した。

「……でも、怖さは同じかもな。」

アエレンは指定された場所に座った。

長く、やや軋む木のベンチに腰掛ける。

目の前の机には、すでに用意された羊皮紙と魔法のペン、そして銀の台座に埋め込まれた小さな青い石が置かれていた。

石は、まるで呼吸するように微かに光を脈打っている。

それが何を意味するのか、アエレンは知っていた。

それは、すべてを記録する——ミスも、修正も、躊躇さえも。

周囲のざわめきは、次第に小さくなっていった。

全員が席に着き、待機する。

レディ・アンセラがテントの中央へ歩み寄り、片手を上げた。

「——始めなさい。」

その言葉と同時に、羊皮紙たちが自らの意志でめくれた。

まるで見えない手がそれを操っているかのように。

受験者たちの視線が一斉に下を向く。

問題は、決して簡単ではなかった。

単なる暗記ではなく、理解と、思考を問うものだった。

「——野生の魔獣を最も効果的に制御する方法は何か?」

「——防護結界と監禁魔法の違いを説明せよ。」

「——法と必要の間で揺れる時、魔術師はどこに限界を設けるべきか?」

アエレンは数秒間、じっと羊皮紙を見つめた。

そして、静かに目を閉じ、深く呼吸を整える。

——奇をてらわず、誠実に答えよう。

知らないことを無理に飾らず、分かる範囲で、できる限り正確に。

知識のある問いには、迷わず筆を走らせた。

飾り気はないが、率直で明快な文章。

それが、彼にできる唯一のやり方だった。

アエレンは集中していた。

羊皮紙に向かい、慎重に言葉を選びながら一つの回答を練り上げていたその時。

視界の端に、何かが揺れた。

気になって顔を上げる。

そこにいたのは——

頭ほどの大きさの、小さなインプだった。

薄い膜の羽を広げ、黒真珠のような瞳をきらめかせて浮かんでいる。

その顔には、いたずらっぽい、しかし敵意のない笑みが浮かんでいた。

アエレンは、思わずペンを握り直した。

アエレンは視線をさらに上げた。

そして、自分だけではないことに気づいた。

小さなインプたちが、静かに試験会場を飛び回っていたのだ。

彼らは机の上をすり抜け、受験者たちをじっと観察していた。

時折、何かを見極めるかのようにふわりと止まり、また滑るように飛び去っていく。

その中の一体、小柄なインプがくすくすと笑い始めた。

列の上をくるくると飛び、前方の少年を爪の指で示す。

少年はびくりと震えた。

次の瞬間、微かな魔法の音がテントを走り抜けた。

動かなかったレディ・アンセラが手を上げ、短く呪文を唱えた。

少年のペンは空中で凍りつき、羊皮紙は自ら丸まり、ふわりと宙を舞った。

机が震え、インプはさらに声を上げて笑った。

「外部からの魔法による不正行為。」

アンセラの声は冷たく澄んでいた。

「失格、即刻退場。」

赤毛でふくよかな少年は立ち上がり、何かを言い訳しようとしたが、喉から声が出なかった。

目に涙をため、その場で泣き出した。

二人の助手が彼を連れ出す。

うなだれた背中を、誰も笑わなかった。

誰も囁かなかった。

インプたちは、再び静かに飛び始めた。

アエレンは胸を高鳴らせながら、自分の羊皮紙に意識を戻した。

数分後。

アエレンは再び集中しようとしていた。

だが、インプたちの動きが再び異変を見せた。

今度は無作為な飛行ではない。

彼らは一斉に、一箇所に向かって集まり始めたのだ。

明確な意図を持ち、軍隊のように整列しながら。

アエレンは眉をひそめた。

ふざけた仕草はない。

小馬鹿にするような笑いも、挑発もない。

彼らは、真剣な目をしていた。

目標は、アエレンの数列前に座る、黒髪の少女だった。

彼女は背筋を伸ばし、羊皮紙に静かに向かっていた。

手は素早く、だが焦る様子はない。

ペン先が滑るように走り、筆跡は途切れることがなかった。

……完璧すぎる。

その瞬間、テント入り口近くにいたレディ・アンセラが動いた。

インプたちの異常な集中に気づいたのだ。

彼女は鋭く、重い足取りで前進した。

その一歩一歩が、まるで判決のように響いた。

「高度な魔法不正行為。」

氷のような声で、彼女は宣言した。

「即刻——」

しかし、アンセラの声は遮られた。

場違いな、しかし落ち着いた笑い声が響いたのだ。

会場中の視線が一斉に向かう。

ローヴェンだった。

だらけた態度のまま、興味深そうに少女へ歩み寄る。

「待ってくれ、アンセラ。」

彼は穏やかな、しかしどこか楽しげな口調で言った。

「この子は不正をしているわけじゃない。……驚かせてるだけさ。」

彼は少女の隣にしゃがみ込み、興味深そうに彼女を覗き込んだ。

「素晴らしい。あとでこっそり教えてくれないか?

我々すら理解できないことをやってのけるなんて、そう滅多にない。」

ローヴェンは黒いマーカー筆を取り出し、冗談めかして少女の頬に花のマークを描いた。

淡い青い光が、優しく彼女の肌に吸い込まれていく。

アンセラは、ローヴェンから数歩離れた位置で立ち止まった。

顔には、相変わらずの冷たい表情。

「私が今、失格を宣告しようとした子を……君は、印を付けた。」

その声には鋭い棘があった。

だがローヴェンは、気にする素振りも見せず、にやりと笑った。

「もちろん承知しているよ。

でも、君も気づいてるだろう?

——あの子には、外部魔法も、口の動きも、痕跡すらない。

なのに完璧に答えを書いている。

これは……ただの奇跡だ。」

長い沈黙が落ちた。

アンセラは少女を見つめ、そしてローヴェンを見た。

理性と好奇心の狭間で揺れながら。

やがて、深いため息をついた。

「……次からは、手に印をつけなさい。

頬に花を描くなんて、子供じゃないんだから。」

「でも、花の方が可愛いだろ?」

ローヴェンは飄々と笑い、立ち去っていった。

少女は、騒ぎにも関わらず、微動だにせず筆を走らせ続けた。

一点の曇りもなく。

まるで、何も気づいていないかのように。

インプたちは、少し混乱しながらも元の軌道へ戻っていった。

テントの空気は、また静かに、張り詰めた緊張を取り戻す。

アエレンはそっと視線を逸らした。

だが、ふと、思わず笑いをこらえる光景を目にする。

——少女の隣に座っていたのは、エリクだった。

エリクは完全に固まっていた。

顔は真っ青、手はペンを握りしめたまま微動だにしない。

羊皮紙を見つめるその様子は、まるで紙からドラゴンでも飛び出してきたかのようだった。

アエレンは小さく頭を振り、肩を揺らして笑いをこらえた。

少女の落ち着きと、エリクのパニック。

あまりにも対照的だった。

そして、また静かに自分の試験に向き直る。

時間は限られている。

答えるべき問いは、まだたくさんあった。

けれど——

たった一瞬、心がふっと軽くなった気がした。


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