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昼過ぎ。
アエレンは、足を引きずるようにして家へ戻った。
空腹で腹の中が火のように燃えている。
頭はぼんやりし、足取りはどんどん重くなる。
まるで、大地そのものが彼を引き留めようとしているかのように。
身体中の筋肉が痛み、腕は小刻みに震え、頭の中では鈍い脈動が続いていた。
だが、それ以上に辛かったのは、胃の底に広がる虚無感だった。
訓練が終わった直後、アエレンは耐えきれず、こみ上げるものを吐き出してしまった。
師範の小屋の脇で、膝をつき、顔色を失いながら。
誰もはっきりと指摘はしなかったが、きっと気づかれていたに違いない——そう思うと、恥ずかしさで胸が痛んだ。
家に入った瞬間、温かな匂いが鼻をくすぐった。
煮込み料理と、焼きたてのパン。
幼い頃、暖炉のそばで母に呼ばれたあの冬の日々を思い出す。
埃まみれのブーツを脱ぎ、ふらふらとテーブルへ向かう。
そこにはすでに、父のブレン・ソラスが座っていた。
ブレンは大柄な男だった。
灰色に染まった分厚い髭、静かな眼差し、そして長年港で働き続けた証のような、硬く荒れた手。
黙々と、小さなナイフを磨いていた。
油の染みた布で、丁寧に、まるで儀式のように。
窓から射し込む陽光が、テーブルの端を照らし、木の表面に金色の光を踊らせていた。
「戻ったか。」
視線も上げず、ブレンは低く言った。
「……ひどい顔してるな。」
アエレンは深いため息をつき、椅子に崩れ落ちるように座った。
「……ありがとう、パパ。すごく励まされた。」
「飯は食ったのか?」
アエレンは少しだけ目をそらした。
「……頑張ったんだけど。」
ぼそりと答え、後頭部をかきながら。
ブレンは初めて顔を上げ、太い眉をわずかにひそめたが、特に責めることはなかった。
静かに立ち上がり、大きな鍋からたっぷりと煮込みをすくうと、アエレンの前に置く。
その後、焼きたてのパンも無言で差し出した。
アエレンは、空腹のまま、黙って手を伸ばした。
***
午後は、重たい空気とともに過ぎていった。
机に向かい、硬直した背中を丸めながら、アエレンは必死に試験勉強を続けた。
スパイア・オブ・ルーン学院——
そこに入るためには、剣だけではだめだ。
知識、理論、魔法、歴史、貴族の系譜、古代戦争の年表……
すべてを覚えなければならない。
本音を言えば、剣の稽古を十本こなす方がずっと楽だった。
けれど、逃げるわけにはいかなかった。
アエレンは、渋々ながらも、ページをめくり続けた。
そして、日が傾き、家族がそれぞれの部屋へ引き上げた頃——
家の中には、静寂だけが残った。
アエレンはそっと動き出した。
きしむ床板に細心の注意を払いながら、隠し場所から一冊の古びた本を取り出す。
革張りの表紙。
黄ばんだページ。
複雑な魔法陣と、見慣れない呪文たち。
それは、父が港で修理の見返りにもらったものだった。
中身になど興味を持たなかった父とは違い、アエレンにとって、それは宝物だった。
彼は家を抜け出し、村の裏手にある小さな草原へ向かった。
そこには、すでに仲間たちが待っている。
エリックとライヤ。
月光の下、アエレンは本を広げ、地面に魔法陣を描き始めた。
呪文を唱え、指先に力を集めようとする。
時には、何も起こらなかった。
けれど、時には——
小さな火花が指先に生まれたり、
ふわりと葉っぱが宙に浮かんだりした。
エリックは、どれだけ頑張っても成果を出せなかった。
一方で、ライヤはアエレンとほぼ同じくらいの結果を出していた。
その小さな奇跡のたびに、三人は目を輝かせた。
成功するかどうかなんて、どうでもよかった。
たとえ一歩でも進んだなら、それで十分だった。
夢を追うには、それだけで十分だったのだ。