11
夕暮れが始まり、空がオレンジと紫に染まり始めた頃、候補者たちは再び城の公園中央へ集められた。
空気は涼しくなっていたが、緊張感は変わらず濃かった。
その中で、軍人のような足取りで一人の男が前に出た。
短く刈られた黒髪、実用性を重視した軽装の鎧。
彼の冷たい視線が、候補者たちを一人一人無感情に見渡した。
男は鋭い声で名乗った。
「俺はダリアン・ヴォス。スパイア・オブ・ルーンの戦闘教官だ。」
その口調は、拍手や敬礼など求めていないことを物語っていた。
彼は後ろに立つ二人を無言で示す。
「こちらは、ギャルリクとオグリン。」
それだけだった。
余計な説明も、励ましの言葉も、一切なかった。
ギャルリクは、腕を組み、無表情で候補者たちをじっと見つめていた。
オグリンはというと、にやりと歪んだ笑みを浮かべ、何か悪戯を思いついた子供のような顔をしていた。
ダリアンは無駄なく続けた。
「これから行う試験では、持久力、瞬発力、力、そしてプレッシャー下での反応力を評価する。」
そう言って、森へ続く小道を指差す。
「このコースを走り抜け、障害物を越えろ。そして……予期せぬ事態にも対処しろ。」
その口元に浮かんだわずかな笑みには、情けも温かみもなかった。
「覚えておけ。早くゴールした奴が評価されるんじゃない。
備えのある奴が、勝つ。」
候補者たちの間に、微妙なざわめきが広がった。
ライヤは腕を組み、軽くため息をつく。
彼女の視線は、例の少女へと向かっていた。
「……残念。あの子とは、まともな一騎打ちで勝負したかった。」
ぼやきに込められた失望感は、隠しきれていなかった。
エリクは黙ったまま、森へ続く道を睨んでいた。
彼の表情は、すっかり戦う者の顔になっていた。
ダリアンが声を張る。
「スタートラインに並べ。」
候補者たちは草に引かれた白線の前に集まる。
そこへ、オグリンがずかずかと入り込んできた。
にやにやと笑いながら、あたかも自分も参加者の一人であるかのように立ち位置を取った。
一瞬、皆が戸惑う。
ギャルリクもダリアンも動かない。
そしてダリアンが、短く命じた。
「見るな。あれがお前たちの第一関門だ。」
理解した瞬間、全員の背筋が伸びた。
オグリンは拳を鳴らし、嬉しそうに言った。
「待ってたぜ。これが俺の一番好きな瞬間だ!」
続けて、誇らしげに宣言する。
「ちなみに、ここ二年連続で優勝してるからな。」
候補者たちは本能的にオグリンから距離を取ろうとした。
だが——
あの巨体を前に、安全地帯など存在しなかった。
ダリアンが静かに腕を上げた。
空気が張り詰める。
そして——
その腕が振り下ろされた。
「始めろ!」
一斉に草地が踏み鳴らされ、少年たちは走り出した。
オグリンもまた、楽しげな笑みを浮かべながら飛び出す。
その手が、一人の少年を襟首から掴み上げ、無造作に前方へ放り投げた。
少年は悲鳴を上げながら宙を舞い、数人を巻き込みながら地面に倒れ込んだ。
混乱の渦の中、オグリンは獲物を探すように走る。
エリクを見つけ、目を光らせた。
腕を伸ばす。
エリクは紙一重で回避し、草地に滑り込みながら立ち上がった。
その目に宿る光は、逃げる者のものではなかった。
戦う者のものだった。
アエレンは、出遅れた振りをして様子を窺っていた。
そして——
一瞬の隙を突き、オグリンの足に蹴りを入れた。
巨体がぐらつく。
オグリンは顔を向け、楽しそうに笑う。
だがその瞬間、エリクが助走をつけた跳び蹴りを叩き込んだ。
オグリンの巨体がわずかに後退する。
「エリク、走れ!」
アエレンが叫ぶ。
エリクは即座に反応し、走り出した。
二人は迷いなく駆けた。
だが背後から、地響きのような足音が追いかけてくる。
オグリンは完全に標的を定めていた。
一歩一歩が大地を震わせる。
すぐに追いつかれる。
その時——
アエレンとエリクは目配せし、言葉なく戦いながら走る戦術に切り替えた。
アエレンは再び足元を蹴る。
エリクは障害物を飛び越え、肩を狙ったキックを叩き込む。
瞬間、わずかな隙間が生まれる。
彼らは全速力で次の障害物を越える。
丸太の列、滑り込むアエレン、跳び越えるエリク。
後続の候補者たちは混乱し、進めなくなった。
小道は、戦場そのものとなった。
そして、ゴールはまだ遠かった——。




