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短編集  作者: 蜜傘
3/5

あなたは何も悪くないのにね

「ニュースです。今朝〇〇県××市の住宅で、男性の遺体が見つかりました。遺体は損傷が激しく身元不明です。警察は行方不明の男性である可能性が高いとみて、現在身元の確認を急いでいます」

悔いていなかった

想像していたよりも 人をあやめた実感がしなかったからかもしれない

横たわったオルゴールが奏でる音は 今も変わらずわたしの鼓膜を伝って脳に届いて 無事音色に変わっている

この人はいつなくなったのだろう

自分が息を切らしていることに気づいた時に そんなことを考えた

頭は バスケットボールみたいにしてシュートしたかったのに 跳ねないボールでそれを叶えることはできなかった

腸は 引き摺り出して新体操のリボンみたいにして舞いたかったのに 汚くてやめた

そういえば 手と足は 杭を打ってみたかった

だけどあいにく それを今思いついたので道具がなかった

だからつぎは 持ってくることにしよう


悔いていなかった

想像していたよりも 人をあやめた実感がしなかったからかもしれない

テーブルの上のオルゴールが奏でる音は 今も変わらずわたしの鼓膜を伝って脳に届いて 無事音色に変わっている

あの人は何も悪いことをしていないのに 愚かな両親のせいだろう

シャワールームで そんなことを考えた

たくさん使ってしまったシャンプーは 買い置きされていた詰め替えを入れておいてあげた

壁と床は スポンジでピカピカに磨いたし 髪の毛もまとめてごみ箱に捨てた

だけど もう限界みたい

臭くて 汚くて ここにはいられない


悔いていなかった

想像していたよりも 人をあやめた実感がしなかったからかもしれない

信号機の言う通りに 人は止まるし 人は動く

時刻表の言う通りに 電車は来るし 電車は進む

イヤホンを耳につけて 携帯電話の画面を見つめて

そうだ 新しい音楽をプレイリストに追加しよう

検索ワードは オルゴールがいい

大丈夫 耳を澄まして微笑んでも マスクで見えやしないから


塩胡椒だけで味付けした3割引きのステーキ肉は、辛口の赤ワインで。

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