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親友のはずの美少女が、なぜか俺を婚約者扱いしてくる件

作者: 焼きパスタ
掲載日:2025/01/23

「悠真、おはよう!」


朝の教室に響く明るい声に、悠真は立ち止まった。

振り返ると、朝日の逆光の中に立つ沙月の姿があった。

その眩しさに、思わず目を細める。


「今日も作ってきたわよ」


沙月は得意げな表情で手作り弁当を差し出す。

その仕草は、まるで毎日のことのように自然だった。


「え? また?」


相沢悠真は、少し困ったような表情を浮かべながら弁当を受け取った。

隣の席からは、からかうような視線が感じられる。


「当たり前じゃない。悠真の好きな玉子焼き、甘めに作ったわよ」


沙月の言葉に、クラスメイトたちの視線がさらに痛くなる。

確かに、桜川沙月は学年一の美少女だ。

運動も勉強もできて、性格も明るく面倒見が良い。

そんな彼女が手作り弁当を持ってくるのだから、噂が立つのも無理はない。


「ありがとう。でも、さすがに毎回作ってもらうのは申し訳ないよ」


「気にしないで。私、悠真のために作るの好きだから」


何気ない会話のはずなのに、なぜか周囲の空気が妙に張り詰める。


「そうだ、悠真」


沙月が突然思い出したように言った。


「今度、お母さんに挨拶に行きたいんだけど」


「え? また遊びに来たいの?」


「まあ......そういうことにしておきましょう」


沙月は何かを諦めたような表情を浮かべた。

その時、後ろの席から小声が聞こえてきた。


「ねぇねぇ、あの二人って付き合ってるんじゃない?」


「だよねー。毎日お弁当作ってもらってるし」


「しかも『お母さんに挨拶』だって」


「ちょ、違うから!」


悠真は慌てて否定する。


「俺たちは幼なじみの親友で......」


「隠す必要なんてないのに」


沙月の呟きに、悠真は首を傾げた。


「なんか言った?」


「ううん、なんでもない」


沙月は苦笑いを浮かべる。


「あ、悠真くん!」


その時、クラスメイトの女子が声をかけてきた。

数学の課題について質問があるという。


「ごめん、ちょっと待って......」


だが、悠真が応じようとした瞬間、沙月が自然な流れで会話に割って入った。


「悠真、今日は一緒に過ごす予定だから、また今度でもいいかな?」


「え? いや、そんなの......」


「ねぇ、悠真?」


沙月の声には、普段より少し強い調子が混ざっていた。

悠真は言いよどむ。

こういう場面が、最近増えてきている気がする。

放課後、下駄箱の前で沙月が待っていた。


「一緒に帰りましょ?」


「ああ、うん」


いつもの帰り道。

夕暮れに染まる空の下、二人は肩を並べて歩く。


「ねぇ、悠真」


「うん?」


「お母さんに挨拶、本当に行きたいんだけど」


「また遊びに来たいの? 最近よく来てるじゃん」


沙月は小さなため息をつく。

その言葉の意味を理解できないまま、悠真は空を見上げた。

二人の影が長く伸びる中、何かが、この「親友」という関係を、少しずつ揺るがし始めていた。



そんな中、ゴールデンウィークが終わって間もない五月半ば、クラスに大きな話題が持ち上がった。


「では次に、文化祭についての連絡です」


下校時刻が近づくなか、担任の水野先生が教室の前に立った。

いつもなら居眠りしている生徒たちも、「文化祭」という言葉に目を輝かせる。


「来月の文化祭に向けて、各クラスで出し物を決めてもらいます。今週中に企画書を提出してください」


教室が一気にざわめき始めた。

メイド喫茶、お化け屋敷、バンドステージ——様々な案が飛び交う中、文化委員の鈴木が黒板に候補を書き出していく。

そこに「童話劇・シンデレラ」という案も加わった。


「私、シンデレラいいと思う」


「そうだね。」


「衣装とか作るの、楽しそう!」


意外にも、クラスメイトたちの反応は上々だった。

投票の結果、「シンデレラ」が過半数を獲得。

クラスの出し物が正式に決定した。


「じゃあ、配役を決めましょう」


と文化委員。


「まず、シンデレラ役ですが......」


「桜川さんがいいんじゃない?」


「そうそう! 沙月ちゃんなら絶対似合う!」


クラスメイトたちから次々と声が上がる。

実際、誰が見ても沙月はシンデレラ役にぴったりだった。


「え? でも......」


沙月は控えめに微笑む。


「みんながそう言ってくれるなら......」


満場一致で、シンデレラ役は沙月に決まった。


「次は王子様役ですね」


と文化委員。

教室に微妙な空気が流れる。

男子たちは互いの顔を見合わせ、誰も積極的に手を挙げようとはしない。

その時、沙月が静かに立ち上がった。


「王子様は悠真がいいと思います」


クラスメイトたちの間で、小さなざわめきが起こる。


「まあ、相沢君なら......」


「確かに、台詞とか覚えそう」


「......」


特に強い異論は出ないものの、かといって積極的な賛同の声も上がらない。

そんな中、悠真が困ったように手を挙げた。


「あの、俺は王様の家来とかがいいんだけど......」


「だめよ」


沙月は断固とした口調で言う。


「王子様って、優しくて誠実で、みんなに信頼される人がぴったりだと思うの」


彼女は一瞬言葉を切り、柔らかな声で続けた。


「それに、私にとって特別な人じゃないと」


最後の言葉は、ほとんど囁くように。

その雰囲気に押されたのか、クラスメイトたちの反応が少しずつ変わっていく。


「そうだね、相沢君で良いんじゃない?」


「二人の掛け合いなら、見てて面白そう」


「他に立候補者もいないし」


「でも、俺......」


悠真が再度反論しようとした時、文化委員が


「じゃあ、王子様役は相沢君で決定!」


と声を上げた。

観念したように肩をすくめる悠真。

一方の沙月は勝ち誇ったように微笑んだ。

それから放課後の練習が始まった。

最初は台本を持ったまま、ぎこちない読み合わせをする悠真。

しかし不思議なことに、沙月と向き合うと自然と言葉が出てくるようになっていく。


「もっと堂々としなさい」


稽古の合間、沙月が小声で囁く。


「私のお相手なんだから」


「お相手って......まだそんな調子で」


「ふふ、だってシンデレラと王子様は運命の出会いなんでしょ?」


そんなやり取りを重ねるうちに、二人の息はどんどん合っていった。

王子様を演じる悠真も、次第に役に馴染んでいく。

特に、灰だらけのシンデレラを見つめる場面では、沙月の表情がひときわ輝いて見えた。



文化祭当日、シンデレラの公演は成功し、観客から拍手が送られた。

その夜、クラスの打ち上げが行われた。

カラオケで盛り上がり、写真を撮り合い、思い出話に花を咲かせる。

劇中のシーンを真似て「王子様~!」と悠真をからかう男子たち。

そんな賑やかな時間も、あっという間に終わりを迎えた。


「お疲れ様!」


「また明日!」


仲間たちと別れを告げ、いつものように悠真と沙月は並んで帰路につく。

秋の夜風が心地よく、二人の影が街灯に揺れる。


「楽しかったね」


沙月が微笑みながら言う。


「やっぱり悠真は私の婚約者だもんね」


「うん、本当に......えっ?」


悠真は歩みを止めた。


「待て、今なんて言った?」


「婚約者だもんねって」


「婚約者って......何の話だ?」


沙月も立ち止まり、不思議そうに首を傾げる。


「覚えてないの? 幼稚園の時」


沙月の声が少し震える。


「お砂場で、悠真が『大きくなったら結婚しよう』って......」


「あぁ......」


悠真の記憶が蘇る。


「でも、あれは......その......ただの子供の冗談というか......」


沙月の表情が凍る。


「冗...談...?」


「だって、あの時はまだ子供だったし......」


「私は本気だった!」


沙月が強い口調で遮る。

その声には、涙が混じっているようだった。


「ずっと......ずっと本気だったの!」


街灯の明かりに照らされた沙月の顔に、涙が光る。

悠真は慌てて言葉を探す。


「ご、ごめん......でも、沙月は俺の大切な親友で......」


「親友......」


沙月は苦く呟く。


「本当に大切だから! 幼稚園の頃から、ずっと一番の......」


「じゃあ」


沙月が顔を上げる。

涙は残っているのに、表情は意外なほど強気だ。


「いつか、ちゃんと本気で婚約してくれる?」


「は? なんでそうなる!?」


しかし、街灯に照らされた沙月の笑顔を見て、悠真は言葉を失う。

涙に濡れた瞳が、まるで星のように輝いていた。

心臓の鼓動が、少しだけ早くなる。

これは、親友だからだろうか——。


「ねぇ、答えてよ」


夜風に吹かれながら、悠真は自分の心の内を必死で探っていた。



それから数日が過ぎ、沙月の「婚約者」発言の意味を知った悠真は、彼女との関係を改めて考え始めていた。

幼い頃の何気ない約束を、これほど大切に心に留めていた沙月の純粋さに、戸惑いと同時に温かな感情が芽生えていた。

ある放課後、二人で下校する道すがら、紅葉が風に舞う中を歩いていた。


「ねぇ」


突然、沙月が立ち止まる。


「私、本気で悠真のそばにいられる未来がいいな」


夕陽に照らされた彼女の横顔に、悠真は言葉を詰まらせた。


「まあ......そばにいるのは、悪くないかな」


照れ隠しのような言葉に、沙月は柔らかく微笑んだ。

学校では相変わらず、二人の関係を囃し立てる声が絶えなかった。


「相沢君と桜川さん、やっぱり付き合ってるんじゃ......」


「違うって。友達だから」


悠真はいつものように否定する。

でも、その言葉を口にする度に、何か違和感が残るようになっていた。

友達という言葉では、もう収まりきらない何かが、確かにそこにあった。

季節は移ろい、桜が散り、新しい桜が咲く。

そうして高校生活が終わりを迎えようとしていた。



そして、それから数年後——


「悠真、ちゃんと手をつないでよ。今日は私が主役なんだから!」


純白のウェディングドレス姿の沙月が、タキシード姿の悠真の腕を引っ張る。

結婚式場の前で、春の風が二人の間を優しく吹き抜けていく。


「分かってるよ。緊張してるんだからちょっと待て」


「まだそんなこと言ってるの? 私の婚約者なんだから、もっと堂々としなさい」


「はいはい......って、もう婚約者じゃなくて......」


悠真の言葉を遮るように、沙月が彼の手を強く握る。

かつて「冗談」と片付けた約束が、今、現実になろうとしている。

幼い頃からずっと信じ続けてきた沙月と、その想いに少しずつ応えてきた自分。

結婚式場の扉が開く。差し込む陽光の中、沙月の横顔が輝いて見える。

(結局、お前の思い通りになっちまったな)

そう思いながら、悠真は沙月の手を優しく握り返した。

扉が静かに閉まっていく。

春の光の中、幼なじみだった二人の新しい物語が、今始まろうとしていた。


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