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氷結王子と呼ばれる騎士団長と契約結婚をすることになったのですが、どうやら一目惚れされているらしいです?  作者: 新 星緒


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25/45

7・幕間 氷結王子は思い悩む

(ランベルトのお話です)


 寝巻のボタンを止めながら、アランが

「今日は充実したデートだったようで、ようございました」と言った。

 その後にからかいの言葉が続くだろうと身構えたが、アランは口を閉ざしたまま支度を終えた。肩透かしをくらった気分だ。


 アランが私を真正面から見つめる。

「あなたに愛おしく思う女性ができたこと、心の底からお祝い申し上げます」


 嬉しそうな微笑みに、言葉を返そうとして口を開き、だけどなにも言わないまま閉じる。

 アランから目を離し、手袋をしていない己の手を見た。


「ランベルト様」

「伝えるべきだろうか」

「あなたが、そうしたいと望むのならば。嫌だと思うのなら、伝えなくてよいのです」


 アランを見ると、先ほどと変わらない笑顔を浮かべていた。


「不誠実ではないだろうか。瑕疵を黙っているというのは」

「誰しも秘密のひとつやふたつ、持っているものです。あなたの秘密なんて可愛いものですよ」


 アランは私の前を離れてキャビネットに向かう。

「寝酒を用意しましょう。なにがよろしいですか?」

「いつものを」と答えて、近くの椅子に腰を降ろした。


「彼女に知られたくない」

「それでいいではありませんか」

 カチャカチャと音を立てて、アランがグラスに蒸留酒を注いでいる。

「知ったら、私を軽蔑するだろうか」

 アランが手を止めて私を見た。

「……そんなに不安そうなあなたは、初めて見ますよ」


 不安、と声に出して呟く。自分がそんなものを感じているのだとは気づかなかった。


「兄上が彼女を連れてくるまで、結婚したいだとか、そんなことは考えたことはなかったんだ」

「そうなのですか?」

 膝の上に置いた両手を見る。

「もう一度会いたいとは思っていた。――秘密裏に探してもいた」

「ええっ!!」


 アランが驚くのも無理はない。誰にも知られないように、こっそりと。身分も名前も偽って、民間の調査会社に彼女の捜索を依頼していたのだ。


「だけど再会してから、私はどんどんおかしくなっている」

「それだけミレーナ様に惹かれているのですよ。素敵なご令嬢ですものね」

 そばにやってきた彼から、グラスを受け取り喉を潤す。

「嫌われたくない」

「大丈夫ですよ。ミレーナ様はそんな方ではないと思いますよ。ドミニク様がいらっしゃたとき、私もフレデリックさんも外に控えていましたけど、ミレーナ様の対応は素晴らしかった」


 それは、そのとおりだ。彼女はあんなに下品で失礼な母を前にしながらも笑顔で、私と母の両方を立ててくれた。


「彼女はあなたの秘密なんて、気にも留めないでしょう」

 ミレーナの愛らしい姿が脳裏に浮かぶ。とたんに苦しくなる胸。


「……彼女に触れたい……」

「ランベルト様」アランが空のグラスを私の手から抜き取る。「今夜は特別に二杯目をさしあげましょう」

「酔って忘れろということか?」

「いいえ。明日から自制をするための、気合入れです」


 意味がよくわからず、アランを見る。

「キスをし過ぎるなと言っているのですよ。どこの世界に一日二度も婚約者を気絶させる男がいるのですか。嫌われたくないのなら、まずはこっちの加減を覚えなさい」


 それは……。

「自信がない」

 あははは、とアランが声をあげて笑った。その目に涙が浮かんでいる。

「あなたの言葉とは思えませんよ! あなたを変えてくださったミレーナ様は女神だ!」

 彼はグラスをキャビネットに置くと、戻って来て私の前にひざまずいた。そして私の両手に自分の手を重ねる。


「私たち一同、あなたの恋を全力でサポートしますから。強気で行きましょう! でもキスはほどほどに」

「そうだな。サポートを頼む」


 彼女に対して秘密を抱えたままというのは罪悪感がある。

 だけれど最終的に私と結婚してよかったと感じてもらえれば、秘密を許してもらえるかもしれない。


 母のことは大嫌いだが、今日、生まれて初めて益のあることを教えてくれた。

 私がミレーナにしていることは、通常のこと。嫌われないためには、もっとサービスの高みを目指さなければならないのだ。


 アランの手をほどき、寝巻のポケットからミレーナにもらったハンカチを出す。美しいコマドリの刺繍がほどこしてある。私が好きな図案を伝えた翌日に、彼女はこれをプレゼントしてくれた。


 私はミレーナから幸せをもらってばかりだ。 

 私はその何倍もの幸せを返したい。





毎日更新はここまでとなります。

再開は7/24(水)21時を予定しています。

少しあいてしまいますが、引き続きお読みいただけたら、嬉しいです。

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