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氷結王子と呼ばれる騎士団長と契約結婚をすることになったのですが、どうやら一目惚れされているらしいです?  作者: 新 星緒


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6・3 元婚約者と現婚約者

 詳細はわからないけれど、王宮ではちょっとした事件があったらしい。ランベルト様の鍛錬を見そびれてしまった日から三日連続で、彼は帰宅しなかった。近衛騎士という職業は予想以上に大変みたいだ。


 ただ、ランベルト様から毎日謝罪のお手紙が届いた。毎回同じ文で『すまない。今日も帰れそうにない。君に会いたい』と三行。

 だけど最後の一文が!


 ランベルト様は手紙のほうが饒舌なのかもしれない。


◇◇


 四日ぶりの王宮。

 シャルロット様に『歌を聴かせて』と呼び出され、今回は虹が出る歌を歌ってきた。姫君は大喜びで、褒美にお茶とケーキのご相伴に預かる栄誉をくださった。

 相変わらず居丈高な喋り方をしていたけれど、根は優しくて可愛らしいかたみたいだ。私の領地の、とるにたらない話を目をキラキラさせて聞いていた。


「次に来るときは、シャルロット殿下が喜ぶような外の世界のものを持ってきたいです」

 そう言うと、廊下を先導していた侍女さんは足を止めて振り向いた。私が王宮に来た初日に、諫言してくれた方だ。ドゥアリー伯爵夫人というらしい。


「難しいわ。たいていのものはもう、陛下がすでに用意していますから」

「そうですよね……」

「だけど、プレゼントはいい案ね。――相談に行きましょう」とドゥアリー夫人。

「どちらへ?」

「というのは建前」と言ってドゥアリー伯爵夫人は歩き出した。「ストラーニ公爵が、あなたに会いたくて仕方ないそうです。帰り際にさりげなくミレーナ様を政務棟に連れて行くように命じられています」

 思わず苦笑してしまう。命じたひとはあの人に決まっている。


「陛下は弟様思いですね」

「ええ。ですからあなたも、覚悟を持って結婚なさいね」

 覚悟、か。その言葉は、前にも言われた。

 そのときに覚悟を決めたつもりだったけれど、セニーゼ侯爵夫人には騙されたし、ランベルト様を怖がって距離を縮めるのに時間がかかってしまっているし、だいぶ情けないことになっている。


 一方で、陛下は契約を守り、ランベルト様は私に歩み寄ろうと努力してくださっている。

 私はもっとがんばって、ふたりに応えないといけないわ。

 そしてランベルト様が喜ぶような、素敵な婚約者になるのよ!


 ドゥアリー伯爵夫人について政務棟に入る。

 様々なひとと行き交いながら進んでいたが、ふと前方に見覚えのある人影をみつけて足を止めた。

 向こうも私に気づいて顔をしかめる。


「ドゥアリー伯爵夫人」と小声で呼びかけたけれど、彼女は気づかなかったようでそのまま進む。そして入れ替わるかのように、彼が近づいて来た。


「お前、こんなところでなにをしているんだ」と元婚約者のセストが不機嫌な顔で問う。

 セストのほうはきっと、陛下へ爵位引継ぎのご挨拶だろう。

「まさか王弟と婚約したというのは、本当なのか」

「ええ。あなたは爵位を継いだとか。先代デマルコ伯爵のこと、お悔み申し上げます」

「……父上の事故はひどいものだったよ。馬車が崖下に転落してな。それにしても、お前のところからはお悔みのひとつも届かなかったが」

 むしろ届くと思っていたの? 私にあんなひどい仕打ちをしたのに?


「王弟と婚約をして調子に乗っているんじゃないか?」と再び顔をしかめるセスト。

 彼はこんな考え方をするひとだったのだろうか。ひどく悲しい気がする。


「ミレーナ様?」

 私がついて来ないいことに気づいたドゥアリー夫人が、戻って来た。

「今行きます」と彼女に答えてから、セストに「私はこれで」と伝えてすれ違おうとした。

 だけど、

「待てよ!」と叫んだセストに手首を掴まれる。ぎりぎりと締め付けられ、痛い。


「王弟と婚約したのなら、全部、お前の差し金だな!」

「なんのこと?」

「とぼけるなっ!」

「……ッ!」

 ドゥアリー夫人がセストに『やめなさい』と言ってくれるけれど、彼はますます私の手首を締め付け、更にひねる。あまりの痛さに涙がにじむ。


「僕もナタリアも貴族社会からつまはじきにされている! 挙式にも父上の葬儀にも誰もこなかった! 晩餐会の招待状を出してもみな欠席。僕らには招待状すら届かない。社交界に出れば、みなが僕らを避ける! お前の差し金だろう! 公爵の力を使ったな!」

「知らないわ!」

「嘘をつくな、このアバズレめ!」


 ダメだ、話が通じない。夫人がセストの腕を叩きながら、

「誰か、近衛を呼んで!」と叫ぶ。

 次の瞬間、手首が離された。

 夫人の言葉でセストが離してくれたんだと思ったのは一瞬で、セストが断末魔のような悲鳴を上げて倒れた。狂ったようにのたうちまわっている。

 一体……?


「大丈夫か!」

 叫び声と共に駆けてきたのは、ランベルト様だった。セストにつかまれていた手を取りそでをまくると、美しい顔をしかめる。それから彼は私の手首に唇を寄せた。

「あの……!?」

「……痛みを取るだけだ」と、ランベルト様。

 本当に? この前は手をあててくださいましたけど!?

 緊張して鼓動は早くなるし、ランベルト様のお姿に安堵するしでパニックを起こしそうだ。


「私がついておりながら、申し訳ございません」とドゥアリー夫人が謝る。

「夫人は一生懸命助けようとしてくださったもの。ありがとうございます」

 ランベルト様に手首にキスをなんどもされながら、お礼を言う。


 絶対におかしいわよね!


 セストはまだ床をのたうちまわっているし。

「これ、どうしますか?」といつの間にか現れたアランさんが、足の先でセストをつついている。

「暴行の現行犯で逮捕・投獄」とランベルト様。珍しく声に怒りが感じられる。


「そんなことはわかっていますよ。あなた、怒りに任せて禁忌術で精神攻撃をしたでしょう。放っておくと狂いますよ? 自分がしでかしたことを認識することもなく」

「それは腹が立つな」

 

 ランベルト様が長い呪文を唱える。

 するとセストは暴れるのをやめた。が、相当苦しいみたいで肩ではあはあと息をついている。


 禁忌術って……。

 もしかしなくてもランベルト様、相当な魔術の使い手では?

 お顔を見上げると、彼は困ったように眉を下げた。


「君の元婚約者にやりすぎてしまっただろうか。その――嫌わないでほしい」

「まさか! 助けていただけて感謝しかありません!」

「そうか。よかった」


 ランベルト様はまた、私の手首に唇を当てた。

 それからお顔を、安心したかのようにふにゃりとほころばせた。


 この方は、本当に私に好意を持ってくれているのだ!

 鼓動がますます速くなる。

 ランベルト様のお顔を見ていられなくなり、下を向く。

 私、とても嬉しく感じているのだわ――。 

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