7話.魔王と勇者と賢者と魔術と
魔法と魔術と特訓と、です。
「賢者が敵?それはあのアルフレットのことを言ってるのか?」
「ああ、そうだ。」
「なんでだ?あの人は確かに胡散臭いなとは思っていたが、さすがに敵とまではいかないだろ。今だってあの人の魔術のおかげでこの空間があるんだし。」
「確かにそうだな、この空間のきっかけはあいつだ。だがこの空間の維持をしているのは俺自身の力だ。」
何言ってるんだ?こいつ、この空間を維持しているのがこいつ自身の力だと?この空間は確かに師匠の力で成り立っているはずだ。俺は目の前で魔術を発動するのを見ている。魔術『契約の試練』。魔術を習得るための唯一の魔術。任意の相手を魔術を発動することによって試練の間と言われる魔術空間に相手を入れることができる。そこにいる試練の主と戦い勝つことで、試練の主と契約をし魔術を習得できる。試練の内容はランダム、試練を突破し自分に適応できる魔術だった場合、その魔術を習得できる。師匠から受けた説明はこんなもんだった、そこに魔王が干渉できるようなスペースなんてないはずだ。
「もし、お前の言っていることが真実だとして、なぜそんなことをする必要があるんだ?」
「さっきも言ったが賢者は敵だ。それをお前に伝えたかった。あとついでで魔術を教えるためにな。ヤツがこの魔術を発動するタイミングに合わせて試練の主を喰ってやった。」
「.......は?それ大丈夫なのか?アルフレットにばれたら大変なことになるんじゃないのか?」
「そうかもな、だが大丈夫だろう。あいつは自分の領域に何が起こっていてもたいして気にしないような奴だ。自分の呼んだ試練の主が喰われて主が変わったなんてあいつにとっちゃ些細なことだ。」
「そうか..........ならいいんだけど。(いや、よくないか?)」
「そろそろ本題に入ろう、これからお前は魔術を習得する。俺が教えることのできる最大限の魔術をお前に授ける、その魔術を習得し、この空間から出ることができたら、あいつを、『賢者』を殺せ。」
「は........?」
「わからないのも無理もないな。今のところお前があいつに抱いている印象ではあいつを殺す理由なんて一つもないからな、だがあいつを殺すことには重大な意味がある。」
いきなりそんなことを言われた俺の脳内は完全にフリーズしていた。知らない世界に召喚され、いきなり追放され、行き着いた先で助けてもらった恩人で師匠にもなった人を俺は殺せと言われている。ぶっちゃけ言えば今俺は何を信じていいのか全く分からない状態だ。
「そんなことをいきなり言って俺が素直に従うと思っていたのか?そんなこと断るにきまってるだろ。」
「そうだな.....魔術を習得するにあたって知っておくべきことはたくさんある。それを今から、教えてやろう。」
そういうと魔王はオーラのようなものを解放した。座っていた屍の上から立ち上がり自分の所まで歩いてきた、近くで見るとわかるな、こいつは自分だ、どことなく自分に似ている。そんないい加減なことも考えている間に魔王は俺の目の前まで歩いてきた。
「始めるぞ。」
そんな声が聞こえたと思ったら俺の体は吹っ飛ばされていた。あいつは俺をぶん殴ったのだろう、痛てーな。
「いきなりなにすんだよ。魔術を教えるんじゃなかったのか?...........ん?」
違和感を感じた、自分が少しだけ強くなったような気がした。そう思い自分を『鑑定』してみると
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『四葉 慎太郎』
体力 10000/15000
魔力 100000/100000
攻撃力 10000/15000
防御力 10000/15000
知力 10000/15000
運 10000/15000
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スキル
『鑑定解析』『範囲拡大』『最小魔力発動』『気配感知Lv10』
『危機感知Lv10』『オートマッピング』『転移魔法陣』
『全属性魔法』
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ユニークスキル
『魔法創造』『魔術創造』
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称号
『魔王の卵』『賢者の弟子』『魔王の弟子』
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これは..........?ステータスが少し上がっている。
「おい!何をした!?」
「俺は、教えるのは苦手だからな、体に直接教えたほうが効率いいだろ。せっかくここは試練の間なんだ、試練っぽくいこうぜ、ほらもう一回行くぞ!」
「やられっぱなしでいられるか、『ファイアーボール』!」
「そんなもの効くわけないだろ。」
魔王は俺の放った魔法を軽く振り払った。今俺がすべきことはなんだ?冷静に考えろ。
「おい、冷静に考える時間なんてないぞ?魔術を持っている俺に魔法は効かないぞ?当然、魔術は『賢者』も持っている、あいつを殺すには魔術の習得は必須だぞ?」
「だから俺は師匠を殺す必要はどこにもないだろって。」
「それはこれからわかるって言ったろ。黙って付き合えよ」
ドンッと音を立てて魔王が踏み込んだと同時に目の前に現れたと思ったらまた俺の体は吹っ飛んだ。観測と理解が追い付かないな。どうしたものか。
「『ウィンドカッター』!」
「だから効かねえって。」
「わかっているよ。けど俺ができるのはこれだけだからな、『今できることを全力で』なんてクサイ台詞だがやってやるよ。」
2回も殴られてわかったことがある、魔王は俺を殴るたびに俺に魔王の記憶の断片を俺の頭の中に無理やり入れ込んできている。その記憶はどれも魔王の記憶だった、記憶から見える景色はどれも俺とそっくりな魔王が旅をしているような景色だった。これで魔王が俺の確率がまた上がった。やっぱり魔王は俺なのかもしれない。そんなことはあんまり関係ない、重要なのはもう一つのほうの記憶だ。魔王の記憶の中で今の俺のような魔術で追い詰められた状況があった、相手は誰かはわからないがまだ魔術の使えない魔王が魔術使いに追い詰められていた、その時に魔王が出したのがこれだ。
「発動『魔法創造』」
「なにを..........?いや、気づいたな?」
[どのような魔法を創造しますか?]
「魔術に届く魔法、『真・魔法』をよこせ!」
[条件で構築中..............構築完了]
[『真・魔法』を習得しました。]
「これか、魔術にも届く魔法。『真・魔法』か。どんなものか試していいか?」
「おう、やってみろ。」
俺は腕を前に構える。使い方はわかっている。記憶からは読み取れなかったが習得できた時点で理解できている。魔力を丁寧に練り上げる。腹の底から魔力を絞り出す感覚。限界まで出す。そして練り上げる。そして出来上がった、今俺ができる全力の魔法、真・魔法『断空・断地・断海』。
「行くぞ、死ぬなよ?」
「ああ、こい。」
俺は全力の魔法を放った。それはスピードという概念のない攻撃、ただまっすぐにすべてを滅ぼすだけの攻撃。今までにない最高の威力だ。最高にいい気分だ、今確実に俺は成長していることがわかる。スキルだけじゃない、すべてのステータスが格段に上がっている。
っとここで俺は冷静になった。これはやばいじゃん、この攻撃の名は『すべてを穿つ死の牙』。実態も、スピードも、存在しないものですら殺すことのできるような攻撃だ。こんなものを魔王に放ってしまった。このままあいつに当たったら死んじゃうじゃん。今こいつを殺す気はないぞ?どうしよ。
「おい!避けろ!これ結構やばいぞ!当たったら死ぬぞ!避けろよ!?」
「おいおい、大丈夫に決まってるだろ?これを教えたの誰だと思ってるんだ?それよりよく見てろよ?今から見せるのはこの魔法の完全上位互換、魔術版の『断空・断地・断海』だ。」
「発動『断絶の剣』」
魔王が魔術を放つ、見えないが明らかにやばいこっちに迫ってくる、明らかな死が。気づいた時には俺の腹には大きな穴が空いていた。
「おい、大丈夫か?ずいぶん綺麗にぽっかりいったな、まあ大丈夫だろうな、この空間では死なねーからな。」
「今、何をした?俺が使った魔法とは全く違ったものだったぞ?」
「話聞いてなっかたのか、さっき言ったぞ?俺が今放ったのが『断絶の剣』だ。ありとあらゆるものを殺し滅ぼすことができる魔術だ。そしてもいっちょっ」
ブスリッと魔王が俺の目に指を突き立てた。
「痛った!なにすんだよ!」
「だからいちいち騒ぐなよ。これも魔術だ。俺の技を食らってあれは習得できただろ、ついでにやるよ。さらにもう一つサービスしてやるよ。もう一つ魔術をおまけして3つも一気に魔術を習得できたな、おめでとう。」
「............なんか引っかかるがまあ良しとしよう、そんで理解したよ俺が『賢者』を殺さなきゃいけない理由が。」
「そうか、そいつはよかったな、じゃあ仕上げと行こうか。」
そこから俺と魔王の試練という名の特訓が始まった。
ついに魔術習得!