37話.覚醒
勇者が生まれる........?
魔族との戦闘が終わり、俺は瓦礫もなにもかも吹き飛んだ平地で一人佇んでいた。
「......さて、これからどうしようか」
俺は迷っていた。いつの間にかどこかに消えた南と水代を探し出して殺すべきか、それとも各地に飛ばした他の冒険者の戦いに参戦するべきか、さっさと消えたあいつらが現れてくれればラクなんだけどなぁ
パチパチパチ....と軽く手を叩く音が聞こえる。
「いやぁ~、強いとは思ってたけどまさか魔族を倒すほど強いとはねぇ~」
いつの間にか現れた南が拍手をしながら俺を称える
「どこに隠れてたんだ?」
「んん~?ヒミツっ」
「さっきまでの一生懸命さはどこに行ったんだよ?キャラを保つってのも大変だな」
「そうだねぇ~、ちょっと冷静になったって感じかな?」
南は日本にいた時から基本的にこんなキャラだった、人は焦ると素の性格が出るなんて言うがこいつもそんな感じなんだろうか?
「まぁどうでもいいか、あれはどこに行ったんだ?お前の師匠は?」
「....師匠?あぁ、あのオジサンね、知らなーい、逃げたんじゃない?」
黙秘...ね、まあスキルでどっかに隠れてるとかなんだろうね、隙を見て不意打ちを狙ってるって感じだな
「んで?続けるか?」
「もちろんじゃん」
「勝てるとでも?」
「勝てるさ」
「俺はお前を殺すぞ?」
「僕もさ」
「あっそう、じゃあ始めよう」
暫しの静寂、お互いがお互いの動きだしを捕らえようと相手から目を離さない、少しの視線の動き、筋肉の動きすらが隙となりうるこの瞬間、2人だけの世界が広がる
突然、南が動き出す。
「時の精霊『遅延』」
時...?時間を操る精霊か、この短時間で成長したのか?どうやって?謎が一つ増えたな
体の動きが鈍く感じる。けどまあ遅延程度の付与なんてどうにでもなる
「こっちは時の神を殺してんだよ、精霊如きに俺が止められると思うなよ?『時空間操作』発動、加速」
体が軽くなる。動きも速い。
俺はそのまま南に向かって走り出す
「なッ!?」
デバフを与えたはずの敵が遅くなるどころか速くなって向かってきたらそりゃ驚くか、俺は南の隣を走り抜けるのと同時に南の顔面を掴み、地面に向かって投げるッ
ドゴッと南が地面に打ち付けらる
「グッ...」
「終わりだ。『巨岩落』」
南の頭上に魔法で岩を生み出し、落とす。人ひとりくらいは余裕で埋まるくらいの大きさの巨岩は落下するにつれ、速度を増す巨岩
迫りくる巨岩に焦るように南は魔法を唱える
「クソッ.....時の精霊!『遅延』」
迫りくる巨岩に魔法を付与、途端に速度が落ち、その隙に南はその場を離れる。
へぇ、無機物にも付与が可能なんだ。使える時の魔法は遅延だけなのかな?
「炎の精霊!焼き払えッ!」
俺と南を遮るように炎の壁が出来上がる、炎の向こう側で南は止まることなく魔法を発動する
「風の精霊 切り裂け!」
複数の風の刃が俺に向かって走ってくる
返す刀で俺は魔法を発動する
「『魔力支配』ッ!」
ピタッと風の刃が止まり、クルンッと向きを180度変え、南に向かって走る
「魔力の操作が雑だ。魔法は使えばいいってもんじゃないぞ?」
「君には関係ないでしょッ!」
風の刃を避けながら次の魔法を組み上げようとする南、無防備すぎる
「『光の矢』」
ピュンッ
高く、短い音が南の肩を貫く
「.......クソッ」
反応さえできずに貫かれ、苦言をもらす南
俺は追撃を加える
「『光の雨』」
光の矢を複数待機させ、まさに雨のごとく絶え間なく南に浴びせる
それに対し南は最初は魔法障壁や魔力を集めガードなどしていたが絶え間なく浴びせられる矢に少しづつガードが崩れる
自身の体が少しづつ削られていくのを肌で感じながら南 明久はここで切り札を切るべきか悩んでいた。四葉が魔族と交戦中に身を隠し、水代と作戦を立て、南の切り札は水代が合図したタイミングまで使うのは待てと言われた。
だがこの光に撃たれ続けている状況を変えるには切り札しかない。と南は考えている。合図はない、あろうことかこのピンチに水代は出ても来ない
もしかしたら水代はもうどこかに逃げたのかもしれない
けれど今は信じるしかない、突然連れてこられた世界で誰も信用できなくて、やっと見つけた信用できる人。
あの人のためにも僕はここで倒れる訳にはいかないッ!!!!
[勇者としての覚醒を確認]
[勇者に相応しい力が送られます]
突如として声が響いた。
なんか聞き覚えのある声だな、あっあれだ。王国『リア・デザイア』で出会った勇者かっ!名前は........忘れたわ。まあいいか、あの時もこんな感じで覚醒してたよな?ってことはちょっとだけヤバそう
俺は詳細はわからないが勇者として覚醒を遂げた南と馬鹿正直に正面から戦う気はない。今も放ち続けている光の矢のほかに別の属性の攻撃を加える。
火、水、風、土、雷そして闇までも様々な攻撃を与え続けるが、明らかに効いていない、先ほどまでの防戦一方といった様子は今はもうどこにもなく、今はただ、与えられた力をその身でかみしめているといった感じだ。
「雑音にもなってないみたいだな」
完全に一人の世界に入ってる。おそらく今何をしても無駄だろう。
ここで取るべき選択肢は2つある。戦うか逃げるかだ。まず1つの目の選択肢、戦う。これは今やっている攻撃を続け、どこかに隠れているでろう水代もろとも殺す。問題があるとすれば覚醒した勇者がどのくらい強いかわからない、水代がどのタイミングで出てくるかわからない、『神』に認められた勇者を殺すと『神』との敵対の可能性。ってとこか。うん、問題だらけだ
2つ目の選択肢、逃げる。この戦場から逃げて他の戦場に行って他の冒険者の助けをするのもあり、他の国にまで転移するってのもあり。だがこれにも問題がある、クラスメイトに顔が割れてる以上もしこいつが他のクラスメイトのもとに帰った場合、俺対クラスメイトの構図が出来上がってしまう可能性があるということ。これもだいぶめんどくさい。
うーん。どうするべきか。
そんなことを考えてるその瞬間。俺の頭の中から水代の存在が一瞬完全に消える。その瞬間をわかっていたがの如きタイミングで水代が俺の背後に現れる。
「地獄の精霊ッ!!!」
決死の一撃、俺の気が緩んだそのたった一瞬をずっと狙っていたのだ。精霊の効果はわからないが、受けるべきではないのは確かだ。
右の掌底を俺の背中に突き出してきた水代。それに対し俺は精一杯の回避行動をとる
「転移ッ」
簡易詠唱で魔法を発動。その場から少し離れた場所に転移した。その瞬間にもうひとりが攻撃を仕掛けてくる
「精霊剣!」
いつの間にか手にしていた細身の剣を俺に横なぎに振りかぶる南
その剣を俺は足で受け止める
.....ガンッ!
剣が止まる。南はまだ押し切ろうと力を入れるが俺も同じように力を入れる。少しの膠着の後、南は魔法を放つ
「『反射』ッ!!!」
いきなりパワーアップした南は剣を俺ごと振りぬく。当然斬れてはいないが俺は空中に放り出されたのでバランスを崩す。それに追撃するように今度は水代が魔法を放つ
「『火水風槍』」
魔法で作った槍をこちらに向けて放ってくる。
「3属性複合か....器用だな」
放たれた魔法はデカいが速度はそこまで速くない、ので俺は横に避けることで回避を成功させると同時に反撃の魔法を俺は放つ
「『落とし穴』」
俺は水代の足元に穴を空け、水代を落下させる。体が穴に完全に収まったところで俺は土魔法を発動し、穴を埋める。まあ気休め程度の措置だけどないよりはマシだろう
水代を埋めてる間に南の相手をする。
「大気の精霊ッ!」
空気を操り、実体化させた空気を腕のような形に固め、俺を殴ろうとしてくる。
「『魔力纏 巨大』」
対して俺も魔力を固め、殴り合いに応じる
ドンッドンッドンッと空気と魔力の見えない物どうしの殴り合いを数発繰り広げる。威力は互角だがこちらが勝っているものがひとつ。手数だ。
俺は魔力で腕を2本3本4本と増やしていき、およそ10本の腕を魔力で形成。まだ精霊の扱いが慣れていないであろう南は腕を2本にまで増やしたがそれ以上は増やせないらしい。腕が2本以上あるイメージができなかったんだろね
増やした腕で南の空気の腕を掴んで動きを止め。残った腕で南自身を掴み、穴から這い出てくる水代に向かって投げるッ
「クソッ」
南が小さな声をもらし、吹っ飛んでいく。
投げられた南と穴から出てきた水代がぶつかり、2人が同時に立ち上がる
ちょうど2人並んでるからいっぺんに殺すチャーンス
「『真空斬』」
ヒュンッ
不可視の斬撃が風だけを斬る音を立てて2人に向かう。
俺の放った魔法は2人に直撃!って思ったんだけど当たったと思った魔法は音も立てずに消えてしまう。まさに先ほどの俺の魔術のように....
「はぁ.......クッソ嫌な予感がする..........」
決着は近い.....けどもうひと展開あります。
本日2/22 猫の日ですね、私は犬より猫派です。




