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第十三話

 次の日の午後、キラはヨミと2人の赤鬼武官に付き添われてアイオン試験の会場となる大神殿へ向かった。


 「!」


 長い石階段を上っていた時、1人の北官吏と鉢合わせした。長い黒髪を後頭部で束ねた青年で、地下での通り名はラン。テフの弔いの時、ヘルを罵倒した官吏だ。


 すれ違いざま、ヨミ達が面の前で袖を合わせて御辞儀したので、キラは不本意ながらも彼らに見習って頭を下げた。ランはそれに答えず、悠々と横を通り過ぎていった。


 「・・・・。」


 その態度が気に入らなかったキラは、階段を下っていくランの背を睨みつけた。この日の上級アイオン試験の受験者は2人。

 キラより先に試験を受けて合格したランは、その時点でヨミ達より目上の存在となる。ゆえに頭は下げなくてもいいのだが、地方官吏同士の礼儀というものがある。


 「・・・ハクさんに下級文官っつわれたのが気に入らなくて、死に物狂いで修行したんだろうよ。悪い奴じゃないんだが、餓鬼の頃からやたらプライドが高くてな。」リョウは彼を弁護するようにキラに囁いた。


 リョウとランは幼馴染なのか。リョウは、北アク北東部に住まう少数民族〝カラムイ〟のコロニー出身だ。つまり、ランもカラムイ人ということになる。独特の文化を持つ有能な霊能部族だ。


 何であろうと、ランのような失礼な相手に負けるわけにはいかない。キラは深く息をつき、前に向き直った。


 

 大神殿の上階にある円形の大広間に通されたキラは席につく試験官たちに一礼し、中央に置かれた椅子に座った。第一段階の口頭試験では、不正を阻止するために霊感を封じ込める霊具の手枷が嵌められる。


 自分の両手首を拘束する冷たい重厚な手錠の感触に、キラは白イタチの下で顔を顰めた。この感触は、テサの記憶を嫌でも呼び覚ます。


 「緊張しておるか?」

 「いいえ。」


 正面に座っている獅子頭の試験官長の問いに、キラはきっぱりと否定した。シバはかすれた声で微かに笑った。


 「では、始めよう。」


 試験官が順々に出す質問に、キラは順調に回答していった。落ち着いた様子で正しい答えを返す彼女に、感心する試験官もいればイラつきを見せる試験官もいた。


 口頭試験を難なく通過し、続いて第二段階の実技試験に入った。手錠を外されたキラは、身体に力が戻ってくるのを感じながら深呼吸した。二次試験では霊術の技量はもちろん、精神力も試される。高度な霊術を連続使用する持久戦だ。


 精神統一する時間は充分に与えられた。麻痺していた霊感が完全に戻り、心の準備を整えたキラは、シバに目で合図した。


 まずは2000km離れた場所の遠距離透視。遠距離透視のことを〝千里眼〟と度々いうが、五百里以上の透視ができれば後は精神力の問題である。キラは、試験官に指示された方角に集中した。


 「!」


 荒地のど真ん中、シェルターの前で待機している日焼けした黒髪の官吏を捉えた。その瞬間、キラは思わず笑った。


 その笑い声が聞こえたとでもいうようにヤミは手を振り、課題となる物品を掲げた。彼の元気そうな姿を見て、キラは安堵感に包まれた。

 ヤミの様子をもっとよく見ていたかったが、精神力を必要以上に消耗するわけにはいかないので視界を試験会場に戻した。


 「退魔の鈴。」


 キラが答えると、シバは軽く頷いた。そして次の課題に移った。


 数種類の封印箱の中身を見破り、3体のイフリートの同時操作を成功させた頃、キラは頭痛がし始めた。だが、まだ課題は残っている。


 ここで閉心術を試されることとなった。キラは少しほっとした。彼女の閉心術は集中力こそいるものの、精神力は消耗されない。むしろ休憩をとるようなものだ。


 読心術者の試験官は、キラの動揺を誘う巧みな話術で彼女に様々な質問をした。キラは聞こえていることを明白にするため質問をオウム返しし、それには答えられないと一点張りした。試験官の声は、ひとつのイメージに集中しているキラの中でぼんやりと響き、ほとんど意味を示さなかった。


 終了の合図で我に返ったキラは、読心担当の試験官が興味津々に彼女を見ていることに気づいた。


 「・・・ひとつ、質問してもよいかな?試験とは関係ない。」


 キラは訝しがりながらも頷いた。


 「君が閉心に使っているのは、いったい何の映像だ?」

 「わかりません。」


 純粋な好奇心で質問した試験官に、キラは正直に答えた。


 「分かる人がいるなら、教えてもらいたいくらいです。」


 一面に広がる黄金色の光の渦。それは炎のようでもあり、水のようでもあり、一言では言い表すことができない。物質でも霊体でも無く、極めて純粋な何らかのエネルギー体だ。


 「エクトプラズムの一種であろうな・・・そのような質感のものは今まで見たことが無いが。君は、どこでそれを?」

 「・・・覚えてないんです。物心ついた頃には、記憶の中に。」


 大方の予想はついていたが、なるべく人に話すべきではないとテンに忠告されていたキラは、読心を試みる試験官に心を閉ざした。


 謎のエネルギー体を思い描いて無心になる彼女を、試験官はしばらく黙って見つめていたが、シバの指示で試験が再開されたため諦めた。


 実技の最終課題は徐霊。ここにきてキラは少々緊張した。最強クラスの悪霊を実際に祓うのだが、手段は受験者の自由である。


 布で覆われた大きな檻が会場に運び込まれた。キラは椅子から立ち上がり、右手に装備している鉄扇を広げた。試験官たちは、その美しい新生神器を見て感嘆のため息を漏らした。


 残りの精神力で神器の発動は恐らく1発が限界。シニが魂狩り鎌を貸すとは言ってくれたのだが、キラはモルフォの扇をどうしても試してみたかった。

 使用方法と込める精神力の大まかな量はヘルから聞いているが、まだ実際に発動させたことは無い。試し祓いできる強力な悪霊など遺跡か廃墟にでも出向かなければお目にかかれず、練習で人のファミリアを消滅させるわけにもいかないため、試験用に捕獲された悪霊との対決はキラにとって願ってもない機会だった。


 布が下ろされた。封印術が施された檻の中に閉じ込められた悪霊の醜悪な姿を一目見て、キラは恐怖よりも哀れみを抱いた。

 悪臭を漂わせるヘドロの塊が、体中にある無数の口らしき部分から苦しそうにエクトプラズムを吐き出している。血走った巨大な眼球が1つ、表面を転がるように忙しなく動き回っていた。怒り、憎しみ、悲しみ。不の感情を全て凝縮させたような怨念が、キラの身体にひしひしと伝わってきた。


 「準備はいいか?」


 試験官に聞かれ、キラは無言で頷いた。頷くと同時に、扇に精神力を込め始めた。力の送入から発動までに時間がかかるのが霊器だ。


 真珠色の短冊が煌々と七色に輝き始めた。試験官は檻の封印を解き、扉を開けた。悪霊はスライム状の巨体を震わせておぞましい咆哮を上げ、檻の外に這い出てきた。試験官たちが見守る中、キラは悪霊と対峙した。


 放出されているエクトプラズムに触れれば確実に霊傷を負う。接触しての徐霊は避けるべきだと判断したキラは、充分な距離をとるべく後退した。


 「!?」


 キラが動いた瞬間、悪霊はエクトプラズムを飛び散らして怒号した。彼女のとった行動が、酷い刺激になってしまったようだ。キラは自身の判断ミスを呪った。悪霊と直面したとき、下手に行動をとる前に本質を見極めるのが正しい徐霊の順序だ。

 動く者を攻撃するのが、この悪霊の習性だったようだ。


 全身から棘のような複数の触手が出現し、それらがキラに向かって一気に襲い掛かってきた。キラは浮遊石で跳び上がって回避した。そのまま、空中から光り輝く鉄扇を力一杯振り下ろした。


 「――――っ!」


 やり過ぎたと気づいたころには遅かった。度を越した凄まじいエネルギー波が神器から放たれ、試験官たちは素早く身をかばった。鱗粉のような光の粒子が、竜巻となって会場内を駆け巡る。その波動は照明器具、椅子、机をなぎ倒し、建物の外にまで達した。


 光の波動が過ぎ去った後、イフリートの襲撃にでも遭ったかのように荒れ果てた会場には、悪霊の姿はエクトプラズム1滴残さず消え去っていた。


 「・・・・。」


 間一髪のところで衝撃波を受け流した試験官たちは、言葉を失ってキラを見やった。彼らが卓越した防御術を体得する上級アイオンでなければ、悪霊もろとも魂が消滅しているところであった。


 無難に魂狩り鎌を借りるべきであった。キラは腰が抜け、床に尻餅を打って座り込んだ。


 「ご、ごめんなさい。」

 「・・・相当な荒馬のようだな。」


 モルフォの扇とキラ。シバの発言は、その両者に対するものだった。


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