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第十話

 中央官吏の迅速な対応と現場の近くにクウがいたことが幸いして、被害は広がらずに済んだ。だが今回の事件は、官吏たちの間で深刻な問題として取り上げられることになった。

 犯人の黒魔術師はインプの霊視録画のお陰ですぐに見つかったのだが、官吏たちに取り押さえられる前に自害してしまったという。


 犯人は、まだ若くて名も無いアルコン・パイマーだったそうだ。呪縛を受けていた痕跡があり、何者かが裏で糸を引いていたと考えられる。


 その日の夜、東官吏たちはムスリム屋を襲ったテロの目的について熱心に話し合っていた。キラは聞き耳を立てながら、異色のムスリムの事を打ち明けるべきかどうか迷っていた。


 言えば、イスラとサラマンを取り上げられてしまうかもしれない。ムスリム屋の店主は、キラに〝守れ〟と言った。キラはそれを彼に約束して頷いた。ならば、キラの手でイスラ達を守らねばならない。自分を信じて成仏していった店主を裏切るわけにはいかない。


 だが、これはキラだけの力でどうにかできる問題では無い。ヤミ達が調査している問題とも関わっているに違いない。


 「―――身が入っておらんな。」


 テンは仕事の書類に目を通しながら、キラに声をかけた。彼の指摘通り、昨晩同様に閉心の特訓中だったキラは全く集中できていなかった。


 「・・・ムスリム屋を襲ったのは、悪魔崇拝者?」


 キラが質問すると、やはりその事を考えていたかというようにテンはため息をついた。


 「そう考えるのが妥当であろうな。」

 「ヤミ達が追ってる黒魔術師との関係性は?」


 「魔界に派閥があるように、崇拝者と黒魔術師の教団も宗派で分かれておる。故に、必ずしも関係しておるとは言い切れん・・・気にはなるだろうが、昼間の事件は中枢の管轄だ。そなたは、閉心に集中なさい。」


 キラは信仰の対象とする悪魔の種類によって宗派があることは知っていた。


 「こうは考えられないかな・・・片足のムスリム屋を襲ったのは、ヤミ達が調査中の悪魔崇拝者に敵対する教団で、〝ロゴス派〟の勢力だと。」


 ロゴス派とは、現在の魔界を支配している悪魔の一族を支持する魔導師および悪魔崇拝者たちのことだ。カグヤ家もその中に入る。


 テンは書類から目を離し、キラを窺い見た。


 「・・・なぜ、そう思う?」


 「店主が死ぬ間際、異色のムスリムを守れって言ったんだ。店を襲った犯人は、異色のムスリムを消滅させることが目的だったんだよ。じゃなきゃ、店にいた全てのムスリムを呪いの炎で焼き払うような真似はしない。ロゴス派の一部の集団が、アウトローの手に異色のムスリムが渡ることを恐れて、それを阻止しようとしてるんじゃないかな。」キラは声を潜め、自身の推論を話した。


 テンは訝しげに首をかしげた。


 「店主は、何ゆえキラに託したのであろう?」

 「それは―――。」


 流石、いい所を突く。キラはできる限り平常心を保ち、考えるふりをした。


 「あたしが、その場にいたからじゃない?誰でもいいから、そのことを訴えたかったんだよ。」


 嘘ではない。駆けつけたのがキラではなくても、店主はきっと同じ事をその者に託していただろう。死に際の彼が、キラであることを認識していたかどうかも怪しい。彼の最期を看取ったのが、偶然にも彼が異色のムスリムを売った相手だったというだけだ。


 「・・・他に話すべき事は?」


 キラは平然と肩をすくめてみせた。

 テンは、疑るように彼女を見据えていた。


 「本当に、無いのだな?」

 「今のところは。」


 キラの力では、テンの目を誤魔化しきれない。彼は、キラが何かを隠しているということには気づいていた。だがキラは、それを打ち明けるつもりは無かった。彼女は、今は誰にも話すべきではないと直感で判断していた。


 テンは暫く黙ってキラを見つめていたが、彼女の頑固たる意思に免じて夜叉面の裏で目を瞑った。


 「青竜隊に伝えておく。」

 テンは無駄の無い迅速な動きで部屋を出て行った。



 『こんばんは。』

 「・・・・。」


 早速のお出まし。

 キラは、ひとつのイメージを頭の中で鮮明に思い描いた。


 『・・・あら?何よ、これ。』


 タマキは、彼女の思考を満たす不可解なイメージにうろたえた。それは、博識のマリッドでさえ知らないものだった。


 『ちょっと!何なのよ、いったい・・・閉心?閉心なのね!?』


 キラが閉心していることに対し、タマキは酷くショックを受けた様子だった。


 『つれないじゃない!試験勉強を手伝ってあげた恩を忘れたの?信じらんない、よくもそんな酷い仕打ちができるわね!〝ギブ&テイク〟が世の習わしでしょ!?』


 タマキの悲痛な訴えに、キラは一切応じなかった。ヘルを苦しめる魔物に同情してなるものか。タマキは暫くの間、キラの頭の中で喚いていた。しかし、どれだけ罵ろうと懇願しようとキラの閉心が揺るぐことは無かった。


 『いいわ、頼まれたって二度と何も教えてやらないんだから・・・もうっ!』


 ついにタマキは諦め、キラの頭の中から出て行った。程なくして部屋に戻ってきたテンに、キラは片手を上げてVサインしてみせた。


 「閉心成功!」―――「!」


 突然のキラの報告に、テンは呆気に取られた。どのような手を使ったのか定かでは無いが、マモンに読心される事無く見事に追い払ったのだ。

 半信半疑ながらも、テンはキラの底力に感服して笑った。


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