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第十一話

 「・・・・。」


 飯屋に入ってきた2人連れを見て、1人の店員が凍りついた。


 アグニは、すぐにその店員に気がついた。


 「ミア・・・。」

 「アグニ・・・。」


 2人は同時に呟いた。


 「何やってんの?今日、見張り役の当番でしょ。」

 ミアは冷淡な口調で指摘した。


 アグニの日程をミアが把握していたことに彼は驚いた。


 「・・・お前こそ、いつからここで働いてんだ?」

 「今日から。その子、誰?」


 ミアはアグニの質問に素早く答え、リサをちらりと見た。


 「あ、こいつは・・・。」

 「あなたが、アグニの彼女さんね!」


 アグニが説明する前に、リサが前に出た。


 「彼女?いいえ、違うわよ。あたしはミア、そいつのただの幼なじみ。」

 ミアは〝ただの〟をやたらと強調して否定した。


 「あれ、違うの?緑色の目だからてっきり・・・そうだ、丁度よかった!リサたち明日からしばらく紅蓮洞を離れるんだけど、ファルコの店でリサの代わりになるウエイトレスが必要なの。リサ、ミアをスカウトしちゃう!可愛いから絶対ファルコもオッケーするよ!」


 リサの凄まじい早口が炸裂する中、アグニとミアは眉を顰めた。


 「お前、蛇の目に同行するのか?」

 「あれれ、言わなかったっけ?リサは、これでも優れたパイマーなの!ターニャにも認められてるんだよ、すごいでしょ?」

 アグニはいろんな意味で唖然とした。


 「・・・明日から、蛇の目に?初耳。」

 ミアは抑揚の無い口調で呟いた。


 「うん!昨晩、決まったからね。アグニとリサは準備があるから、今日から仕事が休みなの。だから、急で悪いんだけど・・・。」


 「ファルコの店?お断りよ。見ての通り、あたしはここで働いてるの。」

 ミアはリサの言葉を遮り、きっぱりと断った。


 「ここは昼間だけでしょ?夜の2、3時間でいいから来てもらえない?お願い!」リサは食い下がり、小声で付け足した。「給料は、ここでフルに働くよりいいよ。」


 ミアは不愉快そうに顔を顰めた。

 「あの男の下で働くのが嫌なの。寒気がする。」


 「ええーっ!ファルコの事、嫌いなの!?珍しい・・・彼でも女の子に嫌われることあるんだぁ。ますますリサは、ミアが気に入った!」リサは、なぜか大喜びした。


 「リサたちが戻るまででいいから、お願いっ!ファルコはいないんだし、いいでしょ!?」


 それを聞いて、ミアはさらに顔色を悪くした。


 「・・・ファルコも、一緒に行くの?アグニと?」

 「そうだよ!だからミア、何の問題もないよね!?」


 「問題、大ありよ!」


 ミアは、ついに声を荒げた。


 「どうして、あいつと蛇の目に行く必要があるの?何をしに行くのよ!?」


 「ミア・・・。」

 アグニは説明しようとした。


 「何で、あたしの忠告を聞いてくれないの!?あたしは、あんたに言われて足を洗おうと思ったのに!そんなに、あの男が大事!?どうかしてるわよ!黒魔術でもかけられて、洗脳されちゃったんじゃないの!!?」

 ミアは、沸騰した湯のように沸きあがった激情をアグニに浴びせかけた。


 「な・・・何、バカ言ってんだ!?お前、ファルさんのこと誤解しすぎだって!今回の仕事はアマゾナスの高官命令だ!!あの人のこと、何にも知らないでよくそこまで言えるな!?」

 アグニも熱くなって怒鳴り返した。


 「じゃあ、あなたはよくご存知なのね!?何を考えてるのかも分からない相手のことを!すごいじゃない、お見それしたわ!あんたの能天気ぶりは一級品ね、どんな霊術も敵わないわ!!」


 「少なくとも、無能者のお前よりは理解してるよ!!これ以上、ファルさんの悪口は許さねえ!!」


 ミアは冷酷に短く笑った。


 「許さないとどうなるのよ?呪縛をかけて、操り人形にでもしてみる!?あんた達の得意技よね?人肉が食べられない!?笑っちゃう!とんだ偽善者ね!!戦場では、もっと卑劣なことしてるくせにっ!!」


 「――――・・・っ。」


 ミアの鋭く尖った氷の一撃がアグニの心臓を貫き、彼を凍りつかせた。


 「ア・・・・。」


 ミアは、自分の口から出た思いもよらぬ冷徹な発言に青ざめた。


 しばらくの沈黙の後、


 「・・・ああ、そうだ。お前の言うとおりだよ。」


 アグニは冷え切った声で、ミアの発言を認めた。


 「本音が聞けてよかった。」


 彼はそう言い残し、店を出た。




 早足で商店街を突き進んでいくアグニに、リサは懸命に追いかけながら陽気に話しかけた。


 「ミアって、すっごいアウラ!!びっくりしちゃったぁ、無能者だなんて思えない!」

 「・・・・。」


 アグニは無視して歩き続けた。


 「リサまで凍りついちゃったよ。あんな感覚、初めて!ただ者じゃないね。きっと、そのうち霊感が目覚めるよ。ソーマ酒を飲むか、臨死体験でもすれば絶対化ける!間違いない!ミアは原石だよ、すっごく貴重で珍しい原石!!」


 アグニは立ち止まった。


 「ん、どうしたの?アグニ?」

 「悪いんだけど、おれもう帰るから。ついてくるな。」


 アグニは前を向いたまま、淡白な口調で言った。


 「それから、ミアには関わるな。手を出したらぶっ殺す。」


 リサは、彼の禍々しいアウラに気圧されて後ずさった。


 「・・・リサ、了解。」


 彼女は今にも泣きそうな顔をしながらも、おどけるように敬礼してみせた。


 アグニは彼女に目むくれず、商店街を抜けて路地へと入っていった。


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