77、内輪揉め
レッドの突然の登場に固まるベルギルツたち。扉を開け放ち、ミルレース、オリー、ライトと続けて入ってくる。周りを囲むように立っている強者たちを目の当たりにし、オリーは目を丸くした。
「え?これは……こんな大勢集まって欠片を渡しに?1人が代表して持って来れば済むだろうに無駄もいいところだ」
「いや、待ってくれオリーさん。何か様子がおかしい」
ライトの発言で周りを見渡す。
「あれ?グルガンさんがいないじゃん。え?ここってグルガンさんのダンジョンで間違いなかったよね?そこの……なんってったっけ?ベル……なんとかさん」
「ゴホンッ……私の名はガンビット=侯爵=ベルギルツと申します。以後お見知りおきを」
「あ、そうですかベルギルツさん。それで先ほどの質問なんですけど……」
「ええ、ええ、そうです。その通りです。ここはグルガン様の居城で間違いございません。ところで、あなた方は一体全体どうしてここに来られたのでしょうか?」
何も知らないような素振りのベルギルツにライトはため息をついた。
「……やっぱりちょっと待っていた方が良かったようだなレッド。この調子だと欠片は後日になりそうだ」
『は?なんでここまで来て諦めムードなんですか?まだ何にも話ししてませんよね?自分の中だけで完結するのはライトの悪い癖です』
ライトはムッとしてミルレースを見やる。そんなやりとりを見ていたベルギルツの脳内にあるひらめきが生まれた。
「は、はははっ!なるほどなるほど。あなた方は何か勘違いをされているようですね。グルガン様に騙されてここまで来たようですが、それは全て罠です」
周りの皇魔貴族たちは驚きのあまりベルギルツに視線を集中させた。何を急に言いだしたのか困惑するも、ベルギルツの真意に気付いた男爵のひとりが手を振って制す。
「え?は?罠?」
「ええ、その通り。ここに来れば欠片を手に出来ると聞いてきたのでしょうが、そんな話はありませんよ。あの獅子頭のデカブツはあなた方と私たちとを戦わせるためにこの場を用意したのです。ああ、なんと嘆かわしいことでしょう。あなた方が疲弊したところを狙ってトドメを刺すつもりでしょう。私が気付くことが出来たおかげでそんなことにならずに済んで良かったですねぇ。あの獅子頭は完全な裏切り者ですよ!全く許せませんね!!」
巻くし立てるベルギルツを見ていて他の皇魔貴族の面々にも理解の色が浮かんだ。それはレッドたちがこのダンジョンにいた理由。グルガンがこっそりここに導かねばこんなタイミングで出くわすなどあり得ない。自分の領土にあるなんらかの弱点を優先し、連れて来たレッドたちを放置してしまったのだ。それだけ焦っていたということもあるだろうが、もしそうなら愚策中の愚策。残されたレッドたちに有る事無い事吹き込み、グルガンに対して不信感を与えれば、勝手に争い合う可能性がある。ベルギルツのアドリブには感心させられた。
「あ、えっと……違います。俺たち勝手に抜け出して来ちゃって。早いところミルレースを復活させたいからグルガンさんを探してたんですよ。だから罠とかは勘違いっていうか……」
「えぅっ!?抜け出し……か、勘違い?!」
ベルギルツの策は外れ、周りの目も冷ややかとなる。
『ほら見なさい。会話をしないからあんな勘違いが生まれるのですよ。ライトもこれからはちゃんと会話をしてですね……』
「ちょっと静かにしててくれミルレース。……ならば貴様らはここで何をしていた?グルガンに欠片を渡すにしては物々しい雰囲気だが……貴様らこそグルガンのダンジョンに乗り込んで罠を仕掛けようとしていたのではないか?」
「ふっ……おやおや随分な言い様ですねぇ。私たちはグルガン様に呼び出されて来たにすぎません。私たちがグルガン様にここで待つように言われたところ、あなた方の登場というわけです。偶然だとしてもこれで勘繰らない方がおかしいのでは?」
『んもー。ライトも学習しませんね……ま、勘違いだろうが何だろうが関係ありませんよ。私たちは私の欠片をいただければそれで満足なのですから。さぁ、御託はもういいので、そろそろ渡してくれませんか?』
「い、いや……それは……じ、実は今持っていなくて……」
『?……いや、持っているじゃないですか。あなたの懐に私の気配を感じます。面白くないので、そういう冗談はほどほどにしていただかないと……』
欠片を感じられるミルレースに死角はない。動揺するベルギルツたちに対して欠片を渡せとせっつく。
口車に乗せてレッドとグルガンの間で争いが起こるのがベストだったが、ベルギルツの思った風に転がることはなく、結局ベルギルツ側がピンチに陥る。出入り口はレッドたちがいるために逃げることもままならない。ここを生きて出るには持参している欠片を渡す以外にない。
「おい、固まったぞ。何なんだお前らは?ただ欠片を渡すだけが何故出来ないんだ?」
『ん?これはもしや……私の復活を阻止すべく集まったのでは無いでしょうか?』
ドキッと心臓が跳ねる。ミルレースの質問はズバリドンピシャ。不味いと思ったが、これ以上口を開けばボロが出ると考えたベルギルツは押し黙った。だがその行動は黙認に等しい。レッドはパチパチと瞬きをしながら首を傾げる。
「あれ?俺がフィニアスさんの攻撃を食い止めたら欠片をくれるって話じゃなかったっけ?」
「反故にしたいと見える。となればここでグルガンを待ち伏せして欠片を強奪しようとしたが、失敗して逃げられたのがオチじゃないか?」
「おおっ何と凄まじい妄想でしょうか!起こってもいないことをさもあったかのように!仮にそんなことを考えたとて、何が悪いというのでしょう?女神が復活した暁には我々魔族が割りを食うことになるでしょうし、それを放置することは先人たちの努力を無に帰することに他なりません。そんなこと許されるわけありませんよね?」
「え……で、でもベルギルツさんが言い出したことでしょ?あれが出来たら欠片をくれるって……」
「言ってません」
「何だこいつ……ライトの言う通り反故にする気満々じゃないか。どうするレッド。私が叩き潰して欠片を奪ってこようか?」
オリーは拳を握りしめて臨戦体制となる。
「ふははっ!どうぞ試してみてください。あなたごときが私を倒せるとは到底思えませんがね?」
「オリーさん。ここは俺に任せてくれ。2人の足手まといにならぬように修行した力をここで見せてやる」
「良いですとも!2人いっぺんに掛かって来てみてはいかがでしょう?相手になってあげますよ?ほらほらぁ」
ベルギルツはくねくねと体を揺らしながら挑発し始めた。
「洒落臭いわっ!!さっきからクドクドとっ!!やるのならとっととやるがよいベルギルツ殿!!」
「はぁ?なんですかそれ!?高みの見物を決め込もうとしているのですか?!やるならみんなでやるのですよ!!それが常識でしょう!!」
わいわいっギャーギャーッと騒ぎ立てる。レッドたちは顔を見合わせてしばらく様子を見ていたが、業を煮やしたミルレースがレッドに耳打ちする。
『もういっそ全員叩き切ってしまいませんか?』




