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68、勢揃い

 花の宮と呼ばれるダンジョンの前についたレッドたち。その外観はまるで植物園のようなガラス張りの大きな建物が鎮座し、その周りを花や草木が覆っている。建物に入ってすぐに食人植物が『こんにちわ』。冒険者3年目くらいの経験値が必要となってくる難しいダンジョンで、初級冒険者は行かないようにギルドから警告が入るほどである。

 歴代の冒険者の努力の甲斐あって14階層の主と思われる魔獣を倒し、攻略済みだと記録されているが、14階層の詳細な情報がないので、主と思しき魔獣を倒して引き返したのか、または虚偽であるかハッキリはしていない。


「言い忘れていたが、我のこの姿は仮の姿。本当の姿を見せておかねばならんな」


 そういうとグルガンのただでさえ大きい体が漆黒の影に包まれ、みるみる変化していく。毛量が明らかに増え、口元が尖る。上にも横にも大きくなり、胸板や腹筋で厚みが出てきたところで影が晴れた。そこに立っていたのは3m近い身長の二足歩行の獅子。強者とはかくあるべきと義務付けられたように獰猛さと知性を兼ね備えた、筋骨隆々の頂点捕食者。


「これがグルガンさんの本当の姿……」

『めちゃめちゃ強そうですね』

「見た目は凶悪だが、その目に確かな知性を感じる。認めたくはないが王の風格を持っているな」

「ほぅ……これほどの体躯を隠す魔法か。ウルレイシアの記憶の中にもない、かなり特異なものと見える」


 それぞれの感想を言い合う中でフローラが何かに気づいたようにハッとする。


『なんと!獅子頭の一族じゃったか!()れの親族を見かけたことがあるが、頭の悪い暴れん坊といった風じゃったがのぅ。育ちかえ?』

「ふっ……多分な。では我は先に最下層に降りる。この1フロア下に最下層までの案内役が居るので、それと共に一気に駆け下りてきてくれ」

「え、でも魔獣が居るんじゃ?」

「居るには居るがちょっかいを掛けぬ限り襲ってくることはない。今回だけの特別な処置だがな。それでは下で待つ」


 グルガンはニヤリと口角を上げてレッドを見た後、パッと映像の切り取りのように目の前で消えた。驚いて周囲を見渡すも、先ほど居たグルガンの足元以外に痕跡はない。

 何が起こったのか、どうやったのか。分からないことをそれぞれ言い合っていたものの、結果答えが出るわけがないので考えるのをやめ、レッドたちは先に進むことにした。

 中に入り、しばらく進んで気付く。魔獣たちは植物の影からそっと見ているだけで近付く気配は感じられない。グルガンの言った通り、自らちょっかいをかけない限り来そうにない。

 2フロア下に潜った辺りから変化があった。


「あ……」

「ん?」


 フロアの真ん中に佇む人影。仮面の大男がレッドたちを待っていた。大男は自分を執事(バトラー)と名乗り、案内役であることを口にした。


「……徒歩での移動は……ここまでだ」


 そういったバトラーの背後に蠢く影。その影は大きな黒い塊となり、動物の姿を模した。黒く巨大な狼。それは以前レッドが倒した狼に酷似していた。


『あっ!あなただったのですね!この獣をけしかけたのはっ!!』


 ビッと指を差してバトラーを非難するミルレース。バトラーの肩がビクッと跳ねたが、咳払いを1つして正気を取り戻す。


「……いいから乗れ」


 大狼は背中を見せて伏せた。全員が乗れるスペースはなかったが、影を立体化させた存在であるシャドーガロンは形を変えることが出来るため、足場を作ってスペースを自ら作りだす。

 乗り込んだ後の移動は目まぐるしいほどに速く、上下に揺れることもないので振り落とされる心配もなかった。人類未到達の15階層も軽々超えて気づけば最奥手前まで運ばれていた。


「なんということだ……ここまであっという間だったからか感動が爪の先ほどもない。やはり自らが達成してこそ生まれるのか……」


 当たり前のようだが、普段そんな風に思ったことも感じたこともないライトにはとても新鮮なことだった。


「今回の件はあくまで人助けだから仕方がない。別のダンジョンではまた冒険が出来るようになる」

『さ〜ての。そうなるかどうかはこの話し合い次第と此れは思うが?』

「それはどういうことだ?」

『ふひっ!分からんか?魔族と親交を深めれば手に汗握る冒険ではなくなるとは思わんか?命のやり取りがなくなり、冒険の片手間やっていた資源採掘は単なる仕事としての採掘となる。魔族が人助けをするようになれば魔獣の脅威はなくなり、今いる冒険者たちは路頭に迷う。脅威は内部から噴出し、結果混沌の出来上がり。未来を考えれば、この話し合いは破綻しとるんよ』

『ずいぶんと世俗に詳しい精霊ですね。ずっと人と関わってきたような貫禄があります』

『此れは風じゃ。そよ風を吹かせ、時には嵐を巻き起こす。生き物と密接に関わるゆえ、人に対する興味が尽きぬ。特に秩序や節度などとほざいて自分本位に謎の制限を課していくのはまことに面白きこと。精霊同士では得られぬ興奮がそこにある』

「ならば分かるはずだ。人間はその時々の状況に適応する。君にとっては謎かもしれないが、ルールを作るのは人の知恵だ。もしフローラの言うことが当たっていたとしても、一部のゴロツキは何かしらやらかすかもしれないが、それは今でもよくあることだ。ことさらに取り上げることでもないよ」

『ほぅ?……まぁ、そうとも言うかの』


 フローラは頭に両手を回してつまらなそうに唇を尖らせた。レッドは(難しい話をしているなぁ……)と内心感心しながら地面に降り立つ。案内されるがままバトラーの背後についていくと、大きな扉の前に行き着く。


 ギギィ……ィィィ……


 大きな扉を支える蝶番が悲鳴を上げながら開け放たれる。デーモンが左右の扉にそれぞれ1体ずつついて扉を開けたようで、到着と同時の完璧なタイミングであったため、練習したのかと思わせるほどだった。中に入ると思った通り玉座の間。鎮座している女性の右側にグルガン、少し離れて青い肌の女性魔族とシルクハットののっぺらぼうが立っていた。玉座に上がる階段の端々に個性豊かな魔族が並び、階段までの道中はデーモンが左右列をなして誘う。


『勢揃い、といったところかのぅ?』


 フローラの呟きを肯定するかのようにゆるりとバトラーの顔が動く。バトラーはそのまま歩き出し、レッドたちを先導する。デーモンたちの前を通り、階段前に到着するとそのまま跪いた。レッドもつられて腰を落としそうになったが、ライトが両肩を掴んで制する。


「……お連れいたしました」


 バトラーの行動の意味にようやく気付いたレッドは恥ずかしそうに縮こまった。


「ご苦労であった。下がれ」

「……はっ……」


 バトラーは滑るように階段の端に行き、姿勢を正して微動だにしなくなった。バトラーの一連の行動に感心していたレッドだったが、今どういった状況かを思い出して前を向いた。


「よく来たな。待っていたぞレッド=カーマイン」

「あ、どうも。……えっと」

「アルルート=女王(クイーン)=フィニアス。皇魔貴族の代表である」


 勢揃いした魔族の中心にいるレッドたち。見た目だけならばどうしようもない戦力を相手に、一歩たりとて引くことのない、どころか全てを凌駕するレッドの秘めたる力。今現在危険なのはどちらなのか。

 チグハグな状況に渦巻く殺意と欺瞞と信頼のカオスに包まれながら、未来をかけた話し合いという名の交渉が始まる。

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