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294、腹の探り合い

「さてっとっ! 改めまして。俺はこの屋敷の主人であり、天征十一将の一角『リクゴウ家』当主のアキマサ=リクゴウだ。以後よろしく」


 奥の間に通され、ドカッと上座に座った途端の自己紹介に呆気に取られる。


「あ、俺はレッドです。レッド=カーマイン。チームのリーダーをやってます」

「へぇ? あんたがリーダー? ふーん……そっちは?」


 アキマサの目はグルガンに向く。


「我の名はグルガンだ」

「苗字は?」

「グルガンだ」

「あ、苗字がグルガン? じゃあ名前は?」

「今はまだ伏せる」

「おや?……警戒されちったか?」


 ポリポリと額を掻きながらブルックを見た。


「ああ、私の名は……」

「あ〜っ! 言わなくたって分かるよぉ。ルオドスタ帝国の第二剣聖、ブルック=フォン=マキシマだろ? 有名人だよ〜。他にも有名人がいるねぇ。眼帯お姉さんは第五剣聖のレナール=メトロノーア。そっちの女の子たちは聖王国ゼノクルフの七元徳(イノセント)。『謙虚』のティオ=フラムベルクと『純潔』のリディア=ハルバートでしょ? そして俺の元弟子、第七剣聖のアレン=レグナス。錚々(そうそう)たる顔ぶれじゃないかっ!」


 手をバッと広げて嬉しそうに顔を綻ばせた。だがすぐに畳に両手をつけて頭を下げた。


「そしてすまないっ!! すぐに入国が出来なかったのは俺のせいだっ!! 防衛将に伝達が遅れたせいで君たちに迷惑をかけたっ!! 心からお詫びさせてくれっ!!」


 その瞬間にレッドの頭の中で像が結ばれる。


(あ、じゃあやっぱり壁の上で誰かと話してたのはこの人か。きっと慌てて伝えに来たんだろうな……)


 レッドが一人納得していると、グルガンがズイッと前に出て尋ねる。


「入国許可が下りているはずの壁の外で警告もなしに攻撃を仕掛けてきた件だな? 貴公の伝達ミスが原因なのか?」

「あ〜……正確には入国許可が下りたのが今日というかさ。これ」


 そうして差し出した紙は捺印もしてある公的文書。確かに許可が下りたことを証明する文章が(したた)められていた。


「すまないっ! いつでも来て良いと書いたのは俺なのにこんなことになってしまって……」


 故意ではないことを知った面々はお互いに視線を交わし合って納得した表情を見せた。


「いや、もう良いんですアキマサさん。魔導戦艦に攻撃こそされましたが全員無事でしたし、こうして誤解も晴れましたので顔を上げてください」


 アレンの言葉を聞いて顔を上げる。


「ありがとうアレンくん……お詫びと言っては何だが、この屋敷を好きに使ってくれ。この国まで来て何をしようとしているのかまでは知らないが、ここを拠点にしてくれて構わない。幸いにもかなり広い屋敷だし、部屋数も多い。使用人もいるから三食付きで何泊してもらっても構わないぞ? 用事が終わるまでは世話を惜しまない」

「いや、そんな……」


 アレンが困ったような顔でタジタジになっているとグルガンがさらにズイッと前に出た。


「ではその好意、ありがたく頂戴する」

「良いねぇグルガンさん。これでこっちも心が晴れるってもんだっ」

「敬称など良い。呼び捨てで構わん。着物の用意があると聞いたが、借りても良いか?」

「もちろんもちろんっ。何なら持って帰ってくれても構わねぇよ?」

「それはありがたい。先の不良共との戦いを見たと思うが、ああいう戦いをしていたら服を無事に返せるか疑問だったのでね。これで思う存分動けそうだ」


 全てを受け取ろうとするグルガンにアレンは焦り気味に声をかける。


「ちょちょちょっ……っ! 厚かまし過ぎませんっ?!」

「必要なものを必要な分手に入れようとしている。快く差し出してくれるのなら受け取らない手はない」

「そうだぜ〜アレンくん。これは俺の罪滅ぼしなんだ。受け取ってもらわなきゃ俺が困る」


 本人が良いと言っているのは確かだが、あまりにホイホイいただくのは節操がないように見える。


「そういえば、入国許可が下りているということは魔導戦艦を近辺に寄越しても何も問題ないのだな?」

「そりゃもちろん……だけど、降ろせっかなぁ? 遊ばせてる土地が無いから壁の外になっちまうぜ?」

「この際仕方なかろう。我が一度魔導戦艦に戻り、ちょうど良い場所に置けるように誘導しよう」

「なら良い隠し場所を教えてやるよ。モミジっ! みんなの着物を出してやってくれ。俺はグルガンと一緒に出てくっから」

「了解。寄り道せずにまっすぐ返って来てよ師匠」


 モミジの返事にアキマサは腰を上げ、グルガンと共に部屋から出て行った。

 レッドはその行動を不思議な目で見ていた。


「あれ? ここで転移を使えば良いのに……」

「お前バカか。グルガンはフルネームを名乗らないほどには警戒してただろうが。まだ味方認定してねぇ証拠だよ。ここで転移を使わねぇのも策略の内だ」

「え? あの会話でそこまで推測出来るのか?」

「ふふんっ。俺様の推測が正しけりゃ、数々の要求はいわば許容範囲の確認だ。何をどれだけ通せるかを吟味してやがった。で、その結果全部通ったから超絶怪しんでるのが今だ」


 オディウムがふんぞり返っていると、みんなが感心したような顔で見ていた。


「ああっ! 通りで引き下がらなかったわけだっ!」

「よく頭の回る牛の魔物だ」

「本当ね。感心したわ」

「生みの親のモラクスさんが賢い方でしたから、オディウムさんも頭が回るんですよ。きっと」

「思った。やっぱり親譲りって奴?」


 称賛の声に気持ちよくなるオディウム。


「いやでも、そうだとするとグルガンの性格悪ぅ……」

「まぁ確かに……」


 相手の弱みに付け込んでズケズケと要求を通すのは確かに性格が悪い。

 時と場合、あと相手にもよるかもしれないが、グルガンとて聖人というわけではない。擁護出来ることと擁護出来ないことはある。

 オディウムとしては元より擁護などするつもりもないが、レッドも擁護し切れない。深謀遠慮のグルガンの頭の中を知ることなど自分には出来ないからだ。きっとライトなら察せたのかもしれない。


「ま、とにかくアキマサって野郎はこっちを気持ち良くさせてから同じ分、いやもしかするとそれ以上要求しようとする可能性がある。グルガンはそいつを待っているはずだ。今頃腹の探りあいが始まってらぁ」


 それを影で聞いていたモミジはグルガンに警戒心を持つ。


(頭の回る奴みたいね。師匠は商人だから確かに見返りを考えてのことだろうけど、そういう裏事情を知らないはずのグルガンって奴がそこまで考えて行動してくるのは結構厄介な相手かも……。それを看破する魔物も大概だけど、用心に越したことはないか……)


 モミジが警戒心を持った裏でグルガンは歩きながらアキマサに話しかけていた。


「……貴公、我らを試したな?」

「ん〜? 何の話だ?」

(とぼ)けるな。不良共の囲み方は手慣れているという表現では追いつかない。あれは我らを待ち伏せしていたとしか思えん」

「あら〜。バレちった? やるねぇグルガン。まぁそれのお詫びも兼ねてってことで許してくれない?」


 グルガンは足を止め、アキマサを見る。


「いや、それだけではない。先ほどの入国許可に関する文書だが、受け取りが今日だったために伝達し忘れていたというのも可怪しい。普通ならアレンが書状を出した時点で通達するものだ」

「ははっ。うっかりしてた」

「……我には貴公がそんな間抜けには見えん。それにモミジ殿が聞き分けの無い武家が攻撃を仕掛けたと言ったが、貴公はその問題ある武家に伝え忘れたと言った。双方の発言には食い違いがあり、どちらかが嘘を伝えているのは明白。ならば当主である貴公が最も怪しい。本当は壁の外で我らの実力を測ろうとしていたのであろうな」

「へぇ……」


 グルガンとアキマサの間にピリッとした空気が流れる。しかし険悪なムードをグルガンが断ち切る。


「いや、別に責めているわけではない。むしろ結構なことだ。貴公も何かしら我らを使い、やりたいことがあったのであろう?……それで、我らは貴公のお眼鏡に適ったかな?」

「はっ! おいおいマジかよ〜。そんなに頭良いなら初めから言っといてくれよなぁ〜。……試して悪かった。実を言うとこの国は今かなり面倒な問題を抱えているんだよ。なりふり構ってられないほどにな……」

「聞かせてもらおう。我も何か手伝えることがあるやも知れんからな」

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