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290、旅先への期待

 聖王国を出立したレッドたちは、剣聖アレンから龍球王国について話を聞いていた。


「何と言っても独自の文化が光る国ですね。木造建築で瓦屋根。美しく荘厳で調和を重んじる精神。人々は優しいですし食べるご飯もおいしい。特に俺が注目したのはやっぱり剣に関することですかね。刀と呼ばれる特別な素材と特別な製法で作られた武器は龍球王国独自のものです。俺の同僚のブリジットの持ってる刀もその一本で、上から数えた方が早いくらいの逸品(レアもの)。そういった刀を中心とした様々な剣術の流派はどれも筆舌に尽くしがたいものです。俺はその国でアキマサさんという方に剣術を習いました。元々俺が個人的に使っていた剣術と合わせることで動きに幅が出来、さらに強くなれたので、もし時間があるようでしたら皆さんも一度習ってみるのが良いかもしれませんよ?」


 饒舌に喋るアレンに物珍しそうな顔で聞くレッドたち。とてもじゃないが戦いに行くような空気感ではない。


「……よぉ。お前らいつもこうなのか?」


 ドラグロスは首を傾げて呆れ気味にグルガンに問う。


「良い意味でリラックスしている。緊張感を持つのは大事なことだが、ずっと張りつめていたらそれだけで疲れてしまうからな。気の抜きどころが重要なのだ」

「そりゃそうだろうがこれはちょっと抜き過ぎじゃねぇか? まるで旅行にでも行くような雰囲気だぜ」


 アレンの説明の仕方もあるのかもしれないが、『忘れられた大陸』組はすっかり観光気分で嬉しそうにはしゃいでいる。七元徳(イノセント)や剣聖の中にも戦い以外に飲食に興味を示すものが居る。

 ドラグロスがデザイアに反旗を翻したことでより一層の危険が伴うというのに悠長なものだ。


「貴公が危惧していることはもっともだ。なればこそ、我らが皆の代わりに目を光らせておけばよい。いざという時に最高のパフォーマンスを出せるように」

「そんなもんなのか? どうも甘やかしすぎてるように感じるがよぉ……」


 グルガンはドラグロスの考えを否定しない。生き物によって様々な気の持ちようというものがある。特にドラグロスはデザイアの怖さを知っている上で裏切っているのだから気が気でないのは確かだ。

 傍で聞いていたライトはドラグロスに質問を投げる。


「しかしそうは言っても今回は一応戦いに行くわけではないのだろう? 貴様の考えはグレゴールの篭絡。戦力の増強が今回の趣旨で間違いないよな?」

「まぁな。あのオカマだけは俺らの中でも異色な奴で平和主義だからな。デザイアの支配に関してはずっと懐疑的で、極力暴力による支配を避けるせいか、あいつが担当した世界は支配完了までかなりの時間がかかる。あいつもあいつでデザイアの下に居ることを良しとしてねぇってこった」

「つまりきっかけさえあれば……」

「そうだ。旨味が分かればこっちに転がり込んでくるって寸法よっ」


 ドラグロスは自信たっぷりにふんぞり返るが、そんな容易いことなどないだろう。


 第一に剣神をも屠る強大な力を持ったガルムたちと肩を並べる力を持っている怪物。デザイアはその上に君臨する神の如き化け物なのだから、逆らうことに難色を示すのは当然のこと。

 第二に同等の力を持つドラグロスの目線で平和主義なだけであり、弱者から見れば暴君という乖離だって無いことはないのだ。

 まず断られるのは見えているし、デザイアに報告されればいきなりクライマックスを迎えることだってあり得てしまう。


 とはいえ魔神を味方に加え入れるのは魅力的である。

 まず無駄な戦いをしなくてもよくなる上に、戦力の大幅な増強につながる。浮島と呼称する浮遊要塞をその身一つで破壊可能なドラグロスと肩を並べる存在の仲間入り。その可能性に賭けないわけがない。

 デザイア討伐前に消耗するわけにもいかないし、誰かが欠けることなどあってはならないので、この賭けに乗らないわけにはいかない。


 しかし、これは諸刃の剣。グレゴールの対処を見誤って殺し合いに発展すれば今度こそ国を巻き込む可能性があり、一手間違えれば世界をも敵に回すかもしれない道に立っていることを改めて実感する。


 悩ましく巡るグレゴールの問題。そんな時、無意識に視線がレッドに向かう。


 デザイアと戦えるであろう最強の男。

 レッドの存在がライトたちの心の影を晴らしてくれる。

 何かしでかしてくれるのではないかと期待が膨らむ。


「お前はもうちょっと肩の力を抜けよ。あのチビの言ってることが本当なら、その龍球王国ってのは友好的な国なんだろ? お前らは先に国の代表にでも会って仲間を搔き集めとけ。俺がグレゴールの野郎と交渉するぜ」


 グルガンは楽観的なドラグロスに視線を送る。


「あ? そんな目で見んなって。不安なら一緒に来るか?」

「……いや、信じよう。行動を共にする機会が多かったからこそ生まれる絆というものがある。そういう親しい間柄に我が顔を覗かせては不安を助長するかもしれないからな」

「親しい間柄ぁっ?! あのオカマとかぁっ?! 気持ち悪いこと言うんじゃねぇよっ!」

「待て、他意はない。言い方が悪かったなら謝ろう。とにかくグレゴールは貴公に任せると言いたかったのだ」

「……ったく、勘弁しろよ。言いてぇことは分かるが、今後言葉には気を付けろよ? 特にあのオカマの前でそんなこと言ってみろ。その時点でグレゴールのおもちゃだからな?」

「ううむ……口は災いの元ということか。すまない、善処する」


 グレゴールという魔神がいったいどういう存在なのかよく分からなくなってきたグルガンは腕を組んで口を結んだ。


 ──ゴゴォンッ


 その時、魔導戦艦が揺れた。


「な、なんだっ!?」


 ここまで何事もなく空を飛んでいたはずの魔導戦艦が揺れるなどあり得ない。台風や竜巻クラスの天災に巻き込まれたか、または──。


 ──ゴゴォンッ


 もう一度大きく揺れた時に艦内放送が流れる。


『攻撃を受けているっ! 繰り返すっ! 攻撃を受けているっ! 今動けるものは直ちにブリッジへ急行してくれっ!』


 珍しく焦った声を発しているオリーの声が響き渡った。


「オリーっ!」

「オリーさんっ!!」


 レッドとライトが走り出す。

 それに合わせてみんなも駆け出したが、廊下に出た時には2人の背中を見ることは出来なかった。


「いや、速すぎんだろ……」


 セオドアが呆れ返るが、構わずブリッジへと急行する。

 全員が走っているのに対し、グルガンは転移を使用して真っ先にブリッジへとたどり着く。


「……どうしたというのだ?」


 大きく旋回する景色をモニター越しに眺めながらルイベリアに尋ねる。


「龍球王国からの返礼さ。多分あれが龍球王国だろうなって見えて来たところでいきなり撃って来た。話は通してあったはずなのにねぇ……」


 ブリッジに到着した面々を見渡し、事の顛末を話すとアレンに視線が集中した。


「おいおい、なんて書いたんだよ。もしかしてこの船のこと書き忘れたんじゃないのか?」


 ディロンはアレンを責めるように尋ねるが、アレンは慌てて首を振る。


「い、いえ、ちゃんと書きましたよ。……もしかして図解とかしとかないとダメでしたか?」

「きっとそれかな? 現在空を飛んでいる建造物は浮島と私たちの船だけですし。どれが敵で味方か分からないところに新手が来たと思ったとか?」


 ティオの言葉で「それもそうか」と、ある程度納得した。

 山の陰に隠れて攻撃魔法の射程圏外にホバリングすると、魔導戦艦の入国を許可してもらうべく交渉しに行くことになった。

 しかし大人数でゾロゾロと行くのは威圧的であり、グルガンがもしもの時に転移を使えるように最少人数で向かうこととなる。


 確定しているのはグルガンとアレン、帝国からはアレンの他に剣聖筆頭と呼ぶべきブルックと、アレンとは別角度で龍球王国にかかわりのあるレナール。聖王国からは七元徳(イノセント)のリーダーであるティオと防御特化のリディアが参加する。

 グルガンとしてはエデン教の諸教派であるアリーシャを連れて行きたかったが、おまけがついてくることを思えば今回は諦めることにした。


 何を思ってかディロンが名乗りを上げたが、ライトに諭されウルラドリスに怒られたために引っ込む。

 交渉事は他に任せようと思っていたレッドは黙って成り行きを見ていたが、グルガンに名指しされて出て行くことになった。


「レッドはこのチームのリーダーだ。こういうことには必ず参加してもらわないと」

「っ!……そ、そうか。それもそうですね」


 あまり乗り気はしなかったが、必要とあらば参加せざるを得ない。


「おいレッド。俺様は置いて行けよ。そういう面倒なのには参加したくねぇからよ」


 すっかりペットの立ち位置になったオディウムがわがままを言い始める。


「でも誰にも預けられないから一緒に来てもらわないと……」

「いいじゃねぇかその辺の奴に持たせりゃ。へへっ、大人しくしてっからよ」

「そう? じゃドラグロスに……」

「はっ!? 何でそこであの御方なんだよっ!!」


 ドラグロスが目の色を変えたのを感じてビビッてレッドに飛びついた。結局オディウムも参加の方向で固まり、グルガンたちと共に龍球王国まで行くことになった。

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