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286、追憶

「あ~あ。オーギュスト様が動かないから鬼も狼もクソジジイも死んじゃいましたよ? 竜も裏切っちゃいましたし、こういうのを未然に防ぐのは部下の役目なんじゃないんですかねぇ? これは失態っていうんじゃないです?」


 魔神オーギュストの部下であるフェイル=ノートは椅子の上で足を抱えながらジトッとした目で主人を見つめる。


「モロク様とガルム様とヴァイザー様、それからドラグロス様ですよフェイルさん。名前をきちんと言わなければ伝わるものも伝わりませんよ?」

「全部伝わっているじゃないですか」


 オーギュストは何らかの書物を読みながらフェイルを見向きもしない。


「……フェイルさんは私のことを買い被っていますねぇ。私が動いていてもこの状況は避けられませんでした。ほぼ想定内でしょう」

「『ほぼ』ってことはいくらか想定外のことがあったということです? 珍しいこともあるものです」

「ええ。実は1点だけ。ドラグロス様の裏切りをお知りになったデザイア様が、どうしてドラグロス様を再教育に行かなかったのか。これだけが想定外でした」


 パタンッと分厚い本を閉じ、本棚へと仕舞う。


「想定、推測、予想。これら全てのことでもっとも憂慮すべき事柄が何か分かりますか?」

「……んー……偶然。です?」

「そう。予測をひっくり返す偶々(たまたま)起こってしまった事象。その偶然ですら予兆する私ですらデザイア様に及ばない点があるのです。それこそが『気紛れ』。私はその機微を読むことが出来ませんでした。恐らく何らかの存在がデザイア様の中でドラグロス様の再教育を止めるに至ったと仮定しております」


 オーギュストはバッと振り返り、演劇のような身振り手振りでフェイルに伝える。フェイルは変わらずジトッとした目で見つめる。


「……そいつの目星はついているんです?」

「さぁ? そこまで知れるのであれば私はデザイア様をコントロール出来るのではありませんか? もちろん、彼の御方は底知れない存在。そんなことを考えるだけでも恐ろしい……」

「……恐ろしいなんて微塵も思っていないのはバレバレです。そうやって放置する気満々ですね? オカマまでやられたらどうするつもりですか?」

「グレゴール様とちゃんとお呼びなさい。お口悪悪ですよ」

「通じているならいいじゃないですか」


 水色のツインテールをぴょこんっと跳ねさせながら立ち上がる。


「私が直接行ってきましょうか?」

「それも面白いですが、グレゴール様は気難しい御方なのでフェイルさんの監視に気づいた場合、私の身に何かあってはコトです。やめておきましょう」

「それって結局やらない言い訳じゃないですか?」

「厳しい意見ですねぇ。お仕事熱心で大変よろしい」

「またテキトーなことを……。そろそろデザイア様にしばかれるのではないです?」


 オーギュストはしばし考えるようなそぶりを見せ、ニコニコと笑いながらフェイルに向き直った。


「そこまで私のことを考えてくださるとは主人冥利に尽きますねぇ。それでは一つお願いしてみてもよろしいでしょうか?」

「……今度は一体何を思い付いたんです?」

「嫌だなぁ。フェイルさんの熱意にやられただけですよ。ですが確かに少し……ほんの少しだけ気になることがありまして……」

「やっぱり。それでは聞かせてもらってもよろしいです?」

「大したことではありませんが、グレゴール様の配下たちは今何を考えていらっしゃるのかということです。もし万が一にも不満があるのであれば、これは一大事ですからねぇ……」


 フェイルは腰に手を当てて呆れたように鼻を鳴らした。


「オカマの動向は止められなくても、魔王たちはその限りではないということですか。しかし魔王たちにオカマを御する事は不可能ではないです?」

「ええ、不可能です。ですがそんなことを期待してなどいません。彼らには彼らの役割というものがありますよ。私たちにも役割があるように……」


 オーギュストのその言葉にフェイルの緩んでいた顔はキュッと引き締まる。言葉以上の物を漂わせる雰囲気から受け取ったフェイルは何も言わずに踵を返した。オーギュストはその静かな後ろ姿に口角を吊り上げる。


「……優秀な部下に恵まれて私は幸せ者ですねぇ」


 机の上に置かれたティーカップに紅茶を注ぎながらくつくつと笑った。

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