表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
285/321

285、教皇選挙

 ──ヴァイザーを倒して4日目。

 聖王国の情勢は一気に様変わりする。


 長年聖王国を見守り続けたガブリエル教皇の体調不良による勇退騒動が持ち上がってすぐ『教皇選挙』が執り行われた。

 異例だったのは4人の枢機卿の内、2人は数々の背信行為が認められて罪人となり、資格を剥奪される騒動が巻き起こる。二者択一の状況になるかと思われたその時、イアン=ローディウス卿が公衆の面前に姿を現した。

 彼の訃報を聞いていただけにローディウス卿の復活劇は大いに盛り上がり、得票数1位を掻っ攫う大立ち回りを見せた。


 次の日、ローディウス教皇は国民の前に立ち演説する。


「私は一度死んだものと思い、今日まで過ごしてきた。死に直面した時、私の脳裏にあったのはこの国の未来。もし、もう一度機会をお与えくださるのであれば一生を捧げ、この国に尽くしていきたいと天に願った。まさに今、その願いが成就され、私はここに居るっ!!」


 バッと両手を広げると、それに合わせてわぁっと歓声が巻き起こる。死んだと思われた男の復活劇に神からの使いと捉えるものも少なくなく、人々の感情のうねりが追い風となってローディウスを歴代最高の教皇へと押し上げる。


「皆の温かい心が私を教皇へと導き、この国を憂う全ての期待を私に込めていただけたことに心から感謝を申し上げたい。この身朽ち果てるその日まで私はこの国のために働き、平和と安寧を約束しようっ! ありがとうっ!」


 ローディウスは最後に感謝を述べ、城の奥へと下がっていった。観衆はいつまでもお祭りのような盛り上がりで、新たな教皇へ祝福を送っていた。


「おめでとうございますローディウス卿。あ、いや猊下」


 下がった先に待っていたのは七元徳(イノセント)たち。


「ありがとう。諸君らが居なければ私はここにはいまい。ヴァイザー討伐まで完遂し、感謝のしようもない」


 リーダーであるティオはえへへっと照れるが、副リーダーであるランドルフは首を横に振った。


「いえ、猊下が立っていただかなければ我々はただの傍観者でしかありませんでした。さらに申し上げれば、彼ら(・・)のおかげで今があると我々一同そう考えております」

「ふっ……先に言われてしまったよ。もちろんその通りだ」


 レッドに命を救われたことを胸に秘め、七元徳(イノセント)を見る。


「ヴァイザーは踏み石にすぎん。これからもっと過酷な戦いが待っていると予想される。そしてその危険を感じ取ったルオドスタ帝国の皇帝ジオドールは国内に剣聖を1人残し、他全員を魔神討伐に向かわせるという暴挙に近いことをやってのけた。おかげでヴァイザー戦を犠牲無く終わらせられたことは僥倖を通り越して奇跡だ。私もこれに報いろうと思う」


 ローディウスはぎゅっと手を握り締める。


「……かつて忘れられた大陸でエデン正教は魔族に与した。圧倒的力と圧倒的恐怖によってだ。その時に彼らが唯一出来たことが何か分かるか?……ただ、祈ることのみだ」


 一拍置いて勅命を下す。


「今こそ、デザイアを倒すために組織された七元徳(イノセント)の本領発揮となろう。これより七元徳(イノセント)はレッドが率いるデザイア討伐軍に加わり、世界を救うために尽力せよ」


 七元徳(イノセント)はティオを筆頭に皆が敬礼し、力強く教皇の命令を受諾した。



 聖王国が活気に包まれていた頃、レッドたちは龍球王国からの書状をのんびりと待っていた。

 あまりにも暇なので魔導戦艦の外に出て聖王国に買い物に行くものや、開けた場所で修練に励む者もいる。

 レッドやライトたちのような戦士系の連中は修練組に入る


「……こうしている間にも魔神たちが何かをしでかしてくるのではないかと思うと不安になって来るな」


 ライトは刀の柄を撫でながら肩を竦める。それを聞いたドラグロスはあくびしながら鼻で笑う。


「あとこの世界に残ってんのはグレゴールとオーギュストの2人だけだぜ? あいつらは自分から動くようなタマじゃねぇから安心しな。つーかそんなことよりも気になるのはお前だぜ。……名前はなんつったか?」

「ライトだ。ライト=クローラー」

「へぇ、そうかいライト。お前のその剣はガルムの剣で間違いねぇな?」

「これのことか?」

「そう、そいつだ。そいつを手にしてるってことはガルムを倒したのはお前で間違いねぇんだな?」


 ドラグロスの質問に素直に頷くことが出来ずに黙ってしまう。


「へ、やっぱりな。お前があいつを()れるわけがねぇ。まだ俺らの領域に一歩足を踏み入れたかどうかってとこだ。そんなもんじゃその剣に何もかも食われちまうぜ」

「……そんな危ないものなのか?」

「危ないなんてもんじゃねぇだろ。ガルムの野郎はそいつを使いこなせてたが、お前は出来ねぇ。出来るはずもねぇ」

「……」

「バーカ。今のままならってことだ。お前ガルムからそいつを託されたんだろ? あいつがお前に殺されても良いって思えるくらいなら素質は十分ってことだろうよ。自信持て。あいつを指標にしてりゃすぐにそいつも使いこなせるようになる」


 ニヤニヤしながらレッドたちを見やる。レッドはブルック率いる剣聖たちに囲まれながら相変わらず猛攻を受けていた。それを持ち前の動体視力と運動神経だけで避け続けるレッド。そんな様子を見ていればライトだって自然と「そうだな」と頷いてしまう。


『しかし驚かされたのぅ。まさか魔神があれほど強いとは……』

『こなたたちではもはや相手にもなりんせん』

『精霊の王たる我らがあそこで戦っている剣聖と呼ばれる人間の足元にも及ばないレベルなどと……大陸を出るまで知る由もなかった』


 風帝フローラ、水帝ジュール、地帝ヴォルケンはそれぞれ肩を落として慰め合う。


「そんなもんだろ? デザイアの野郎が小間使いにしている魔王どもも他の世界じゃ頂点やってたんだぜ? 俺だってそうだ。レベル云々(うんぬん)なんぞ、その世界で全く違うっつーの。デザイアやレッドが意味不明なんだよ。特にレッドがな……」


 その力を使えばこの世界の支配者になれるというのに、本人はそんなこと露ほども思っていない。どころか何か勘違いしている節がある。もしかしたらレッドは自分が強いことを理解していないのではないだろうかとすら思えてくる。


「おいドラグロス。オメー竜神帝とかいう仰々しい名前持ってんだって?」


 ドラグロスは面倒くさそうに声の主を見る。そこにディロンが立っていた。


「お前はえっと……名前はなんつったっけ?」

「ディロンだ。名前ぐらい一発で覚えろ」

「……そんな風に言われると覚えたくもなくなるわな」

「んなことはどうでも良いんだよ。さっき牛から聞いたぜ。竜神帝ってのは凄ぇ強ぇってゆー称号だろ? 俺最近竜人(ドラゴノイド)やってんだよ。いっちょやらねぇか?」


 ディロンはイキりながら勾玉に手を置く。その足元に褐色の女の子がディロンのズボンをくいっと引っ張る。

 地竜王ウルラドリス。見た目からはまったく分からないが、忘れられた大陸で地竜の王として名を馳せた強者。といっても実力は精霊王の下位互換であり、この大陸では大して強くはない。


「ねぇやめよう。相手が悪すぎるよ」

「あ、ちょっ……離れてろって言ったろ? 怪我したらどうするんだ」

「だってディロンすぐボコボコにされるのに喧嘩っ早いから……この前だって……」

「あれは殴らせてただけだ。俺の耐久力を図るためにだな……」


 ディロンは困り果てた顔をしている。ウルラドリスはディロンの専属回復士。誰よりも先にディロンを回復することからディロンはほっといても大丈夫という風潮が出来ている。


「へっ……命拾いしたなクソガキ。だがその名は覚えておくぜディロン。竜人(ドラゴノイド)が竜神帝に挑戦なんざ前代未聞だ。そうだな……レッドの野郎に一発入れられるようになってから挑戦しろよ。そん時はマジでやってやるぜ」


 ──ズッ


 ドラグロスから漏れた闘気にディロンの肌は泡立つ。ガルムの時に感じた恐怖がディロンを硬直させる。


「……絶対ぇだからな。俺が挑戦するまで竜神帝の席を開けんじゃねぇぞ?」


 その言葉にふっと思わず笑みを浮かべてしまう。ディロンにまだ竜神帝となる前のちっぽけな自分を重ねたのだ。


(歴史ってのは繰り返すもんなんだなオヤジ。俺がこんなことを言われる立場になるとはよ……)


 郷愁にふけるドラグロスにディロンは捨て台詞を吐く暇もなくウルラドリスに引っ張られて行ってしまった。

 それを見ていたライトもおもむろに立ち上がる。


「……よし。俺も一つレッドと手合わせしてくるか」


 ディロンに触発されたライトは今自分の力がどのくらいの物なのか気になって来た。レッドとやり合って一本取れるのかどうか。ドラグロスの言うように魔神の領域に一歩踏み入れたというのなら剣聖たちよりは善戦できるかもしれない。

 古来より人は天を見上げ、輝く星に思いを馳せる。どんなに高い山を登ろうと、手を伸ばしても届くことがない夜空に輝く一番星。

 手が届くかどうか、今ここで証明する。


「みなさーんっ!! 書状が届きましたよーっ!!」


 それよりも先にアレンが走って来る。ライトは刀から手を離した。


「やらねぇの?」

「ああ。今はまだ足らないと言われているようだ。もっと強くなった時、改めて挑むよ」


 ライトはレッドのところまで歩く。

 まだまだ先は長い。レッドの背中は果てしなく遠く、頂の縁すら見えていない。


 いつか並び立つその時までひたすらに剣を磨く。

 それがたとえ終わりなき旅であっても突き進むのみ。


 ライトが再度目標を見直していたその時、ブルックは汗をタオルで拭いながらレッドに尋ねる。


「今日もすまないなレッド。時に、手合わせしてもらっててなんだが、レッドはローディウス卿の祝賀会に呼ばれていたのではなかったか?」


 レッドはあははっと小さく苦笑いする。


「そ、その……俺にはちょっと荷が重いなって思ってさ。格式ばったのは窮屈だし何よりよく分かんないし……」

「だよねぇっ! よく分かるわぁその気持ちっ! 剣聖になってからあーゆーパーティーってのが一番分からないからねぇっ!」


 レナールはレッドの背中を叩きながら豪快に笑いながら、いつも腰に提げているスキットルを手渡した。レッドは困惑しながらも小さくお辞儀する。


「やめておいた方が良い。それは酒だ」


 デュランに注意されるもレッドはけろっとした顔で答える。


「あ、そうなんですか? でも俺、酒で酔ったことないんで大丈夫かと……」

「マジっ?! はっ?! あんた酒も最強かいっ?! こりゃ今日は飲み比べだわ。お酒買ってこよ」

「……レナール。無茶を言うな。今日発つんだから」

「だからその景気付けに一杯やんでしょ? レッドも行くでしょ?」

「え、まぁ……はい」


 レナールに肩をがっちり組まれながら連れていかれる様は情けなく見える。

 セオドアとブリジットはそれを見ながら苦笑する。


「あれで俺らを手玉に取るんだよなぁ。しかもロングソードでよぉ……」

「人は見かけによらないとは言うけど、あれは別格。魔神と同じ動きが出来る人間を見るなんて今でも信じられない。なのにあれだから……」


 常識と非常識を常に反復横跳びするレッドは傍から見ればさぞ珍妙に映ることだろう。

 ライトやアレン、ディロンもレナールの酒調達に名乗りを上げる中、聖王国首都の方角からティオが手を振ってやって来た。


「レッド-っ! 私たちも龍球王国行けるよぉーっ!」


 まるで子犬のようにはしゃぐティオ。それにレナールが触発される。


「っしゃぁっ! 今日は魔導戦艦でパーティーを開くわよっ! 聖王国で食品が手に入りそうなとこを教えてよ七元徳(イノセント)っ! あ、特にお酒ね。種類が多いとこ頼むわ」


 レナールの提案で始まる魔導戦艦内でのパーティー。

 龍球王国への出航も決まり、次なる戦いも控える中、とにかく今だけは戦いを忘れて祝勝会に花を咲かせる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ