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282、新勢力

 ──ガチャッ


 レッドは何日かぶりのベッドで休養を取ろうと自室に入った直後、それの存在に気付いた。


「あ、やっと帰って来たぁ? おかえりなさ〜いレッド=カーマイン」


 真っ白な肌、長い金髪はお尻を隠すほど長い。透き通るような青い目は快晴の空を思わせる。豊かな双丘がベッドの上に乗っかり、一糸まとわぬ体は美の結晶。その背中からは真っ白な翼が生えていた。

 足をパタパタと動かしながらうつぶせで寝転ぶ美女を目の当たりにし、レッドは急いで扉を閉めた。


「わわっ! ご、ごめんなさいっ!」


 自分の部屋を間違えてしまったと感じたレッド。オディウムは急なレッドの切り返しに訝しむ。


「何やってんだお前? さっさと寝るんだろ? もたもたせずに入れよ」

「えっ!? いや、だって……」


 レッドは自分の部屋であることを確認する。部屋番号や名前の札などを確認し、間違いないことを確認するとそっと扉を開けた。

 そこにはベッドの端に座る美女の裸体が見えた。わざわざ胸を強調するように背筋を伸ばして座っている。


 ──バタンッ


「……シルニカさんを呼んでこよう」


 レッドは顔を真っ赤にしながら急ぎシルニカの元に行き、説明を省いて連れて来た。


「で? 何が居るってのよ?……女性? 誰?……は? 知らない人?」


 レッドの要領を得ない話に訝しい目を向けた。

 終始もじもじしながら顔を真っ赤にするレッドにシルニカは(あれ? これもしかして誘われてる?)と心臓を跳ねさせる。

 この船の中で知らない人が居るはずないし、ルイベリアがもし単独で船の中に入れていたとしても、事後承諾という形でレッドやグルガンには確認を取るだろう。

 つまり──。

 コソッと袖の匂いを嗅いでみてイケるかどうかを確認する。


(てか、なんで今なのよ……湯あみくらいしないとヤバいんじゃないかな……)


 シルニカもドギマギし始める。

 世界平和やら、外の脅威に対し、ただ眺めているだけが嫌で同行しただけで、特に恋愛感情とかを期待したわけじゃない。どちらかと言えば風花の翡翠のリーダーであるルーシー=エイプリルの方がその気を出していたくらいだ。

 レッドの実力に慣れて普通に接していたが、感覚が麻痺していたとしか言いようがない。彼は世界最強の男であり、冒険者として見れば最優良物件。魔導戦艦に同行していたおかげでチャンスが巡ってきたということだ。


 ルーシーは戦士系であったため、魔導戦艦のメンテナンスは出来ないし、実力不足だから足手まといになりたくない一心で自ら大陸に残った。


 残ってしまった。


 ネックレスは肌身離さず付けているがお守り程度の思いしかレッドが感じていない以上、ルーシーに(みさお)を立てるとは考えにくい。

 一緒に居た時間が長いからこそ(なび)いてくれたのなら儲けものではないだろうか。


 もはや匂いなど関係ない。

 シルニカは意を決して部屋の扉を開ける。


「あ、ど~も~。お邪魔してま~す」


 そこには本当に知らない女性が居た。しかも真っ裸で。

 着用していたであろう衣服は畳んで机の上に置いてあった。

 シルニカは頭をすっからかんにしてしばらくその女を眺めることになったが、顔を真っ赤にしてレッドに振り向いた。


「こいつ誰っ?! て、てゆーか、なんで裸なのよっ!! はっ?! ヤったっ?! もしかしてこの女とヤったのっ?!」


 レッドは必死に首を横に振る。そこでようやくシルニカも追いついた。


(……いや、こいつに女を誘う度胸はないか……)


 意を決した自分が馬鹿らしく思えたが、それ以上にレッドの部屋の女が気になった。


「……とりあえずあんた服着なさいよ」

「え~? どうして~?」

「その恰好じゃ話も出来ないでしょっ! あんたが何者なのかは服を着てから食堂で聞かせてもらうわっ!!」


 バンッと思いっきり扉を閉める。

 シルニカは片眉をぴくぴく動かしながら苛立っていた。


「ありがとうシルニカさん。助かったよ……」

「……今、私に話しかけないでくれる?」

「あ、ご、ごめんなさい……」


 レッドは頼る相手を間違えたと後悔した。


「何でこいつは急に苛立ってんだ?」

「やめろオディウムっ。シルニカさんに失礼なことを言うなっ」

「は? いや、だって……」

「しーっ!」


 しばらく黙って待っていると、扉を開けて先ほどの女性が姿を現した。

 レオタードのような体に吸い付くぴったりとした衣装にゆったりとした上着を纏った羽の生えた女性。どこかで見たことのあるシルエットにレッドとシルニカは顔を見合わせた。


「あんた……スロウを襲った奴の仲間ね?」


 女性は微笑み返してレッドを見る。視線を感じたレッドは剣に手を伸ばしたが、女性は首を横に振った。


「待った待った。今回は話し合いに来たの。急に襲うなんて無粋な真似はもうしないから安心してね」


 女性の微笑みに気味の悪さを感じていたレッド。オディウムはバツが悪そうにレッドに耳打ちする。


「……おいレッド、やべぇぞ。こいつは天位の使いだ」

「は? なにそれ?」

「……え〜っと……と、とにかくやべぇんだよ。まさかこんな奴らまで出張ってくるとは……」

「ふふ……かわいいマスコットですね。とりあえず食堂に移動しましょうか?」



 食堂に移動し、女性を座らせるとレッドが険しい表情で向かいに座る。いつでも相手になってやるといった感じだが、女性は澄まし顔で美しい姿勢を保っている。


「よぉ。こいつか? 侵入者ってのは……」


 ディロンやライトも周りを取り囲み、逃がさないように心がける。七元徳(イノセント)は遠目で「あれってもしかして天使ではありませんか?」と会話していた。


「いや~物騒だねぇ君たち〜。僕はただ話し合いに来ただけなのに……」

「勝手に侵入しといて話し合いか? 穏便に済まそうにもそちらが真っ先に一線を超えたこと、忘れてくれるなよ」


 ライトはスロウの件を咎める。


「あれはまぁ……ごめん。うちの者が勝手にしたことだからねぇ。しっかりと叱ってるんで安心していただきたい。その証拠にあれ以降はスロウ様に危害を加えてないでしょう?」

「……それだけで貴様たちを信じるに値しないが、確かにスロウを襲っていないのは事実だ。認めよう」

「んふふ……ありがとう」


 女性が頭を下げるのに合わせてレッドが質問する。


「スロウはあれ以降常に能力を部屋に展開させていた。本当はただスロウに近寄れなかっただけじゃないのか?」

「鋭い指摘ね。流石はレッド=カーマイン。でも強引な手で攫うのをやめようと決まったのも本当のこと。そんなことをしてもスロウ様はご納得されないのではないかと話がまとまったからね。だから違うアプローチを取ることにしたってわけ」

「それが話し合いか?」

「いや、それ以上……」

「?」


 いまいち要領の得ない女性の言葉に頭を捻る。そんなことはお構いなしに女性は話し始めた。


「魔神を倒している君たちの力には大いに驚かされているよ。魔神は僕らにとっても目障りな存在だったからね。今まで誰も成し得なかったことを見せられて正直困惑している」

「僕ら? 僕らとは?」

「ああ、申し遅れたね。僕は3天使のひとり、ここではウノと名乗らせてもらうよ」


 ウノは自身の胸に手を当てて誇らしそうに名乗った。


「んで? その3天使様が女を攫いに来たわけか。目的が不明過ぎるぜ」

「君たちが無駄に抵抗しなければ僕が出張ることなかったんだよ? ま、僕らとしてもラッパが通じない相手に喧嘩を売りたくはないし、そういう意味では不意打ちを仕掛けたのはある意味正解だったね」


 ディロンはウノの態度が気に食わずに睨みつけるが、全く意に解すことはない。ライトは小さくため息をつきながら肩を竦める。


「こちらの戦力を理解し、交渉に持ち込むことにしたと? そういうことか?」

「ビンゴ。流石に君は優秀だねぇ」

「……具体的には?」

「僕らと君らの目的は部分的に一致している。僕らはスロウ様を天位に迎え入れるために行動し、君らはこの世界を救うために行動している。どちらにとっても目障りなのはデザイアで間違いない。共に手を取り合ってあの怪物を倒そうじゃないか」


 ウノは手を広げて迎え入れるようなポーズで主張する。しかし口で答える代わりに目と鼻の先に剣の切っ先が突きつけられた。レッドの早過ぎる抜剣に食堂にいた全員が驚く。


「あらら……どうして? 僕らと組めば仲間も増えるし、能力だってある。人間よりもずっと使えるよ?」

「いや、そんなことはどうだって良い。なんで初手で誘拐に走った? 最初から天位ってとこに行くことを話していればスロウだって自分の意思で行きたいと思えたかもしれないのに」

「それは彼が勝手に……」

「信用出来ない。そんな勝手な奴がいるチームとなんて組めないよ」

「おやおや、ファーストコンタクトが最悪だったせいで常に仲間を欲していた君にも嫌われたか。誘拐は仲間の手違いだったんだ。そろそろ許してくれないかな?」

「断る」


 レッドの意思は硬い。今まで微笑みながらで受け答えしてきたウノも感情が消えるように無表情になった。


「……自分がやったことを棚に上げて僕らには潔白を強いるのか? 君は何様だい?」

「ん? 俺が何を……?」

(とぼ)けるなよ〜。ミルレース様を殺したじゃないか。あの方が生きて居られたのなら、最初から片割れに用はなかったんだ」


 ウノの豹変にライトとディロンも武器を抜く。


「正体を表したか。仲間が増えるに越したことはないと思っていたが、その考え方は俺たちと乖離しすぎている。ここで滅ぼされたくなければ出て行ってもらおうか」

「そのミルレースって奴は知らねぇが、オメーは気に食わねぇから却下だ。ぶっ殺すぞこのクソアマ」


 一触即発。オディウムは目元を隠して呆れ返っている。


「お前らマジかよ。天位に喧嘩を売ったら世界そのものに波及するぜ? 俺様はゴメンだからな」

「……うふふっ。彼はよく分かっている。変に勘繰られて敵対されると思ったからタイミングを図ったってのに、もしかしたらグルガンと交渉していた方が良かったかもしれないねぇ。僕までミスするなんてトレイになんて言われるか分かったもんじゃないよ。けど、僕も命は惜しい。最初に言ったように喧嘩をするつもりなんてないからさ」


 ウノは立ち上がって食堂から出て行こうとする。


「待て。外まで送る」


 レッドたちはウノと共に侵入されたレッドの部屋に移動する。


「ま、よく考えなよレッド=カーマイン。今のままでは君は確実にデザイアに負ける。僕らを仲間に引き入れるのが正解だって直に分かるからさ」


 それだけを言い残し、空の彼方へと消えていく。


 魔神の撃破で新たな勢力がすり寄ってきたが、レッドはそれを跳ね除けてしまった。


 デザイア軍と天使。

 スロウ=オルベリウスを手にしようとする2つの勢力がレッドたちと対立することになった。

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