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280、眼から鱗

 魔導戦艦ルイベーが到着するまでの間という条件でレッドの試し合いが始まった。

 先に剣を抜いたブルックは『錆びついた鉄塊(アルトアイゼン)』ではなく、S ランク魔剣『竜断天墜(アスカロン)』を抜く。こちらの剣の方が細身で扱いやすいので、純粋な剣の技を見極めるなら断然竜断天墜(アスカロン)である。


「私は剣聖ブルック=フォン=マキシマ。試合を受けてくれて感謝している」


 一概に試合を受けたというのは少々間違いだ。誰も好き好んで受けようとなど思っていない。

 この試合の申し込みに関して、誰か止めてくれると踏んでいたから自分から強く言わなかっただけだ。

 ライト辺りは何も言わずとも「馬鹿なことをしている場合か?」などと言って間に入ってくれる。そう信じていた時期が確かにあった。

 だがどういうわけか、今回に限っては口出しの一つもしない。レッドは混乱しながらも剣を抜いた。


「そいつは何の冗談だ? いくら強ぇったって相手は魔剣だぜ。同じ魔剣を装備するのが筋ってもんじゃないのか?」


 セオドアは訝しい顔で指摘する。アレンも同じ意見で、師匠が馬鹿にされたように感じた。


「あの、レッドさんも魔剣をお持ち下さい」

「あ、お、俺は魔剣持ってないから……」

「は?……ああ。今ここにはないと? 魔剣はお持ちなんですよね?」

「だ、だから持ってないって」


 ますます意味が分からなかった。魔神ですら魔刀を振り回していたというのに、そんな魔神に一目置かれる男が魔剣使いではないなどと悪い冗談である。

 剣聖は一斉にライトを見た。嘘だと言って欲しい眼差しを向けられるが、事実なのだから覆しようがない。ライトは期待に応えられないと諦めた目で小さく首を振った。


「だからってロングソード? 相手が誰だか分かってんのライト?」

「レッドくんに自信があるのは結構なことだが、もし事故でも起これば死んでしまうぞ?」


 レナールとデュランは心配そうに見ていることしか出来ない。ブリジットはレッドの一挙手一投足を見逃さないようにジッと目を見張っている。

 ブルックは肩を竦める。


「剣の道を歩く者たちはしばしば自分の剣技に酔っていることが多い。私もまさにその一人だが、君がその剣で戦おうとしていることに少しガッカリしている。……少しだけな」

「あ、すいません。でもこれしかなくて……」

「結構。私としてもその傲慢さの理由を知りたく思っている。時間も押しているし、すぐに始めよう」


 七元徳(イノセント)も心配そうに見守る中、ティオとリディアは少しドキドキしている。


「止めた方がよろしいのでは? あの戦力差は流石に……」

「ううん。あれで五分五分(ごぶごぶ)……いや、どうなんだろ……まだレッドさんの方が上かも……」

「は? 相手は剣聖だぜ?」

「そうだよ。でも……」


 ミノタウロスを瞬時に屠る男の剣は剣聖を相手取った時、どのように変化するのかを。

 グルガンやローディウス卿に散々強いと持て囃されていた実力を見るチャンスにフィアゼスも冷めた目で流し見ている。


「お手並み拝見、といったところですか」


 アリーシャは1人ガッカリした顔を見せた。アリーシャは常人では見えないものまで見通す目を持ちながらレッドだけは視認することが出来ない。きっと目隠しを取り、真の目を開眼するその時まで彼女にレッドを視認することは出来ないのだ。


「──ああ、残念です。せめてブルックさんの動きでレッドさんの動きを予測しましょう……」


 全員がレッドに期待して見ている。冒険者という職業柄、人間相手に鍛えた剣術ではないのでどこまで通用するか分からなかったが、挑まれた以上は真剣にやらねばならない。


(てか、そんなに変かな? ロングソードって……)


 レッドの注意がロングソードにそれた瞬間をブルックは見逃さない。


 ──ダンッ


 相手の隙を完璧に見抜くブルックの集中力はまさに刹那の見切り。レッドをただの人間だと考えず、先ほど斬った魔王たちだと変換して斬り込む。

 意気込みは真っ二つ。ブルックはレッドの胸を借りるつもりで本気で斬り込んだのだ。

 踏み込みの深さ、重心移動、剣の振り。どれを取っても一流で、どうあがいても殺す一太刀。


(ん? あれ? これ殺す気で来てない?)


 レッドは出遅れながらもバックステップでブルックの間合いから遠ざかる。


 ──ピゥンッ


 空気を切り裂く音が綺麗だと感じた。一流の太刀筋は美しいのだと改めて実感する。


「嘘っ?! あれを避けたっ!?」

「完全に出遅れていたはず……!」


 周りから見ても何が起こったのかよく分からなかったレッドの動き。辛うじてバックステップだと見抜いたブルックは追いかけるように剣を上段に構えて攻撃を仕掛ける。

 レッドはブルックがバックステップで逃げられないように踏み込んだのを理解した。


(深いなぁ……受け流しは有効かな? いや、折れちゃうか……? 人とこんな風に戦うのは初めてだからどこまで攻めていいか分かんないな……)


 ──ビュボッ


 放たれたのはほぼ同時の四連撃。速すぎて目で追えない神速の剣の前にレッドは居なかった。


「!?」


 完全に間合いに捉えたはずのレッドが、最初からそこに居なかったかのように消え去り、ブルックはそのまま剣を振り下ろしていた。


 ──トンッ


 レッドは一瞬にしてブルックの背後に回り込み、ロングソードをブルックの背中に置いた。

 瞬間、ブルックはドッと汗をかく。剣の切っ先に触れることなく回り込まれ、一本を取られる。力の差がないと出来ない芸当に自分の未熟さを思い知る。

 周りから見ればレッドはまるで幽霊。あまりの速度に残像が残り、ブルックがレッドをすり抜けているように見えた。


「……ガルム……」


 ブリジットはレッドのあまりの速度にポツリと呟く。


「へっ、おもしれぇ」


 ジッと見ているだけだったセオドアも剣を抜き、レッドに向けて走り出した。虚を突かれたレナールたちは止める間もない。


(お前がガルムと同等だとっ?! それなら2対1でも文句はねぇよなぁっ!)


 ──シパァッ


 セオドアの突きが奔る。

 レッドの胸部を狙った突きは空を裂き、セオドアの背中にロングソードがトンッと置かれた。


「んなぁ……っ!?」


 ガルムでも一度は間合いを開けた気配を消しての攻撃。当たらずとも間合いを開けるだろうと確信して放ったが、レッドは2歩下がってブルックからセオドアの背中にロングソードを移動させた。


「鋭い突きですね。俺突きってあんまりしないから重心移動とか勉強になりますよ。あ、でもあれですか? 幅広くてトゲトゲした切っ先だから突きが有効なんですかね? それにするとロングソードは威力が心許ないというか……」

「〜……知るかボケェっ!!」


 ──ビュォンッ


 がむしゃらな薙ぎ払いでレッドとの間合いを開けようとするが、レッドは潜り込むように屈みながら角度を調整しつつ受け流す。セオドアは蹈鞴(たたら)を踏んで自ら間合いを開けることになった。

 びっくりするほど完璧と思われる受け流し。しかし──。


「あぁ……刃が欠けた……」


 いつもならセオドアは熱くなるところだが、あまりの実力差に戦慄して動けなくなっていた。


 剣の道に精通しているとは思えないデタラメな動きと何故か完璧な受け流し。

 ガルムとはまた異質の化け物。


 レッドを見る目が180度変わる戦い。


 その光景にデュランも剣を抜いた。


「私もよろしいですか?」


 レッドの力を間近で見て、触発された剣聖たちも試合を希望する。

 魔導戦艦が到着するまでの間のわずかな時間に全員と手合わせすることになった。

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