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279、戦勝

「オディウムはさぁ。もっと小さくなれないの?」


 レッドは苦言を呈する。

 砂漠の王国ジャガラームから帰還したレッドたちは持ち帰った成果を見せるため、早速諸教派の街である『ソルブライト』にあるエイブラハムの屋敷にやって来た。


 だがオディウムは小さくなっても3mほどの大きさで街に入った時からめちゃめちゃ目立っていた。

 途中憲兵に止められたものの、七元徳(イノセント)のティオとリディアが同行していることとエイブラハムの名前を出したことで話が通っていたのか、途中まで憲兵が同行する形で許可が下りる。

 おかげで寄り道は出来なかったが、そんなことをしている場合でもないので全く問題なかった。


 さらに厄介だったのは3mは大きすぎるということ。屋敷は通常よりも大きく作ってあるが、大体身長2m前後を基準に作られている。さらに1m大きくなれば入りきらない。


「無理だな。俺様はこれ以上小さくなんてなれねぇ。諦めな」

「えーっ! 絶対嘘だよっ! 実はもっと小さくなれるんでしょ?」


 ティオの言葉にもオディウムは舌を出して逆らう。レッドの言うことを聞かないオディウムを見てリディアはしばらく考えていたが、首を横に振った。


「……仕方ありません。四つん這いで行動してもらいましょう。入り口は両開きの扉なので横幅は何とかなるでしょう。エントランスホールの一角で待ってもらえれば町民の迷惑にならずに済みます」

「なに? この俺様のどこに迷惑要素があるんだ?」

「威圧的すぎんのよ。もう少し自分を客観視出来ないの?」


 シルニカにまで言われたオディウムは奥歯を噛みしめながらイライラし始めた。レッドとしてはモラクスから息子を預かった身故に極力離れないように心がけようと思ったが、小さくなれないのならしょうがないと四つん這いを命令する。


「待て待てっ! 分かったよもうっ!」


 オディウムはもう一回り小さくなった。それでも大きいが、屋敷には然して問題ない。


「何だ出来るのか。もしかしたらもっと小さくなれるんじゃないの? 例えばほら、手乗りサイズくらいに……」

「そこまではなれねぇよっ?! 試そうとも思うんじぇねぇっ!!」


 オディウムのわがままで時間が掛かったが、中に入ってみれば肝心のグルガンたちは不在。

 エイブラハムからグルガンたちは既にヴァイザー討伐に向かったと聞き、レッドたちも急ぎソルブライトから発つ。

 道中視界に入っていた浮遊要塞が爆散したことで驚愕しつつ、辿り着いた目的地では疲弊したみんなが健闘を称え合っていた。


「え? おわっ……た?」

「みんなっ!」


 ティオとリディアは七元徳(イノセント)のみんなに走り寄る。


「おおっ! ティオっ! リディアもよくぞ無事でっ!」

「それはこっちのセリフだよっ! 先に始めちゃうなんて聞いてないからっ!」

「皆さん大きな怪我もなく安心しました。しかしティオの言う通りまさか期日を待たずして仕掛けるとは思いもよりませんでしたよ」

「ふっ、単にタイミングが良かったんだ」

「そうですわ。それはもう大変だったのですから」


 レッドは戦勝ムードのみんなを呆然と眺める。本当なら自分も一緒に戦っていたはずなのに、健闘を称え合う場に居ないことが疎外感を生んだ。


「まぁこう言うこともあるわよ。先に始めたって聞いた時は何となくもう倒してるんじゃないかって思ってたけどね」


 シルニカは鼻を鳴らして手をひらひらさせた。内心、心から安堵している。誰一人欠ける事なく終えたのが一番嬉しい事なのだから。


「へっ、残念だったなレッド。お前らがもっと早く大迷宮ラビリントスを攻略していれば間に合ったかもしれねぇが……ま、こんな奴らで勝てる程度の雑魚なら俺様なんていらなかったってことよ。無駄足だったなぁ」


 放心状態のところを『比類なき力』オディウムはレッドの背中をバンバン叩きながら煽る。しかしそんなオディウムを背後からゲシッと蹴るものが居た。


「あぁんっ?!」


 オディウムがメンチ切って振り返ると、そこには回復途上といった感じのディロンがメンチを切っていた。


「オメー何してんだコラ? 殺されてぇか牛頭」

「あ? 急に何だお前は? お前こそひき肉にしちまうぞクソ人間」


 オディウムは拳を振り上げたが、その瞬間鎖が光り輝いてオディウムの動きを止めた。


「おいっこんな奴まで仲間かよっ!? いったいどいつがそうじゃねぇんだっ?!」

「オメー間抜けか? ここに居る全員仲間だ。当たり前のことを聞くんじゃねぇ」

「嘘だろおいっ!」


 オディウムは頭を抱える。ストレスの捌け口がなく頭に来ていたオディウムは血眼になって何に当たるかを考えていた。


「お? おもしれーのを連れてるな。ペットか?」


 そこにドラグロスがやって来た。見た目で魔物だと思ったオディウムはようやく気が晴れると思ってベロリと舌なめずりをしたが、よく見れば凄まじい魔力と溢れ出るオーラに気付いて委縮する。


「え……」

「ん? さっきまでの威勢が感じられねぇなぁ。この俺を見てビビったか?」

「あの……つかぬことをお聞きしますが、あなた様は竜神帝ではございませんか?」


 オディウムの敬語にレッドを含めた4人が目を見張る。

 敬語を使う様を見るのが初めてということもあるが、創造主であるモラクスにさえ敬語など使っていなかったというのに、ドラグロスには下手に出ているのが不思議でならなかった。


「おま……俺のことを知ってんのか?」

「とと、当然ですよっ! あなた様の強大な存在感を見間違えるはずがございませんっ!」


 縮みあがってぺこぺこするオディウムにレッドは疑問を投げかける。


「え……そんなに凄いの?」

「お前何言ってんのっ!! 凄いなんてもんじゃないだろっ!! 竜神帝様だぞこの野郎っ!!」

「へ~。そんなに有名だったなんて知らなかったよ」


 レッドはドラグロスに感心したように頷く。


「バッカお前っ! 竜神帝様に謝れっ! 殺されるぞっ!!」

「おいおい。何だよこいつめちゃくちゃ可愛い奴じゃねぇかよ。おいっ」


 ドラグロスはオディウムの肩をガシッと掴む。「ヒィッ」と言う情けない声と共に一気に小さくなり、常人の腰ぐらいの高さに縮むと慌ててレッドの背後に隠れた。


「おぉ? 小さくもなれんのか? マスコットみてぇだな。この世界で俺を知ってるってだけでも貴重なのに、能力が多彩な牛頭か。どっから拾ってきた?」

「砂漠のダンジョンからだよ。ヴァイザーを倒すために」

「そうか。ヴァイザーはグルガンがやっちまったからな。ま、今後の戦いのために無駄脚にはならねぇだろうぜ」


 レッドがドラグロスと話し合っている間、オディウムはガタガタ震えていた。


(こいつ何で竜神帝と平気で喋ってんだよ? 竜神帝もタメ語許してるし……一体何が起こってんだ?)


 自分がとんでもない奴の下に就いたことに内心冷や冷やしていた。


 ドラグロスとの会話を終え、レッドは今後のことを聞くためにグルガンを探したが、グルガンは守護者たちに囲まれてぐったりしていた。


「グルガンさんっ!」


 レッドはグルガンに走り寄る。ヴァイザーを倒すのに最も貢献した男は外部からのダメージは負っていないが、力を使いすぎて現在誰よりも弱り切っていた。


「……ああ、レッド……よく戻ってきた。どうなったか気になっていたんだが、思った以上に早く済んだようだな。流石だ」

「疲れているんですね。俺のことはいいんで休んでください。……移動は厳しそうですね。ルイベリアさんを呼びましょう」

「それは安心してくれ。もう呼んである。時期に魔導戦艦が到着するだろう」

「さすがです」


 レッドは守護者たちを一瞥してペコっと頭を下げた。守護者たちはそんなレッドの仕草に微笑む。


主人(あるじ)殿は我々にお任せを』


 守護者を代表して天秤座(リブラ)はレッドに告げる。戦勝を共に分かち合う仲間との会話をどうぞという親切心からだが、レッドはダンジョンに潜っていただけでヴァイザーとは戦っていない。

 どうするべきかドギマギしているとライトが声をかけにきた。


「レッド。よく戻った」

「あ、ライトさん。……すいません。俺……」

「誰かも言っていたが、タイミングが良かっただけだ。ところで、それが成果か?」

「あ、はい。オディウムと言います」

「グルガンから話は聞いている。その力を試してみたかったことだろうが、次の魔神戦までお預けだな」


 オディウムはライトと目があったが、すぐにそっぽを向いてしまう。


「……人見知りか?」

「うるせー。俺様に話しかけんな」

「はい。極度の人見知りです」

「……」


 レッドの言葉に反論したかったが、あまり騒ぐとドラグロスの注意を引いてしまうことがあるので怖すぎて黙る。


「君がレッドか」


 声をかけてきたのは剣聖たち。

 初めての顔に「あ、こんにちわー」とレッドは普通に挨拶を交わす。

 その常人っぷりに剣聖たちは首を傾げる。ガルムにも認知される存在であると聞けばもっと凄まじい達人のような存在を期待していたみたいだが、思ったようなものではなかったようだ。


「こいつが? マジかよ……嘘くせぇな」


 セオドアはニヤニヤしながらレッドを見ている。剣聖全員の意見であるようにみんな難しい顔をしている。

 ライトはその様子に苦笑する。


「……そういう反応は普通だ。見なければ判らないこともある」

「何なら試してみたらどうだ? 剣聖ども」


 ディロンが横入りする。レッドは「冗談やめてくださいよ〜」とヘラヘラするが、それが剣聖たちの琴線に触れた。ブルックが微笑む。


「いい考えだ。レッドの力を試したい。受けてくれるな? レッド」


 ブルックはスッと剣を抜いた。


「え?……マジっすか?」


 冗談まじりで始まる真剣試合。急な申し出にレッドはあたふたするが流れで始まってしまった。

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