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251、幕開けの鐘

「チッ……もどかしいぜ。作戦だとか何だとかよぉ。とっとと突っ込んで魔神をぶっ殺しちまった方が早ぇぜっ」


 ディロンは文句を言い始める。隣で聞いていたライトは呆れてため息をつく。


「……帝国で面倒なことになったのを忘れてないだろうな?」

「つっても何とかなっただろ? ガルムの野郎は想定外の強さだったが、オメーがぶっ飛ばしちまったし。今回はさらに力をつけたんだからもっと余裕でいけるって。なぁ?」

「行き当たりばったりか……運否天賦に身を任せれば破綻は見えてる。グルガンの作戦は精鋭頼りの大雑把なものだが、敵を分散させ余裕をもって戦うというのは魅力的だ。帝国での貴様の行動は常軌を逸している。本来狂人の行動だぞ? もっと自重しろ」


 咎めるライトと不貞腐れるディロン。

 現在グルガン主導の作戦行動中で、2人はアジトの西側に陣取って移動を開始している最中だ。

 誰とでも組めるライトがあえてディロンと組まされているのは彼が喧嘩っ早く、誰の言うことも聞かないので行動を制限するブレーキ係として組まされたのだ。思い付きの行動で作戦に支障をきたせば戦線が瓦解しかねない。

 ライトが承諾した理由はまさにそれで、帝国でのことに責任を感じていたのと、特に断る理由もなかったので一緒に組んだのだ。

 そして今にも飛び出して行きそうな空気にこれで良かったのだと再確認させられた。


 ディロンは戦えば戦うほどに、食えば食うほどに力を付ける特異体質。ライトのようにいきなり伸びると言うわけではないが、経験を積む事に確実に着実に身体能力が上がっていく。

 今のところはディロンも参謀役のグルガンの顔を立てているが、このまま行けば次はどうなるか分からない。


(力をつけたと自覚していることもまたタチが悪いな。力に溺れることなく、みんなと足並みを揃えてくれるなら俺も何も思わないんだが……)


 ライトは肩を竦めて辺りを見渡す。


(……空気が変わった?)


 前よりずっと感覚が研ぎ澄まされているためか、ちょっとの変化にも敏感になれた。それはディロンも同じのようで、先ほどまでの惚けた顔がキュッと引き締まったのを見る。


「感じたか?」

「ああ。こりゃ良いや。俺にうってつけの相手だ」


 鋭い眼光がジッと真正面を睨む。その口元はニヤついていた。


 ──ゴゴゴゴゴォッ


 アジトをぐるりと取り囲む森がなぎ倒されていく。ライトとディロンの前に現れたのは前腕が異様に発達し、顎が突き出た愚鈍な魔族。

 ヴァイザーの部下にして異世界の魔王、ヴォルド=ホーン。今はベルギルツのお目付役のようなことをさせられている。


「こりゃまた弱そうなチビどもだ。俺に見つかった以上、オメェらはもう逃げられねぇど?」

「如何にもなパワータイプじゃねぇか。気に入ったぜ。おいライト。こいつは俺がやる。オメーはそこで見てな」


 ディロンはズイッと前に出て無骨な斧を取り出す。メキメキと全身に力を入れながら戦いに備えている。


「何をしている? 最初から全力で行け。ウルラドリスは後方支援だから怪我をしてもすぐには治せないんだぞ?」

「っるせーな黙って見てろよ。俺が軽くぶっ飛ばしてやっから」


 ヴォルド=ホーンはディロンの自信過剰とも言える発言を鼻で笑う。


「間抜けどもがはしゃいでんなぁ。言っとくがオメェらの行動は筒抜けだで。オメェらは俺らを取り囲んだと思ってるかもしれねぇが、全てヴァイザー様の術中。勝ち目は皆無。それからさらに絶望のお届けだ。俺をそんじょそこらの底辺と一緒にするでねぇど? 俺の世界……あ、オメェらにとっては異世界になる『インカルド』ってとこを支配していた魔王だで。人間じゃ天地がひっくり返っても勝てねぇど?」


 それを聞いたディロンの口元は緩む。


「へっ! 異世界の魔王か。良いじゃねぇか。強ぇってことだろ?……こいつは意趣返しってわけじゃねぇが、そういう手合いはオメーが初めてじゃねぇ。ついでに言っとくと俺らはそいつをぶっ殺したぜ。魔王如きじゃ俺らを止める術はねぇってことだ。オメーじゃ話になんねぇが、暇つぶしに相手してやるよ」


 空気がヒリつく。対立する2つの強者は今にもぶつかりそうに睨み合っている。


 ──……ズズゥンッ


 空気が震え、遠くの音を届ける。

 開戦の音。


 周りを固めた剣聖や七元徳(イノセント)たちもそれぞれの敵に遭遇する。


「あっちもこっちも始めたみてぇだな。よぉ、俺たちも始めっか? でくの坊」

「……人間風情が図に乗るんでねぇ! 刺身にして食っちまうど?!」


 戦いが本格的に始動した。

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