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244、最高の勝負

 あまりの眩さに空が白く染まる。

 この光景はつい最近にも見たことがあった。


 それは女神ミルレースが復活したあの日。忘れられた大陸を覆い尽くした白い空に似ていた。


「……神の出現と同様のことが起こっているとでもいうのか?」


 グルガンは驚愕に顔をしかめ、ライトたちを見る。


「獣王国に確認しに行ってくる。貴公らはここを動かないように……」

「いや、俺たちも行こう。万が一にも女神クラスが居たなら総出で掛からなければ生きては帰れないからな」


 ライトの言葉にグルガンは逡巡する。

 確かにミルレースのようなトリッキー且つ、強力な再生能力を持ち合わせるような敵が居た場合は、ここにいる戦力全員でまともに相手せずに袋叩きにするのが効率的だ。

 だが果たしてそれで何とかなるのだろうか。ミルレースならこれで十分だとしても、魔神クラスは人数を揃えたとて壊滅する可能性がある。

 ならばここは1人で行き、ある程度の強さを測って改めてどうするか決めるのが得策ではないだろうか。命の危険を極力減らすための情報収集は基本中の基本。やはりここは一旦自分だけが飛ぶべきではないだろうかと。


 その逡巡に気付いたライトがズイッと前に出た。


「貴様1人では行かせられないな。貴様に万が一のことがあれば俺たちに勝機はなくなるんだぞ」

「……相手が相手の場合、無事では済まない。それでも行くか?」


 グルガンの揺れる目を真っ直ぐに見つめてコクリと頷く。そこに横入りするようにディロンが声をあげた。


「御託は良いからとっとと連れて行けっ!」


 その言葉でグルガンも覚悟が決まった。グルガンはすぐに魔剣レガリアを出現させて能力を使用する。

 剣聖たちも引き連れて獣王国へと飛ぶ。


 飛んだ先の獣王国は悲惨などという言葉では到底言い表せないほどに酷い有様だった。

 凄まじい破壊痕。生き物という生き物が死滅したような物音一つない殺風景な荒地。この世のものとは思えない状況に息を飲む。


「……これも全て魔神の仕業なのか?」


 ブルックが呟く。師であるブルックの茫然とした顔に弟子であるアレンは身震いする。ガルムという化け物との戦いでは割と序盤で気絶していたのでよく分かっていなかったが、魔神が本気で戦うということは何もかもが終わることを意味している。

 目の前で剣神ティリオン=アーチボルトが消滅した時から世界の均衡が崩れたと感じていたが、常識そのものが変わってしまったのだと改めて実感する。


 ──……ヒィンッ


 空気を切り裂くような音が鳴る。全員が武器を握りしめ、即座に構える。


「……上だ」


 グルガンの言葉で全員の目が上に向く。白く眩い空から流星の如く何かが落ちてくるのが見えた。地面にそのまま直撃すると砂塵を上げながらクレーターを作る。

 警戒しながら様子を伺っているともう一つの落下物が落ちてくるとともに白い空がパリパリと剥がれ落ちるように元の空へと戻っていった。


 ──ズンッ


 もう一つの方の落下物が地面に着地し、砂塵の奥にある影がゆらりと動いていた。



「ガフッ……ゴホッゴボォッ……ッ!?」


 クレーターの真ん中に大の字に倒れるモロク。ドラグロスに突き上げた拳は腕ごと消滅し、腹部にも取り返しが付かないほどに穴が開いている。本気を出した真っ黒な肌はくすんだ灰色になり、目は墨で塗り潰したように真っ黒になっていた。


「よぉ……モロク」


 視界を遮るほどに舞う砂塵の奥にドラグロスの影を見る。2本の足でしっかりと立っている影だけを見れば全然大丈夫なように見えたが、近寄ってきたその姿は鱗が捲れ上がり目元もボロボロ、腕もひしゃげて全身から血が吹き出しているように見え、とてもじゃないが無事とは言えない。


「っんだよ……お前それで生きてんのか? バケモンだな……」

「……ククッ……クハハハッ……ゲホッゴホッ!!……うぬに……言われたくはない……」


 モロクは消え入りそうな声でドラグロスに返答する。


「へっ……これでお前にも分かっただろう? 猿山のボスじゃ竜神帝にゃ勝てねぇんだってなっ!」

「……ああ……」

「あ? 妙に素直じゃねぇか。憎まれ口も叩けねぇのか?」

「……そんな……余裕などない……今にも……消えそうでな……」


 ──ザァッ


 消滅した腕から徐々に消えていくのが見える。


「おぉっ……なんだ? お前死んだら体が残らねぇタイプの生き物かよ」

「……吾の……世界では……な……」

「そうかい。……最期に言い残すことはねぇか?」


 ドラグロスの質問にモロクの瞳が赤く輝いた。


「……良い勝負だった……吾の世界『練武郷(れんぶごう)』でも味わえなかった血湧き肉躍る最高の勝負だった」


 下半身がぐずぐずになって消え去り、左腕も消えていく中、最後の力を振り絞って口にしたのは感謝の念が(こも)った喜びの言葉。ドラグロスはきょとんとした顔でモロクを見ていた。


「おもしれぇ……まぁ、竜神帝であるこの俺がここまで追い詰められたんだ。認めてやるよモロク。お前は竜神帝に匹敵する凄ぇ奴だ。相手が俺じゃなかったらやられてたかもしれねぇ。まったく不運な野郎だぜ」

「……いや……その逆だ……うぬで……良かっ……」


 モロクの全てが灰となり、ドラグロスの目の前から完全に消え去った。

 ドラグロスは空を見上げて呟く。


「ケッ……満足して死んでんじゃねぇよボケ」


 モロクを看取ったドラグロスはそのまま仰向けに倒れる。流血は致死量に達し、目を開けているのもやっとの状態。


「カハァッ……俺も俺でヤバかったのかよ。カッコつかねぇ〜……」


 息も絶え絶えになり、ドラグロスにも死の足音が聞こえていた。少し休めば元気になる。いつもならそれで良かったのだが、今回ばかりは無理かもしれない。そう考えた時、ドラグロスの顔に影がさす。


「随分と派手にやられたな。ドラグロス=バルブロッソ」

「おまっ……来てたのかよゴライアス」

「手を貸すか?」

「チッ……舐めてんじゃねぞ? って言いてぇとこだが良いタイミングだ。俺を助けろ」

「ふっ……当たり前だ。貴公に死なれてはこちらが困る。ところで回復魔法は貴公に有効なのか?」


 ドラグロスは小さく頷いた。確認が取れたグルガンはライトたちと共に魔導戦艦ルイベーに戻り、聖職者(クレリック)のハルに回復を任せる。


「嘘でしょっ?! なんで私がっ!!」


 などと言って多少抵抗されたがライトのお願いで渋々了承し、ハルはこの日より力の限りドラグロスの回復に努めることになった。

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