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239、言い知れぬ恐怖

 グルガンはガルム討伐を知る。

 まさか信じて送り出した2人と竜1頭と精霊3体がその日の内に戦闘を仕掛けているだなんて思いも寄らない。魔神を1柱倒してしまったというのだから叱るに叱れず、剣聖たちも含めて健闘を讃えた。


「犠牲も多く出たことだろう。国を救おうとした英雄たちに感謝と共に花を贈りたい」

「花か……いや、花はよそう。我々も魔族を大勢殺してきたが、一度だって魔族にそのようなことをしたことが無い。志半ばで命を落とした剣師たちも魔族に献花されては困惑するだろう。せめて黙祷を捧げてくれ」

「そうか……承知した」


 頼りだった剣神もガルムの前に為す術なく倒れ、ライトの覚醒で何とか事なきを得た帝国。その勝利はまさに底なしの崖の上に張ったロープを強風に煽られながら渡る綱渡りのように厳しいものだったに違いない。


「我の目算が甘かったとしか言いようがないな……」


 グルガンの呟きにレナールがカカッと笑った。


「何言ってんのさっ! あんな化け物に計算なんて通じないよ。イレギュラーっての? そういう急な横入って奴が全部をひっくり返したりするんだから。第一この子らが居なきゃあたしらは隷属するほか道はなかったんだよ? 想像してみなよ。そん時はあたしたちが敵になってたかも、なんだから」


 その言葉にディロンがニヤリと笑う。


「へっ、もしそんなことになってたって関係ねぇよ。お前らなんてこの俺が1人でぶっ飛ばしてやったぜ」

「おん? なんだって? 良く聞こえなかったねぇ」

「あ? なんだぁ? お前耳クソ詰まってんのか?」


 レナールはディロンの挑発にグイっと酒を呷った。


「ふんっ。ライトならともかくあんたじゃ無理だよ。あの竜に変化する奴は面白い切り札だったけど、あれじゃあたしらに勝てるわけないね。もって半刻ってとこ。それで終いさ」

「……面白れぇ。今やるかコラ。女だろうと手加減しねぇぞ」

「あらら、侮られたもんねぇ。その女が剣師たちが喉から手が出るほどの頂に立っている事実をその体に刻んであげるわ」


 岩に腰掛けた隣同士でじりじりと殺気を出す2人。どちらか一方でも動けば開戦となる状況でライトとブルックが止めに入る。


「やめろ2人とも」

「そうだ。その闘志は次の魔神戦まで取っておけ」


 2人に制止され、ディロンとレナールの殺気はみるみる内にしぼんでいく。ディロンが舌打ちして立ち上がったことでお開きとなった。


「なかなか面白い関係性となっているな。良い兆候だ。……これより聖王国へと向かうわけだが、他のメンツも紹介してくれないか?」

「良いとも。こちらへ」


 ブルックの案内で剣聖たちに挨拶しに行こうと一歩踏み出した次の瞬間。


 ──ゾクッ


 体の芯から凍るほどの恐怖が駆け巡る。肌が泡立つような感覚はガルムと対峙した時と同じだった。

 グルガンたちだけではない。一部を除くこの世界の生き物という生き物が死の恐怖を感じ取ったのだ。


「っ!?……なんだこれはっ?!」


 グルガンたちは同時に同じ方向を向いた。

 それは獣王国と呼ばれる獣人たちの楽園がある方角。


「師匠っ!!」


 ブルックの弟子であるアレンは切羽詰まった顔で走ってきた。その表情から察するに魔神レベルが帝国領に現れたのではないかと焦ってきたのだ。

 自己紹介前というこのタイミングでグルガンを見たアレンは剣の柄に手を添えて一瞬身構えたが、魔神レベルの気配が全然違う方向から来ていることと、ブルックが右手でアレンを制したことで敵ではないと悟る。


「師匠この方はっ?!」

「敵ではない。セオドアたちはどこにいる?」

「浮島の残骸に……す、すぐに呼んできますっ!!」

「頼んだ」


 アレンはブルックの了承を得るや否や風を切るようにすっ飛んでいった。

 これから戦いが始まろうとしている。

 帝国にやってきているのか、はたまた遠い彼の地で魔神がここにいるぞとアピールしているのか。既に戦闘の渦中か、それとも対岸の火事か。

 全く判断が出来ないままに剣を抜く。

 今信頼出来る武器を握っていないと心細いと思えるほどに強大な力、凶悪な恐怖が天地に響く。


 絶えず内戦が続いていた半世紀前から国としての体を為していない、大国の一つに数えるにはあまりにもみすぼらしい大地。

 そこから発せられるのは過去最大級の力の波動。そして人間の歴史史上最大級の戦いが繰り広げられていた。

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