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236、戦力集め

 聖王国ゼノクルフの首都サンクトモーゼ。


 今や魔神ヴァイザーの根城となった城を背に、ティオとリディアを除く七元徳(イノセント)が教会に入っていく。

 教皇の居城に教会が併設してあるため、本来であれば教会目当てに街に繰り出すことなど無いわけだが今日は違った。

 ジャガラーム遠征前にティオとリディアから今後の聖王国に関することで置手紙があり、ローディウス卿の護衛任務を失敗したランドルフとクラウディア帰投の後、街の教会に来るよう指示が書かれていた。


 教会の中は閑散としていて、人払いが行われてるほど不自然に人が居ない。関係者を探して礼拝堂に入ると、フード付き神官装衣を目深に被った180cmを超える長身の司祭(プリースト)が1人、背を向けて立っていた。


「ちょっと良いか? 俺はクレイ=グラディウスというものだが、約束している案内人はあんたで間違いないのか?」


 クレイの言葉にゆっくりと振り向く。その顔には髭が蓄えられており、明らかに男だと認識出来る風貌だった。


「……貴公らの所属は?」

「教皇直轄部隊七元徳(イノセント)。って、司祭(プリースト)ならわたくしたちの格好を見ればそれだけで分かりますわよね? 何者ですの?」


 クラウディアは腕を組んで睨み付ける。男はフッと小さく笑いながらクラウディアたちを見回す。


「我はグルガン。貴公の言うように司祭(プリースト)ではない。神官系魔法が使えぬわけではないが、どちらかというと野伏(レンジャー)のスキルを保有している」

「そいつは変装か。こんなどこの奴とも知れない男を案内係に遣わせるとはな。ティオとリディアはどんな奴とつるんでいるんだ?」


 クレイは突っかかるようにグルガンに詰め寄るが、クレイの肩を褐色肌の手がむんずと掴む。オーウェンはムキムキの筋肉をぴくぴくと動かしながらクレイを一歩下がらせる。


「大方の察しはつく。反政府軍の立ち上げに加担しろというのだろう。我々を味方に付ければ武力によって国の転覆が図れると考えてのことだな?」

「……当たらずも遠からず、といったところだな」

「図星か。そういう考えなら帰らせてもらうぞ。俺はそういった権力闘争に絡まないようにしているからな」

「待て、オーウェン=ロンパイア」


 踵を返したオーウェンは名前を呼ばれて立ち止まる。


「名乗った覚えはないが……?」

「……ランドルフ=バルディッシュ、クラウディア=ファルシオン、アドニス=グレイブ。当然全員把握済みだ。そして貴公は大きな勘違いをしている。だが我がいくら言葉を重ねても貴公らは信じまい。我の話など二の次だ。会って話して欲しい人物がいる。帰るならその者に会ってからでも遅くはない」


 反政府軍のリーダーと言える存在に会ったところで心変わりなどするはずもないし、会う価値すらないと内心では思っている。しかし異様な雰囲気を持つこのグルガンという男の圧に飲まれる。

 南方面を占拠している邪教集団『神選五党』などという屑集団では絶対に無いと言えるが、だとすれば新勢力か、はたまた諸教派か。いずれにせよ裏に誰が居るのかが気になった。


「……会いましょう」

「な、おいランドルフっ!」

「良いではありませんか。確かにここで言い争っていても何も始まらない。グルガンさんとやらの言う通り、話をいくら重ねたとて心から信じられるわけがありませんし……ティオとリディアの2人を納得させた人物に会ってみましょう。暴れるのは会ってからでも遅くはありませんからねぇ」


 ランドルフの隣に立っていたアドニスも頷く。突っかかったクレイも渋々了承した。


「ええ。それでは連れてきてくださる? グルガンさん?」


 クラウディアの言葉にグルガンは首を横に振った。


「いや、連れてくるのではなく貴殿らを連れていく。誰もその場を動くんじゃない」


 グルガンが手をかざすとグルガンを含む6人の姿が教会から消失する。クレイたちの視点から見ても明らかに教会とは作りが異なる場所に一瞬の内に連れてこられた。幻覚の類かと考えたが、それでは説明出来ないことがその身に染み渡る。具体的には視覚のみならず聴覚と嗅覚、肌に感じる空気感までもがガラッと変わってしまった。


「……ソルブライト?」


 クラウディアの言葉に七元徳(イノセント)全員の目が見開かれる。あまり馴染みは無いが景色には見覚えがあった。


「……瞬間転移。グルガン殿の魔剣の能力だそうだ」


 これまた聞き覚えのある声が部屋に響く。ハッとして振り返るとそこにはエデン正教の枢機卿(カーディナル)イアン=ローディウスが立っていた。


「ロ、ローディウス卿っ!?」

「そんなバカなっ!? あなたはあそこで……っ!!」


 ランドルフとクラウディアは凄惨な現場を直接見ただけに驚愕は人一倍だ。


「うむ。あの時助け出されなければ私は今ここに立っていない」


 間に合わなかったことに対する罪悪感と仕事をまともに(まっと)う出来なかった不甲斐なさから2人は肩を落とす。


「……分かっている。2人が間に合わなかったのは邪魔立てがあったせいであろう。貴殿らに罪はない。誰がやったかおおよその察しはついているが、今はそんなことに注力している時ではない。問題は魔神の存在だ」


 ローディウスはクレイたちを見渡す。


「私はここで諸教派と手を組み、数多くの戦力と共に魔神ヴァイザーを討伐する『聖王国奪還作戦』を計画している。猊下が操られ、私を亡き者にしようとしている反逆者が居る中、エデン正教で頼れるのは貴殿らだけなのだ。ヴァイザーを倒すために協力してほしい」


 クレイたちとて同じ気持ちだ。しかし教皇直轄部隊という栄誉を賜っている以上、猊下を(ないがし)ろにしてヴァイザーを勝手に討伐するようなことがあっては信用失墜どころか国の崩壊につながりかねない。後ろ盾が存在しないのであれば、七元徳(イノセント)がどれだけ強かろうと意味がない。


 猊下を助け、国を美しいままに次代に送り出すためには建前や錦の御旗が必要なのだ。そして今、ローディウスの生存が明らかになり、後ろ盾を手に入れた七元徳(イノセント)

 ヴァイザーを倒す土台は整ったと見て良い。


七元徳(イノセント)よ! 猊下と国を守護する盾よ! 今その力を剣と成し、救国の英雄となれっ!!」

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