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229、義理

「駄目だ。危険すぎる」


 幾度に渡る交渉も空しくグルガンに跳ねられる。


「何度来ても同じことだし、この際ハッキリと言わせてもらうが、貴公は戦艦の魔力面に関するメンテナンス要員だ。最初から戦闘には介入させるつもりはない。それに乗組員となる時に言ったはずだ。この大陸は危険だから安全が確保されない限り外出させないと。これからレッドに向かってもらうダンジョンは話によれば我々皇魔貴族のダンジョンなど霞むほど難しいレベルだと聞く。行ったところで足手まといになるだけだ」

「足手まといにはならないわよ。だってレッドは方向音痴らしいじゃん? だから私がついて行ってあげるの。こう見えても迷ったことないんだから」

「いや、だから案内人のティオとリディアが居るのだから貴公の出番はない」

「そんなことないもん! あいつすぐどもるし、緊張しいのコミュ障なのよ? 私がその子たちとの仲を取り持つわ! 冒険者チームのリーダーとしての経験も私の方が上だし、絶対役に立てるから!」

「強情な……」


 当初はオブラートに包んで遠回しに否定していたグルガンもそろそろ我慢の限界といった風だ。それでも冷静にしていられるのは、昔からベルギルツのような考えなしを相手にしてきたからかもしれない。

 反発し合う2人。どちらも譲ることのない状況にレッドが口を挟んだ。


「それじゃ俺がシルニカさんを守りますよ。俺前衛だし」


 その言葉にシルニカは喜び、グルガンは驚愕する。


「わぁ~っはぁっ! 流石レッド!」

「本気かレッドっ! これは遊びではないんだぞっ!」

「いや、だって……意固地になったシルニカさんを曲げる方法はないですし……」

「はいぃっ!? 何ですって!? それどういう意味よっ!?」

「あ、いやその……お、おお、落ち着いてください。他意はないんです。それにクラウドサインの方々にシルニカさんを頼むって言われた手前、義理を果たしたいと考えています。今回だけで良いので許してもらえないでしょうか?」


 レッドの目をじっと見るグルガン。しばらくそうしていたが、揺らぐことのないレッドの真剣な眼差しにグルガンは天を仰ぐ。


「……仕方がない。レッドがそこまで言うのなら我はこれ以上反対しない」

「ありがとうございます!」

「感謝はよしてくれ。我と貴君に身分の差など存在しない。我はただ、4人が無事に帰るよう祈るのみだ」


 グルガンはシルニカに視線を送る。シルニカは一瞬身構えたが、先ほどとは打って変わって優しい目を向けてくれた。日向ぼっこで気持ちよくなっている猫のように穏やかな目だ。


「もう行くなとは言わない。今回だけはな。無謀なことはせず、決してレッドから離れるんじゃないぞ」

「え……う、うん」


 シルニカはポッと顔を赤らめて恥ずかしそうに髪をいじり始める。それを見たグルガンは眉間にシワを寄せた。


「……そういう意味ではないのだが……ま、まぁ良い。ティオとリディアには我から伝えておく。2、3日中には出発となるだろうから、それに向けて準備を整えておいてくれ」

「あ、はい。分かりました」


 シルニカのジャガラーム遠征許可が下り、安堵と同時に眠たくなって来たので部屋に戻ろうとする。そこでスロウのことを思い出し、スロウの部屋の扉をノックした。


「……スロウ?」


 しばらく経っても返事がない。まさかと思って扉を開けるが、スロウはベッドの上で寝ているようだった。特に変わったところもなさそうだったので扉を閉めようとする。


「……レッド?」


 スロウは眠たい目を擦りながら起き上がる。


「あ、ごめんごめん。起こしちゃった? じぃつぅう〜わぁ〜……」


 レッドが部屋に入ったところで急に体が遅くなった。視覚から入ってくる情報と思考の速度が合致せずに困惑する。夢の中にいるような感覚に陥り、今歩いているのかどうかも分からなくなる。


「おうぅぅ〜わぁああっ!! ぬぁんだぁ〜くぉれぇ〜っ!!」

「ああ、私の能力だよ〜。この部屋に入ってくるものみんな遅くなるの〜。ほら〜、前に誘拐されそうになったでしょ〜。今度は〜誘拐されないようにこうして常時能力を発動してるの〜賢いでしょう〜?」

「すぉおおいぅくぉとぅおくぁあ〜……くぉおるぇぬぁるぁあ……安心だねぇ。お?」


 急に速度が元に戻る。スロウが能力を解除したようだ。


「おいレッド。姫様に何のようだ?」

「まさか! 寝込みでも襲いに来たんじゃないだろうなっ!」


 スロウの魔道具『極戒双縄』は鎌首をもたげて威嚇する。


「そんなことしないよ。もしかしてあの天使に拐われたりしてないよなって確認に来ただけ。ちゃんとノックもしたし……」

「あ〜。ノックの音も遅くなってたから分かんなかったかも?」

「あ! 勘違いするなよレッド! 気付かなくたって侵入者も遅くなるからな!」

「そうだぞレッド。姫様に指一本でも触れようものならお前の人生はここで終わるからな」

「だからしないって……」


 レッドがソワソワと落ち着きがないのを見てスロウがベッドをポンポンと優しく叩く。


「どうしたのレッド? ほら〜ここに座って座って〜。お話ししましょ〜」


 レッドはスロウに促されるままベッドに座る。極戒双縄が常に睨みつけてくるが無視して口を開いた。


「実は俺、ちょっと遠征に行かなきゃいけなくてさ。船を何日か空けることになるんだ。もしその間にあの天使が来たらって思うと気が気じゃなくて……一緒について来てもらうことも考えたけど、今さっきの能力を見て大丈夫だって思えたからホッとしているんだ」

「そうなんだ〜。でも近くまではこの船で一緒に行くでしょ〜?」

「いや、目立つからそうも行かなくてさ。今回は歩き」

「歩きたくはないな〜……大丈夫だよ〜。私たちでなんとか出来るから〜」

「それを聞いて安心したよ。でももし危ないと思ったら無理せずみんなを頼れば良いから。みんなすぐに力を貸してくれるよ」

「んふふ〜っ分かった。頼りにしてるよ〜レッド〜」

「あ、えっと俺は遠征……いや、いつでも頼ってくれよ」


 レッドは笑顔で部屋を後にする。気持ちの準備は整った。

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