222、運命力
急に背後から話しかけて来たティオを見てグルガンは警戒しつつハワードに質問した。
「彼女は?」
「知らんのか? ふんっ! 特別に教えてやろう。あの女は七元徳と呼ばれる教皇直轄の部隊の1人だ。ガブリエル猊下が直々に選んだ精鋭中の精鋭。そこのリーダーをしている厄介な女だよ」
ハワードはぶつけられなかった2人への怒りをティオへの嫌味へと変化させ、腹の虫を治めた。それに付け加えるよにフィアゼスも調子に乗る。
「正教最強部隊としても名高いですよ? まぁ私には及びませんがね。彼女もまた優秀な人材ではありますがアリーシャさんに比べれば天と地というか……なっ!?」
フィアゼスの目は見開かれ、まっすぐティオの背後に向かう。グルガンたちも見たその先には丁度角から曲がってくるレッドの姿があった。その腕にはアリーシャが抱かれ、背後には「そっちですよ」とリディアも続く。
「あ、もう終わったんですね」
「キサマっ!!」
フィアゼスはいつもの冷静さを失い、カタール型の魔剣を取り出す。それに呼応するように同時にティオも剣を抜いて戦闘態勢に入った。このままでは戦闘が始まってしまう。
「何をしているんだフィアゼス! 今すぐに仕舞えっ!!」
焦ったハワードはすぐにフィアゼスに掴みかかるように制止する。鼻息荒く肩を大きく上下に動かすフィアゼス。主人ですら叩き切りそうな雰囲気だが、ハワードの命に従い剣を仕舞った。
真剣な顔で剣を構えていたティオも、すぐに顔が緩んで剣を仕舞う。
「ふぅーっ怖いなぁ。いきなり抜くなんてフィアゼスさんらしくもない。いつもなら私たちを煽って武装を促してくる立場の人なのに……」
そう言いつつ頬を掻いているとガシャガシャと金属のこすれる音がこちらに向かってくる。
「どうしたぁっ! 何があったぁっ!!」
5人の衛兵が駆け付けたが、その場にいた全員を見渡して絶句する。侵入者の類でもなければ客人が暴れて破壊されたような痕跡も見当たらず、何よりも既に七元徳の2人が対応しているのもあって思考が停止してしまった。
そんな衛兵の考えをいち早く察知したリディアは手をかざして言い放つ。
「大丈夫です。私たちが対応していますのでここはお任せください。皆さんは持ち場にお戻りを」
「か……畏まりましたリディア様」
出る幕はないと悟った衛兵たちはすごすごと引き下がる。姿が見えなくなったところを見計らってエイブラハムは頭を下げた。
「すまない。皆が手を取り合わねばならない時にこんな……。どうかこのことは内密にお願いします」
「あ、はい。そのつもりです」
リディアもペコッと頭を下げた。件の元凶であるレッドはアリーシャを下ろした。
「──どうやら誤解させてしまったようですね。大変申し訳ございません」
「ちょちょっ……!? アリーシャさんは謝らないで! 元はと言えば俺が無理やり……!」
レッドが口走りそうになった言葉をグルガンが覆い隠すように口を開く。
「先の反応は見事であった! 素晴らしい戦士だ!」
「ああ、え? あ、ありがとうございます?」
ティオは褒められたことで一瞬嬉しそうに笑ったが、知らない誰かからの称賛に疑問符を浮かべた。
「出来れば話がしたいのだが、今から時間は空いているか?」
「はい。私なら全然余裕ですけど……」
「ならば共に来てくれ。合わせたい人物がいる」
「どなたでしょうか?」
「この場では言えないな。しかし合ってもらえればすべてを理解するはずだ」
ティオの視線がリディアへと向く。リディアは不安げな表情を見せたが、コクリと一つ頷いた。
「……2人で行ってもいいでしょうか?」
「もちろん。むしろ好都合だ」
グルガンはティオから視線を外し、ニヤリと笑いながらレッドを見る。レッドはその視線が意味するものはよく分かっていなかったが、きっと悪いことではないだろうと照れておく。
ようやくまとまりつつある中、フィアゼスだけが「今なんて言いました? 無理やりとか聞こえませんでした? ねぇ?」といつまでもグチグチと周りに確認を取っていた。




