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220、謙虚と純潔

「──助かりました。皆様ありがとうございます」


 アリーシャはリディアの診察と魔法的な治療によってすぐに回復した。


「よ、良かった。もう大丈夫なんですね?」

「──ええ。お騒がせ致しました」


 顔色が良くなったのを見てホッと胸を撫で下ろす。リディアはそんなレッドを見ながらニコッと笑った。


「精神的なものだと思います。心が恐怖によって委縮すると貧血のような症状を引き起こしたりするので、それが原因かと……。何か心当たりがおありですか?」

「──はい。とんでもなく凶悪な存在です。この世界の住人ではありません。あれを目の前で感じることがこれほどストレスになるとは思いも寄りませんでした」

「っ!……この世界の住人じゃないってもしかして……!?」


 リディアとティオは顔を見合わせる。レッドはその様子からアリーシャが感じたという恐怖の正体を知っているのではないかと推測する。


「……何かご存知なんですか?」

「あ、はい。その者の名はヴァイザー=イヴィルファイド。聖王国のトップである教皇を操り、神の様に振舞う邪悪な存在です」

「え? ということは玉座の間にそのヴァイザーが居たのか」

「はい。本日はガブリエル様に来訪があると聞いていましたが、諸教派の方々だったとは……」


 リディアが考え込むように顎に手を添える。そんな姿にアリーシャは違和感を覚えた。


「──あなた方は猊下直轄部隊のはず。何故伝達されていないのですか?」


 その質問にリディアはバツの悪そうな顔を浮かべる。そこに眉根を寄せたティオが割り込んでくる。


「あのヴァイザーとかいう奴がおじいちゃ……ガブリエル様をそそのかしているんですよ! でなければ私たちを遠ざけるような真似をするわけがないんです!」

「──確かにそうですね……魔力識別眼(マナアイ)を持つ猊下が、押し潰されそうなほどの魔力を前に平気でいられるはずがないでしょう。操られているという方がしっくりきますね」

「でしょでしょっ!」


 共感してくれるアリーシャにティオは身を乗り出して頷く。


「──しかし腑に落ちないのは、ヴァイザーが猊下に接近出来たことです。どうしてそのようなことに?」

「それが……どういえば良いか……」


 ティオが言い淀んだのでリディアが代わりに話す。


「魔払いの障壁を破ることなく首都に入り、城の防衛機能を掻い潜って城内に侵入されたようです。そのような手合いと出会ったことがなかったと言えば言い訳になりますが、索敵にも引っかからない敵を相手にこちらは手も足も出ず……」

「──なるほど。知覚出来たのが猊下だけということになりますね。となればどうしてあなた方を配備しなかったのかは疑問が残りますが、この判断を下した猊下に直接伺わない内は推測の域を出ませんか……」


 話し合いが暗礁に乗り上げたところでレッドがそっと手を挙げた。


「ん? どうかされましたか?……えっと……?」

「あ、俺レッドって言います。レッド=カーマイン」

「レッドさん? あ、すいません。カーマインさんがよろしいでしょうか?」

「あ、じゃあレッドで。ちょっと気になったんですけど、今さっき直轄部隊とかなんとか言ってましたよね? 医療専門の方とかではないのですか?」


 リディアとティオは視線を交し合う。先に口を開いたのはティオだった。


「そう言えば自己紹介がまだでしたね。私はティオ=フラムベルク。ティオって気軽に呼んでください。そしてこっちが……」

「リディア=ハルバートと申します。私たちはガブリエル猊下直轄部隊『七元徳(イノセント)』に所属している聖戦騎士(クルセイダー)です。どうぞお見知りおきを」


 スッと頭を下げるリディアと胸を張るティオ。2人の性質がよく分かるしぐさだ。


「イ、イノセント? クルセイダー? な、なんか強そうで格好良い響き……」

「──実際皆さんお強いです。7人の精鋭たちが国のため猊下のために力を振るうのです」

「7人も?! 凄い……二つ名とか持ってそう……」


 レッドの呟きにリディアが返答する。


「ありますよ。二つ名というよりコードネームの方が近いですけど」

「え? なにそれ……そっちの方が格好良いじゃないですか。羨ましいなぁ」


 冒険者ギルドに所属している以上、憧れないわけがない二つ名持ち冒険者。目立ってなんぼの冒険者たちの中でひときわ輝き、内外から称賛される稀代の冒険者にのみ与えられる称号。当然レッドも憧れていた。

 つい最近、皇魔貴族から認められて『男爵(バロン)』の爵位と領地の主たる『ダンジョンマスター』の称号を頂いたが、デザイアの規格外の攻撃でダンジョンは消滅。爵位だけが独り歩きするのは恥ずかしいと考え、名乗るのを控えている。

 羨望の眼差しを向けるレッドと照れる2人。レッドの声色からアリーシャも一瞬自慢したくなったが、そんなことをしている場合ではないとぐっと堪えて本題に移る。


「──何はともあれ由々しき事態です。国家元首を盾に取り、陰ながらに国の支配が完了している。ここからじっくりと民衆にまで支配が及んでしまえば、聖王国は全て邪悪な者の手に堕ちてしまいます」

「いや、それが相手も急いでいるのか、最近街に魔族を練り歩かせるという珍事件がございました。幸い攻撃はされなかったので国民にケガはなかったのですが……」

「──なんと……猊下に近付くのに相当な注意を払い、時間をかけるべきところを一気にとは……ちぐはぐという言葉が当てはまりますね」


 アリーシャとリディアは2人して考え込む。それを傍から眺めていたレッドは同じホワイトブロンドの長髪のせいか、一瞬どっちがどっちだか分からなくなる。顔立ちまで似ているような気がしてきて、赤い布をしていなければきっと間違えていただろう。


「……ね。似てますよね、あの2人」


 それを察してかティオがコソッと話しかけてくる。レッドは耳元まで近づいてきたティオにドキッとしたが、悟られないようにゆっくりとそっぽを向く。


「た、他人の空似とは思いますけど……」

「まぁ多分そうですよねぇ……ところでレッドさんはエデン教の信徒なんですか?」

「あ、えっと……お、大きい括りではそうかな? でも特に信徒ってほどでは……」

「へぇ〜。じゃあなんでアリーシャさんと一緒にガブリエル様に会いに来たんですか?」

「な、なんでって……えっと……とりあえず様子見というか……?」


 レッドが言い淀んでいるとアリーシャが口を挟む。


「──頃合いでしょうか……。すっかり良くなりました。そろそろ帰りましょう」

「あ、はいっ! そうっすね!」


 レッドはティオとの会話をそこそこに立ち上がると、滑る様にアリーシャを抱え込んだ。あまりに自然にお姫様抱っこをしたので一瞬これが正解かと思ったが、そんなわけがないとリディアは顔を赤くして口を覆い、ティオは嬉しそうにパァッと明るくなった。


「──あの……レッドさんがよろしければ、その……私は良いのですが」

「え?……あ、そっか!」


 体長不良の時ならいざ知らず、何でもないのに抱きかかえられるのは恥ずかしいだろう。(しまった!)と思ってレッドは下ろそうと考えるが、ティオのキラキラと輝く期待の眼差しを受けて逡巡する。夢見る少女を彷彿とさせる彼女をガッカリさせたら可哀想と感じ、アリーシャも承諾しているので下ろすのをやめた。


「あの……よかったら出口まで案内してくれます?」

「分かりました! こちらへどうぞ!」


 ティオは快く承諾した。

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