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218、謁見

 レッドたちは教皇への謁見を取り付けて煌びやかな城内を歩いていた。前方には案内してくれているエデン正教の信徒と諸教派の代表の2人が率先して歩く。


 護衛と称してレッドまで駆り出されることになったのはローディウスの一言だった。


「レッドはこの世界で間違いなく最も強い男だ」


 凄まじく真剣な顔で一点の曇りもなく豪語した言葉にハワードもフィアゼスも噛み付いた。

 見た目は間違いなくただのモブキャラ。人混みに紛れたら埋没してしまいそうなほど普通。一般人という言葉がよく似合う。


 そんなレッドが原初魔導騎士(ルーンナイト)と呼ばれて崇められるアリーシャや暗黒騎士(ブラックナイト)と呼ばれて恐れられたフィアゼスを差し置いて最強を名乗るなどあり得ない。()っての(ほか)である。


 だがアリーシャはローディウスの妄言を全面的に信用すると表明。

 アリーシャの言葉にショックを受けるフィアゼスだったが、彼女に振り向いて貰いたいが故に渋々レッドが強いことを認めることに。

 そしてそのままなし崩し的にエイブラハムが提唱した教皇へ直接謁見することがゴリ押され、ハワードもその波に飲まれてしまった。


 ハワードがエイブラハムと肩を並べて歩くなど久しぶりのことだったので、少々距離を開けてバツが悪そうに黙々と足を動かす。

 その背後にはアリーシャ、レッド、フィアゼスの順に横並びになり、最後尾に人間形態のグルガンが続く。


「……少々個人的なことを失礼します。アリーシャから離れなさいレッド=カーマイン」


 フィアゼスはジロリと睨みつけながらコソコソとレッドに指摘する。レッドも困った顔でフィアゼスを見た。


「いや、その……あのですね? 手を握ってないと距離感が分からないから怖いって……」


 レッドはアリーシャと手を繋いで歩いていた。レッドにリードしてもらう形で半歩斜め後ろで嬉しそうに歩いている。その様はまるで恋人のようだ。アリーシャが楽しそうにしているのを見てしまうと勘違いであるにも関わらずどうしても甘いイメージが浮かんできてしまう。


「……あなたが隣に居なければ良いではないですか。アリーシャさんはあなた以外ちゃんと見えているのですから手を引く行為は必要ないでしょう? あなたが最後尾の魔族の隣でアリーシャさんとの距離感を確認していれば良いのですよ……」

「──私がレッドさんにお願いしたのです。こうしていないと危ないので……」

「っ!?……で、でしたら私がリードいたしますよ……!!」


 アリーシャの回答にフィアゼスは興奮気味に身を乗り出す。レッドを押しのけるようと手を伸ばしたその時、グルガンが背後からフィアゼスの腕を掴む。


「……遊ぶな」


 フィアゼスは鬱陶しそうにグルガンの手をパッと払い退ける。


「……触らないでいただけますか? まったく……」

「フィアゼス。私語は慎めよ」

「……は。失礼いたしましたハワード様」


 先ほどまでの態度から一転、背筋を伸ばして返答する。主人であるハワードには従順に従うようだ。

 そうこうしている内に玉座の間に到着し、程なく入室を許可される。


「──っ!?」


 その時、アリーシャの目に飛び込んできたのは毒霧のような黒い瘴気。のたうつ黒い影。

 気分が悪くなるほどの気配に一瞬めまいを感じ、レッドにもたれかかる。


「お? おおぅ。だ、大丈夫ですか?」

「──も、申し訳ありません。少し立ち眩みが……」


 フィアゼスの方からミギミギッと金属がこすれるような音が聞こえているようだが気のせいにしておいた。


「なんじゃ? おぬしらそこで何をしておる。とっとと入ってこんか」


 その声にグルガンはハッとする。

 デザイアと初めて相対した時、デザイアの背後に並んでいた6人の魔神。その内の1人に同じ口調の魔神が居た。

 グルガンはすぐにレッドの顔を隠すように動き、囁くように伝える。


「……レッド。このまま彼女を連れてどこか休める場所に行ってくれ。振り返らず真っすぐにな」

「え……は、はい」


 レッドはアリーシャを連れてそそくさと元来た道を戻る。グルガンはすぐに振り向き、エイブラハムたちの前に一歩出る。その目に映るのはやはりあの時デザイアと共に居た魔神の1人、ヴァイザーで間違いない。教皇と思われる老人が玉座の隣に立ち、ヴァイザーが堂々と玉座を占領している。


「申し訳ございません。今し方、同行者の1人が体調を崩しまして。そのような無様な姿を見せるわけにはいかないと外させました。どうかお許しを」

「ほほぉ。そのような状態で儂にあいさつに来たというのか? 信心深き者の敬虔さというのは時に身を滅ぼしかねんもの。そこまでの覚悟ならば会わないというのも無作法ではあるが、無理をするのは良くない。今後の楽しみに取っておくとしよう」


 ヴァイザーはエイブラハムたちに手招きをし、眼前に来るように促す。

 フィアゼスとしてはアリーシャが心配であり、レッドを今すぐにでも殺したい気持ちでいっぱいだが、その全てを理性で押し殺しハワードの従者として玉座の間に入る。

 ハワードを置いて離れられない何よりの理由はヴァイザーの禍々しさにあった。


 神聖さの欠片もないただの化け物。

 闇の眷属たるフィアゼスをも超えた魔の具現。


 そんな化け物が聖王国の中心たる玉座に座っているということは、聖王国はローディウス卿やグルガンの言う通り、既にデザイア軍に占領されたことを物語っていた。

 思うところは多々あるが、何を言われるでもなくサッと4人全員がヴァイザーの前に跪く。


「……エデン教諸教派の代表、ハワード=ガストン」

「同じく諸教派の代表、エイブラハム=アースノルド。ここに推参いたしました。お会い下さり感謝申し上げます。猊下」


 その言葉にガブリエルは一瞬感情を失くしたかのような無表情となってエイブラハムを冷ややかに見たが、すぐにニコリと笑って口を開いた。


「……ああ。はっはっはっ、私としたことが。『魔力識別眼(マナアイ)』が私だけの能力であることをすっかり失念しておりました。これはうっかりしておりましたね。……しかし良きタイミングです。これもまた、ヴァイザー様の運命力というものなのでしょう。お待たせして申し訳ございませんヴァイザー様」


 ヴァイザーは「良い」と一言返答し、4人をジロジロと眺める。


「おぬしらが正教と対立する新興宗教の代表ということじゃな?」

「新興の定義にもよりますが、概ねその通りと解釈していただければ……」

「なんじゃその返答は……? 自分たちの教えこそが正しいとでも思うておるのか?……ふんっ。まぁ良かろう。晴れ舞台の予行演習には丁度良い」


 ヴァイザーは玉座から立ち上がることなくふわりと浮かぶ。両手を広げ、超越者然とした態度を見せると背中に光の輪っかを背負う。


「儂の名はヴァイザー=イヴィルファイド。この地に降りし導くもの。……平伏せよ。讃えよ。崇め奉れ。儂こそがおぬしらの神である」


 不遜にも神を名乗るヴァイザー。しかしその絶対的な力に圧倒され、エイブラハムもハワードもフィアゼスでさえも顔を上げることは出来なかった。

 グルガンはあえて頭を下げる。その奥ではヴァイザーを倒すため、今後の戦いに万全の対策を模索していた。


「今日この時よりエデン教などという不確かな教義は終わりを告げる。そうじゃな……この儂の名を取り、ヴァイザー教とするのはどうかのぅ?」

「素晴らしいお考えかと」

「んふっ! ふははははっ!!」


 発する言葉すべてが肯定されて気持ちよくなったヴァイザーはただただ楽しそうに高笑いし、ガブリエルを除く信徒たちをドン引きさせた。

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