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191、帝国の威信

「……これで良いか? アシュロフ」


 牢屋から出されたジオドールは振りかざした錫杖を力無く下ろした。


「ありがとうございます陛下。これで我々にも勝機が生まれました」


 腰から深々とお辞儀をし、感謝を述べるアシュロフ。ジオドールは眉間にシワを寄せて錫杖をかざしながらアシュロフの顔に近付ける。


「……勝機? 勝機だと? はっ!……ふざけているのか? ティリオンが粉微塵にされたんだぞ!? 帝国最強の男が何も出来ずになっ!!」


 ブルブル震えて怒りを湛えるジオドールをアシュロフは無表情で迎え入れる。ジオドールはそんなアシュロフの顔を殴ろうと錫杖を振りかぶったが、やはり力無く腕を下ろす。


「……あの化け物に……どうやって勝つというのだ? 不可能だろう?」

「……重要なのは戦う意思です。諦めずに食らいつくのが我々の務め」

「えらく抽象的だな」

「はい。精神論は常に支柱となります。我々の故郷のため、命を懸けて戦う所存」

「精神論に、命を懸けて? そんなことで貴公らは死ぬつもりなのか? 自分の価値を理解していないのか? 今すぐに中止しろ。今貴公らを失えばそれこそ帝国は終わる。私も今一度あの男の元に行く。共に跪き、命乞いをするんだ」


 その瞬間にアシュロフの顔は憤怒に彩られ、ジオドールに掴み掛かる勢いで詰め寄る。


「……それだけは絶対におやめください。士気にかかわります」

「な、ア……アシュロフ?」

「……お許しを。全て終わった暁には非礼の罪を償います。それまで陛下は我々の勝利を願い、剣師たちと共に安全な場所でお待ちください。もし我々が負けた時は……我らに裁きを」


 マントを翻し、颯爽と歩き出すアシュロフ。その背を見て思わず声が出た。


「アシュロフ!……本当に勝てるのか?」


 その質問にピタッと足を止め、肩越しにニヤリと笑みを浮かべる。ジオドールはその顔に言葉を詰まらせた。

 アシュロフは現実主義であり、部下思いの熱血漢である。普段は無口で愛想の一つも無さそうなほどに固く口を閉じているが、思ったことをハッキリと物申す男だ。

 ジオドールは項垂れて近くの出っ張りに腰掛ける。アシュロフは構うことなくそのままその場を後にした。



 封印指定魔剣まで引っ張り出し、剣聖たちの命を懸けた帝国の最終決戦。


 最初に突っ掛けたのはブルック。

 一番前に立っていたのもあり、滑るようにガルムの眼前まで接近する。ガルムは攻撃を仕掛けようと、間合いを測りつつ刀の握りを確認する。

 悠長に構えていたガルムだったが、ブルックの魔剣が瞬時に変形したことで片眉をつり上げた。


 ブルックの封印指定魔剣『無銘』は巨大な両手剣である。その長さ、その物量は当たっただけで常人であれば切れるどころか粉々になることは必然。

 しかしこの武器の真価は変形にこそある。

 刃先が組み替えパズルのように割れたりズレたりしながら変形し、魔力が質量を持って射出される。一定の間隔で射出された魔力は刃先に沿って回転し、まるでチェーンソーのように凶悪な武器へと変化した。


 ──ビュオァッ


 横薙ぎに空気を切り裂き迫る魔剣。ガルムは受けることなく跳躍して避ける。

 その勢いのまま刀をブルックに向けて振ろうと手首を返した直後、セオドアが何処からともなく現れた。


咬牙(こうが)烈翔閃(れっしょうせん)っ!!」


 波打つ斬撃。蛇のように絡みつく攻撃は空中という回避不可能な場所でこそ輝く。さらに飛ぶ斬撃であるため、間合いも遠いので反撃もし辛いというおまけ付き。

 だがガルムには通用しない。飛ぶ斬撃には飛ぶ斬撃を。


 ──シパァッ


 セオドアの飛ぶ斬撃を塗り替えるほどの強力な斬撃。

 剣神ティリオンを血煙に変えたのも(ひとえ)にこういった飛ぶ斬撃だったのだろうと推察出来る。

 迫りくる斬撃に肝を冷やし、何とか防御しようと剣をかざすセオドア。


 ──ギギィンッ


 しかしセオドアは斬撃に曝されることはなかった。斬撃を防ぐ壁が出現したのだ。


「……なっ!?」


 斬られることを覚悟していたのだが、自らその死地に飛び込んできたのはディロン。

 『竜之禍玉(りゅうのまがたま)』によって変身したディロンはガルムの飛ぶ斬撃を竜鱗で受け切る。ガルムはそのままディロンに迫り、刃をディロンの防御した腕に食い込ませながら押し込む。


「チッ……痛ぇなおいっ!」

「……ん? この感じ……お前だったか。リック=タルタニアンを殺したのは……」


 リックの土手っ腹に開いた殺傷痕から斬撃ではないと感じていたが、ディロンの変身と力を目の当たりにして死因を特定する。

 ディロンはその問いにニヤリと笑って応える。さらに食い込ませた刃を逃さないように筋肉に力を入れた。

 万力のように挟み込まれた刃は本来であれば外すことは困難。だが、ガルムはまったく臆せずディロンの腹を蹴っていとも容易くに刀を外し、その勢いでセオドアとディロンを吹き飛ばしつつ背後に飛ぶ。


「おおっとぉっ! 距離を開けたねぇっ!!──牙竜点睛(がりょうてんせい)炎天六破(えんてんろっぱ)ぁっ!!」


 レナールは待ってましたと真っ赤に輝く魔剣を突き出す。切っ先に貯まった熱が一気に解き放たれ、龍の形をしたマグマのような6つの炎の塊がのたうちながらガルムを襲う。

 前方を覆い尽くす炎龍にも慌てることなく刀を振るうガルム。その爆風の如き風圧の前には凄まじい威力なども関係なく吹き飛ばされる。


 ──ギィンッ


 前方に気を取られているはずのガルムの背後から、そっと忍び寄っていたブリジットの次元から突き出た魔剣の切っ先も軽く弾く。まさかガルムの背後に繋いだ次元の切れ目にも対応されるとは思ってなかったブリジットは、普段のジト目をまん丸に見開く。

 虚をついた攻撃で血の一滴でも流せるならと、ブリジットらしからぬ攻撃を仕掛けたのに無駄に終わってしまった。


「受けよっ! 我が魔剣の力っ! 威風堂々(アプリシエイト)ォっ!!」


 デュランは魔剣を振りかざし、能力を発動させる。ガルムの立っている床が急に粘土のように柔らかくなり、足を飲み込んだかと思うと一瞬にして固まり、床にガルムを固定する。

 デュランの支援を見越して動き出していたブルックは、チェーンソーとなった超威力の魔剣を振り被りガルムへと叩き込む。

 ガルムはサッと半身になってブルックの攻撃を紙一重で避けた。

 床に固定されたガルムがまるで捕まってないかのように避けたのには疑問を感じたが、床の耐久力程度で捕まえられるはずもない。普通に足を上げることでバリバリと音を立てながら簡単に避ける。


 ドッ


 ブルックはガルムの掌底を受けて吹き飛ぶ。ズザザッと床を跳ねながら体勢を立て直し、しゃがんだまま剣を構えた。


「ぐっ……!」


 ブルックは右胸の辺りに痛みを感じた。手で確認してみると凹んでいるのが分かった。

 軽く押されただけのようにも見えたが、その威力はブルックの白銀の鎧に手形を付けていた。


 特殊能力にも関係なく対応し、反撃も余裕で行う。まるで一つ一つ技を確かめるように刀を振るい、本来あるはずのアドバンテージを着実に潰していく。


 そんな剣聖たちを見かねてディロンは前に出た。


「おいっお前ら! 野郎の攻撃は俺が全て受け切ってやっから、野郎をぶった斬れっ!!」


 剣聖たちは互いに見やり、頷き合った。


「どうやら任せるしか無さそうだな……」

「おいコラ。そんなことしたってお前がやらかしたことはチャラになんねぇからな?」


 セオドアが指を差しながら苦々しく吐き捨てる。しかし背後から「……いや」と声が聞こえた。


「その覚悟、嘘偽りなく奴の攻撃を受け切るならば全て許そう。俺が保証する」

「あ? ちょっ……旦那ぁっ?!」


 アシュロフは堂々と宣言し、ディロンの士気向上に努める。彼自身も魔剣を引き抜き、臨戦態勢に入る。

 八剣聖の内1人は結局帰ってこなかったが、帝国最大戦力が揃った。

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