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181、病魔

 魔導戦艦による移動は浮遊要塞の倍以上の速度である。


 これはデザイアのこだわりが強すぎるために速度を調整していたせいだが、それもあってかレッドたちの駆る魔導戦艦はあっという間に帝国の都市部まで到着した。


「それじゃまずは街の探索からですよね?」


 いつものように身支度を済ませたレッドは艦橋で降りる場所を確認しに来た。


「そのことなのだがレッド。つい先ほどライトとディロンから提案を受けて二手に分かれることになったのだ。」

「え? でも……。」

「我も反対しかけたが、ここで無茶なことはしないというライトの言葉を信じることにしたのだ。無茶と言えばディロンだが、ライトは精霊王を引き連れているから戦力の面では申し分ない。情報収集のみに徹すれば、いざ接敵しても逃げられると踏んでのことだ。それに噂通りなら剣神が居る。幸いなことに帝国の建物は損傷個所がほとんど見受けられない。このことから戦闘前の膠着状態か、デザイア軍が静観しているために帝国が動けずにいるかの2つが考えられる。……まぁなんだ。諸々を加味した上での結論だと言っておこう。」

「ウルラドリスは?」

「彼女には荷が重い。ディロンが説得して元ラッキーセブンの4人同様自室に居るはずだ。」

「あ、そうなんですね。えっとその……何も言うことありません。」

「そうか。何か気付いたことがあれば遠慮なく言ってくれ。1人では気づけないことも多いからな。」

「はい。」


 レッドはそわそわと落ち着きがなさそうにしている。


「案ずるなレッド。見送りなど不要。リーダーとしてチームの皆を信じるのだ。」

「……ですよね。絶対帰ってきますもんね。」


 グルガンにやさしく諭され、レッドも前を向く。


「……あ、ところで俺たちはどうするんです?」

「この先の獣王国だよ~ん。地図の上ではそんなに掛からないはずだからちょーっと待っててね~。」

「あの、ルイベリア先生。獣王国は獣人族の国ですよね? 権力争いを筋肉で行っているような血気盛んな獣人に話が通じるのでしょうか? 私にはどうも無理な気がするのですが……。」

「あ~。それって差別発言?……あ、嘘嘘。噓だってシルニカちゃ~ん。確かに獣人族は人族では珍しい力による統治だよね。けどそれって裏を返せば強い奴に左右されるシンプルな国なんだよ。つまりこうっ!」


 ペチンッと右手で拳を作って左手の手のひらにぶつける。


「力で分からせてやれば全部が丸く収まるって寸法よ。」

「そんな簡単に……。同種以外で言うことを聞くでしょうか?」

「恐怖による支配ならそれも可能だけどね。でも爽やかにぶっ飛ばせば友達になれそうじゃない?」

「無理でしょ。言ってること滅茶苦茶ですよ?」


 ルイベリアとシルニカの元教師と元生徒の掛け合いに乾いた笑いがこぼれる。

 何故ならこの話の中心に居るのがレッド本人であると自覚しているからだ。


(俺剣士(セイバー)なんだけど……。)


 そう突っ込まずにはいられなかったが、楽しげな会話を切るのはダメだろうと口を閉ざした。



 ライトとディロンは精霊王の力を借りて魔導戦艦から飛び立ち、難なく地面へと降り立つ。すぐさま城を目指さなかったのは情報収集を目的として都市内を歩くためである。


 綺麗に整頓された多くの建物の間を悠々と通る。何故だか人っ子一人居ない都会の中心部。閑散を通り越して不気味である。


「おいおい、屋台もやってねぇのか? 今丁度腹が減ってるってのによ。」


 ディロンは頭をボリボリと掻きながらぼやく。

 帝国の異様な様子に警戒しながら睨みを利かせているライト。

 その背後からヒョコッと顔を出したのはウルラドリスだ。


「お腹空いてるならこっそり入って食べちゃおうよ。どうせいないんだし。」

「火事場泥棒はみっともないぞ。それにここで何かあったのか分からない内から盗ったり食べたりするのは得策じゃない。何か別の罠が張ってそうでな……。」


 ライトが喋りながら振り向いた時、既にそこに2人の姿はなく、青果市場と思われる場所で果物をあさっていた。


「おい。人の話を最後まで聞けよ。」

「ぐだぐだ言ってんなよライト。腹が空いてちゃ暴れられねぇだろうが。」

「えぇ~……アタイ肉が良いんだけどぉ。」

「俺だって本当は肉が良いけどよ、焼いてる暇がねぇからこいつで我慢してやるぜ。」

「む~……しょうがないかぁ。」


 ディロンに置いて行かれそうになったところを無理やりついてきた手前、わがままを自嘲したウルラドリス。抱え込める限界までリンゴのような果物を腕に抱え、流石の咬筋力で歩きながらバリバリと食べていく。


「まったく……。」


 ライトは何かの時用に忍ばせておいた金貨を取り出して台の上に置いた。物価がどれほど違うのか定かではなかったが、誠意の表れとしてわずかばかりのお金を支払う。


「ケッ、律儀な野郎だぜ。食うか?」


 差し出された果物を前に首を振るライト。遠慮なしにバリバリと食べる2人を尻目に現状を整理する。


「人が見当たらないのはきっと避難しているからだろうな。今の段階で戦いの痕跡が見当たらないということはまだ戦闘は始まっていないのだろうけど、これは情報収集どころじゃなくなってきたな。」

「ああ、聞きようがねぇぜ。居ねぇんだもん。」

「じゃ兵士に聞きに行こうよ。」

「それじゃこっそり入った意味ねぇだろうが。」

「いや、こうなったら仕方がない。偵察に行っている精霊たちが戻ったら寄り道せずに城を目指そう。」


 逃げ遅れた人が居ないか注意深く観察しながら進むライトたちの元に精霊が帰ってきた。それぞれが行った先での情報をまとめると、水帝ジュールは避難先を見てきたようで人がそこに集中しているのを目撃。地帝ヴォルケンは防壁付近を散策し、衛兵を何人か見つけた。

 しかし衛兵にも見えていたらしく、少し追いかけられるという珍事件があったが、何とか撒くことに成功した。

 そして風帝フローラはライトたちが目指す城の道を先に見に行っていた。


『この先に血痕がいくつもあった。既に戦闘の後やもしれんぞ?』

「それにしては綺麗に保たれ過ぎているように思えるが……いや、ありがとうフローラ。ジュールもヴォルケンもありがとう。これで心置きなく城を目指せるよ。」

『お安い御用。とでも言っておこうかの。』


 得意げな精霊たちと合流して城を目指す。

 道中、フローラの発言通り、血痕がこびり付いているのが見えた。ただ、死体は残っておらず、片付けの途中といった印象を受ける。


「出血量が異常だ。なのに不思議なことに死体があったような痕跡がない。まるで遺体だけが消失してしまったかのような……。」

「屍肉食らいの魔物が食っちまったんじゃねぇの?」

『いや、それはない。周りが魔障壁に囲われているのは周知の通りだろうが、それを踏まえた上で魔物が侵入出来るような穴はなかった。もし我らと同じように魔障壁に干渉するような力を持つ魔物が居たのなら、そんな危険な魔物はデザイアの侵攻の前に絶滅させられているはずだ。』

「じゃ、血液以外を溶かしちまう力だ。」

「え、怖っ。何のために?」

「そうだな。肉が食えねぇから溶かして啜るとか? 知らねぇけど。」

「まどろっこしい。美味しくなさそうだし。」

『ま、冗談はこのぐらいにしときなさいな。ほら、迎えが来たえ?』


 水帝ジュールが指さした先に剣を携えた兵士と思しき男たちが走って来た。あっという間に取り囲まれるライトたち。


「……見ない顔だな。精霊を連れている奇怪な連中が街をうろついていると情報が入っていたが……。」

「すまない。驚かせるつもりはなかったんだ。」

「ふんっ。何の用か知らんが、まずはこちらの問いに答えてもらおう。貴様らはデザイア軍の手先か? それとも火事場泥棒か?」


 ウルラドリスの抱え込んだ果物を顎で指す。


「オメーまだ食ってなかったのかよ。」

「だってぇ~……。」

「いや、これは誤解だ。買ったんだ。それとデザイア軍の手先じゃない。俺たちはそのデザイア軍を倒すために協力を要請しに来たんだよ。」

「なに? デザイア軍を……討伐すると?」


 囲んだ兵士たちは目配せをしながらライトの真意を探ろうとするが、兵士は剣を抜いて威圧行為に出た。


「間が悪かったな。つい先ほど、帝国はデザイア軍の手に堕ちた。逆賊は城主の前に連れていく必要があるのだ。大人しくしていれば痛い目に合わなくて済むぞ?」


 じりっと石畳を踏みしめ、今にも飛び掛かってきそうな雰囲気を見せる兵士たち。


『どうするんじゃライト? 撤退なら粉塵を巻き起こすが?』

「……いや、良い。むしろ好都合だ。ここで連れて行ってもらえれば難なく城主の元まで辿り着ける。」

「そりゃいいな。城主様の間抜け面を拝んでやろうぜ。」


 ライトたちは武装解除し、兵士に従って城へと案内される。


 既に戦ったとは思えないほどの綺麗な景観に圧倒されながら城に入った。


(ここに来るまでに血の跡がいくつもあったが、見た限り争った様には見えなかった。兵士には精霊が見えている。一時の俺やディロンよりも強力な力を有しているのは想像に難くない。もしかしたら今の俺たち以上か? しかしそれほどの戦力を持っていながら戦いを放棄するとは……いったいどれほどの戦力差なんだ?)


 実際に戦闘を見たわけでもなければ、剣神が途方もなく強いということぐらいしかイメージを持っていない。考えれば考えるほどに想像の敵が肥大し、収拾がつかなくなってきた。

 その点ディロンたちは素直に今の状況を楽しんでいる。城内の風景など冒険者などという荒くれ者ではまず拝むことが出来ないし、大陸の違いで内装のデザインや植えられている植物も変わってくる。

 芸術の機微など到底理解出来ないよなディロンも珍しい光景に目移りしているのが分かった。


「うるさい奴らだな。貴様らどこの出身だ? 都会に憧れた田舎者風情がデザイア軍に勝てると本気で思っているのか?」

「は? 田舎とか都会とか関係ねぇから。戦うことなく城を明け渡したオメーらと一緒にすんなよ。」

「貴様……っ!?」


 兵士は剣の柄に手を掛けるも、苦々しい顔をしながら前を向いた。ディロンが放った言葉は正論だ。返す言葉もなければ『田舎者風情』と初手で罵った自分に非があると悟り、恥ずかしさから閉口したのだ。


「……おい。煽るなよ。帝国まで敵に回すつもりか?」

「それは不味いよね。」

「そのつもりなら最初からブラブラしてねぇよ。けどまぁ、こいつらの中に巣食う病魔は分かったぜ。俺がそいつを払ってやるよ。」


 ディロンはニヤリと笑う。不穏な空気を感じながら通された玉座の間は思った以上に天井も奥行きもあり、かなり広い印象を受ける。

 肝心の玉座に座っているのは王冠は被っているが、皇帝の風格がない若い男性。その男性の姿にライトとディロンは驚愕した。


「お、おいライト。あいつ……。」

「陛下っ!街で彷徨(うろつ)いていた怪しい奴らを引っ捕らえました!」


 背後で小突かれたライトとディロンは前に出た。本来なら小突いた兵士を睨み付けるくらいの反骨心を見せるディロンも目の前の男から目が離せなかいほどに驚く。


「おっ!おおっ!!マジかよおいっ!!」


 玉座から立ち上がった男は砕けた口調で笑顔になった。肌は青白く変色し、体もひと回り以上大きくなったというのに何故ピンと来たのかは2人にも分からなかったが、強烈に、まるで稲妻が走ったかの様に浮かび上がったのだ。

 こんなところで会う筈もない人物の顔に一瞬名前が出てこないほどだったが、程なく喉の奥から自然と漏れ出た。


「リック……タルタニアン?」

「覚えていたか?!はははっ!!そうだよっ俺だっ!リック=タルタニアンだっ!!」


 玉座の前で手を広げてその存在をアピールした。

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